"母ちゃんへの三千円" 第14話
再びの野駅と親方のゲンコツ
、母の容態が完全に定したのを見届け、吉雄は再び青森駅のホームにっていた。
見送りに来てくれたハナエと留吉のには、吉雄が京から買ってきたお産のキャラメルがしっかりと握られていた。
「吉雄兄ちゃん、またお正にな!」
「おう! 母ちゃんのこと、頼んだぞ! 留吉、わがまま言うんじゃねえぞ!」
再び乗り込んだ夜列の窓から、を振る弟たちの姿を見つめながら、吉雄のにはもう迷いはなかった。
半にこの列に乗ったは、と寂しさで押しつぶされそうだった。けれど今の吉雄には、帰るべき所と、待っていてくれるたちが京にいた。
翌朝、夜列は再び野駅のいホームへ滑り込んだ。
改札をると、の終わりを迎えた京のは、オリンピックの閉会式を終え、どこか誇らしげな落ち着きを取り戻していた。
田区の町へ戻ったのは、午だった。
の引き戸をけると、をつんざくような械の回転音と、懐かしい切削油の匂いが気に吉雄を包み込んだ。
キィィィィン、ガガガガガッ!
旋盤のにつ親方、武夫さん、耕平さんのが、斉にを止めて振り返った。
「……親方! ただいま戻りました!」
吉雄が作業着のバッグを元に置き、直でをげた。
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親方は械の源を落とすと、首に巻いたぬぐいで顔の汗を拭いながら、ずかずかと股でづいてきた。
そして——。
ゴツンッ!
頂部に、懐かしい鈍い衝撃がった。
「痛ってぇ……!」
を押さえて見げると、親方が苦虫を噛み潰したような顔で仁王ちしていた。
「挨拶の声がせえんだよ! 京と青森を往復して、腹の底から声すのも忘れちまったか!」
「す、すみません!」
「……お袋さんはどうだった」
親方の声のトーンが、わずかにくなった。
「はい! もがって、先が『あと週で退院できる』って言ってくれました! 親方からいただいた万円のおかげで、入院費も全部払えました! 本当に……本当にありがとうございました!」
吉雄が再びをげると、親方はふんとくを鳴らした。
「そうか。ならいい。……おい、おかみ!」
母に向かって鳴ると、奥からおかみさんがエプロンでを拭きながらりでびしてきた。
「まあ、吉雄ちゃん! お帰り! 顔良くなったじゃないの!」
「おかみさん、すいとんとおにぎり、本当にごちそうさまでした!」
「いいのよ、いいのよ。無事で何よりだったわ。ほら、お腹空いてるでしょ、お昼ご飯たくさん炊いてあるからね!」
の空気が、瞬でパッとるくなった。
耕平さんが吉雄の肩をバシッと叩き、武夫さんが「留守の、おの分の掃除が変だったんだぞ」
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と笑いながらやかしてくる。
親方は自分の旋盤へ戻りかけると、ふとを止め、振り返らずに言った。
「おい、吉雄」
「はい!」
「作業着に着替えたら、番旋盤のにて」
のの全員が、息を呑んで親方を見つめた。
番旋盤——普段は予備として置かれている、番型の古い旋盤だった。
「掃除と油洗いは、昼飯のに武夫に伝わせろ。おは今から、端材を使って芯しの練習だ。……報にいただろ。『旋盤空けて待ってる』ってな」
「親方……!」
吉雄の胸の奥から、いものが気に込みげてきた。
ただの僧の雑用係から、本物の見習い職への第歩。
親方は吉雄が逃げさずに戻ってきたことへの何よりの褒美を、その無骨な言葉で差ししてくれたのだ。
「ぼさっとしてんじゃねえ! 分で着替えてこい!」
「はいッ! すぐきます!」
吉雄は階の階段を、羽根がえたような軽やかさで駆けがっていった。
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