"最後の伝書鳩" 第2話
に残った
川原は、夜のうちにをる案も考えた。負傷者を背負い、崩れた斜面をずつ越えれば、敵の見張りが移るにへられるかもしれない。だが田島をかせば、途で全員が止まる。川原はその案をにせず、朝まで待つことにした。
「軍曹、戻れますか」
岸がさく聞いた。
川原は度だけ頷いた。確信があったわけではない。ただ、部たちが聞きたいのは確率ではなく、むための言葉だとっていた。
夜がける直、田島はに浮かされて母親の名を呼んだ。川原は返事をせず、濡れた布を額に当て直した。彼はそので「丈夫だ」と言うこともできたが、約束できない言葉をにするのをやめた。
の夜は、音が止むたびに別の音を運んできた。岩の向こうでが流れ、斜面からが落ち、くでが呼ぶような声がした。川原は部たちに、返事をするに音の方向を確かめろと言った。敵の声かもしれないからだ。
川原たちは、敵を倒すことより、峠を塞がないことを命じられていた。の入に残るは、敵のむ速度を遅らせることだった。必なが過ぎたら戻る。それだけの命令が、崩落ひとつで取り返しのつかない待に変わった。
本隊が引いた、のに置かれていた目印は流されていた。
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川原は枝をて直したが、増したがまた倒した。彼はその枝を見つめ、部に「を探す」とだけ告げた。戻る方法を見つけるのが自分の役目だと、誰にも音を見せなかった。
ので、関が番よく話したのは岸等兵だった。岸は徴兵、神戸の菓子で働いていたといい、休憩には砂糖を使わない甘い菓子の作り方を語った。誰も信じなかったが、彼は「を焦がすと、し甘くなる」と真面目な顔で説した。
田島は、部隊で番若かった。実に妹がいて、帰ったらの伝いをしながら学へ戻るつもりだと言っていた。川原はその話を聞くたび、「帰ってから考えろ。今は元を見ろ」と注したが、田島はいつも「はい」と答えた、同じ話を続けた。
関が最に川原と別れた、川原は鳩籠を見て、「鳥は命令を聞かないからいいな」と言った。関は、そのを聞かなかった。今えば、川原はの命令に従うしかない兵たちのことを考えていたのかもしれない。
へ残ったは、敵を止めするために勇んで志願したわけではなかった。命令を受け、を守り、戻る刻を待っていただけだ。だからこそ、彼らが帰らなかった理由を、誰かが確かめなければならないと関はった。
第分隊がに残されたのは、命令違反でも、迷子になったからでもなかった。
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の午、先をんでいた隊がので敵の銃撃を受けた。幅は狭く、荷を引き返すだけの余裕もない。輪は負傷者を先に峠へ送るため、川原軍曹の第分隊にの入を守るよう命じた。
「が落ちるには戻れ。図がなければ、尾根を使え」
それが輪の命令だった。
川原は「解」と答えた。分隊にはがいた。は召集されてもない若い兵で、は脚を負傷していた。残りは齢ももばらばらで、戦へ来てから同じ飯をべるようになった仲だった。
関はそのにいた。伝鳩の籠を運びながら、川原が若い兵の襟を直してやるのを見た。兵隊らしくしろと鳴る代わりに、首のろへ入り込んだ葉を取ってやっていた。
「帰ったら、鳩の餌を分けてくれよ」
川原が関に言った。
「帰ったら、いくらでも」
関はそう答えた。
が暮れる、ので度目の崩落が起きた。岩と砂がを塞ぎ、第分隊は退を失った。無線は濡れて使えず、伝令にた兵は戻らなかった。の斜面には敵の見張りがいる。彼らがから抜ければ、退の本隊がいる峠まで敵にられるおそれがあった。
川原は、残った兵を岩へ集めた。
「無理に登るな。夜がけてから、崩れた所を確かめる」
「本隊は待っていますか」
若い兵が尋ねた。
「待っている」
川原は即答した。
そのは、そう信じていた。
しかしは夜通しり続いた。底のかさが増し、兵たちはを寄せて夜をかした。脚を負傷した田島はをし、乾いた包帯も残りなくなった。川原は部たちを眠らせようとしたが、誰も目を閉じなかった。
け方、くの尾根に本隊のが見えた。
兵たちは声をげた。だが、声はと砲声に消え、を振っても向こうから反応はなかった。本隊はのを避け、別のへんでいった。
「見落としたんだ」
田島が言った。
川原は答えなかった。見落としたのか、全員がんだとわれたのか、それとも救援をせないのか。どれもあり得た。
の奥には、古い炭焼きがあった。川原はそこに負傷兵を残し、ける者を連れて別の斜面を探った。は見つからなかった。戻る途、敵の巡回に気づき、全員で岩の裂け目へを隠した。
そのの昼、川原は崖のに羽の鳥が止まるのを見た。
の鳩だった。
だが鳥はすぐにびち、の向こうへ消えた。
「本隊へ伝えられたらな」
若い兵が呟いた。
川原は、返事をしなかった。
はきていた。なくとも、そのまでは。
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