"最後の伝書鳩" 第3話
最の籠
関は、鳩がぶに体を軽くするため、籠のの入れをした。トキは満そうに鳴いたが、関は指先を格子に当てたまま、「戻ったらめ」とさく言った。自分の言葉が鳥に届くとはっていない。それでも声をかけずにはいられなかった。
伝鳩の筒には、決まった形のしか入らない。折り方を違えると、ぶに揺れて鳥の脚を傷める。関は報告を細く畳み、角がへないよう油で包んだ。面の裏にいた文字が、筒ので擦れて消えないよう、鉛の芯をく押し当てていた。
トキは鳩舎で育った鳥ではなく、方の飼育所から運ばれてきた。関の故郷をっているわけでも、彼を主だとっているわけでもない。それでも籠をければ、命令ではなく習性に従って、見らぬ空へ帰ろうとする。その頼りなさを、関は信じるしかなかった。
関は、トキの脚に筒を結ぶに、羽の根元を指で確かめた。ぶ鳥に無理な力がかかれば、途で羽が抜ける。トキは痛そうに首を振ったが、逃げようとはしなかった。関は餌をひとつ掌に置き、鳥がべ終わるまで待った。
父の鳩舎では、ばすに鳥のへ細い糸を結んでいた。戻ったに擦れていないか、糸が残っているかを見るためだった。関は今もその癖を忘れず、筒の結び目を度確かめる。
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あのさな作業だけは、戦へ来ても父から教わった通りだった。
佐伯は、無線の池を分解しながら、壊れた部品をひとつずつ並べていた。直せないと分かっていても、何もせずにいるよりはましだという。彼は若い頃、気で働いていた。部隊のでは無だったが、壊れた械をにすると、誰よりもく向きった。
「も、部品みたいに取り替えられれば楽なんだがな」
佐伯の呟きに、関は答えなかった。鳩もも、壊れたら元に戻るとは限らない。だからこそ、べるうちにばすしかなかった。
関が通信隊へ入ったのは、鳩を飼っていた父親の響だった。
の裏にさな鳩舎があり、父は朝になると籠の戸をけ、鳩が戻るのを待った。くへばした鳩は、夕方になっても戻らないことがある。父はそのたびに、「帰る所を忘れたわけじゃない」と言った。
「腹が減れば、が変われば、きっと帰ってくる」
関はその言葉を信じていた。
軍に入ってから初めて伝鳩を扱った、彼は鳥を兵器の部のように呼ぶことに抵抗を覚えた。鳩は命令を理解してぶのではない。自分の巣へ帰ろうとしているだけだ。その習性をが利用しているにすぎない。
トキは、通信隊の鳩のでも気のい羽だった。餌をやる、の鳩がづくと翼を広げて追い払う。
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だが度籠からすと、関の肩へ戻ってくることがあった。
「おは帰る先を違えるなよ」
関は、籠の格子越しにトキを見た。
通信隊の古参兵、佐伯が隣にしゃがんだ。
「鳩に話しかけても、命令は聞かんぞ」
「命令を聞かないから、帰れるんです」
関の答えに、佐伯はさく笑った。
「そういうところが、おの面倒なところだ」
佐伯は無線の修理を担当していた。部隊が峠へ移る、彼は濡れた無線を分解して乾かしていた。線をつなぎ直しても、雑音が混じるばかりだった。
「基の飼育所までべば、向こうで受信できるかもしれん」
佐伯はトキを見た。
「だが、今ばすと、帰りで撃たれる」
「ばさなければ、のがいないままになる」
「のを助けようとして、百を危険にさらすこともある」
関は返事をしなかった。
佐伯が言うことは正しかった。鳩が敵のに落ちれば、伝言は読まれる。の位置だけでなく、本隊の退先もられるおそれがある。鳥をばすことは、ただ通のを送ることではなかった。
輪尉は、兵を呼び集めた。
「へ戻る余裕はない。今夜、全員が峠を越える。報告には第分隊を未帰還とく。鳩で本部へ連絡するのは、部隊が全な位置までがってからだ」
誰も反論しなかった。
輪は、無理に酷な顔を作っているように見えた。
夜、負傷兵を担架に乗せるため、自分の筒を渡していたのを関は見ている。決断のさは、輪の肩にも乗っていた。
「関」
「はい」
「鳩をばせるようにしておけ。いつでもせるようにな」
それは命令だった。
だが、何を伝えるためにばすのかは言われなかった。
午になると、砲声がづいた。通信所のくに落ちた砲弾で、面が揺れ、鳩籠のつが横倒しになった。べない鳩は翼を打ちつけ、息を荒くした。関は籠を起こし、布をかけた。
トキは、かなかった。
籠の底には、濡れた羽が本落ちていた。
「こいつも無理かもしれん」
佐伯が言った。
関は、羽を拾って指先で挟んだ。
「ぶかどうかを決めるのは、俺じゃありません」
「なら、せめて帰る所だけは違えないようにしろ」
佐伯はそう言い残し、無線のところへ戻っていった。
夕方、伝令が側の尾根から駆け戻ってきた。だらけの顔で、片には濡れた布切れを握っていた。
布には、炭で数字がかれていた。
。
それから、発の銃声。
関は布をにしたまま、輪尉のところへ向かった。
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