みかん小説
本棚

"最後の伝書鳩" 第4話

命令にない名

輪は、から聞こえた銃声を敵の図かもしれないと判断した。もしそうなら、関が見た布も、誰かが本隊を誘い込むために置いたものかもしれない。彼は関の観察を疑ったのではない。正しいと信じるには、部の命を賭ける必があった。

輪は、若い頃に度だけ、連絡の途絶えた部隊を待ち続けたことがあった。夜けまで待った、彼は負傷者を抱えて退した。、その部隊は別のから戻ってきたが、待に敵の砲撃を受け、彼の部がんでいた。

それ以来、輪は「待つことも命令だ」と考えるようになった。待ち続ければ誰かが助かることもある。待ち続けたせいで、別の誰かがぬこともある。彼がすぐに救援を決められないのは、たさからではなく、そのつの結果をっていたからだった。

輪は、図の端に自分ので記した古いを見つめていた。は季になると崩れ、現の炭焼きたちしか使わない。以、斥候としてへ入ったに聞いただった。正規の図に載せれば、から別の部隊が用に使うかもしれないため、彼は記録に残していなかった。

「おがく所が敵に渡れば、川原たちは先に見つかる」

輪は言った。

「分かっています」

「本部が救援をさず、この報告だけが戻ってくることもある」

広告

「それでも、がいたことは届きます」

輪は顔をげた。関が救援を確実だとっているのではなく、救援がなくても名を残そうとしていると、ようやく気づいたようだった。

その、佐伯が無線から顔をげた。雑音の奥に、い音が混じったという。言葉にはならなかったが、の方向から送られた能性がある。彼は受信のつまみをかし、再び同じ周波数を探したが、音は度と戻らなかった。

「の図だといます」

関が布切れを差しすと、輪は数字を見た。炭の線はで崩れていたが、「」と読むことはできた。

「どこで見つけた」

「の側です。尾根の向こうから、発撃ったに落ちていました」

「敵が置いた能性は」

「あります」

関は正直に答えた。

「だが、川原軍曹なら同じ図を使います」

輪は布を机のに置き、図を広げた。から本隊がいる所まで、直線ならくない。だが崩落した斜面と敵の見張りを避けると、帰りは何倍にも伸びる。

「鳩を使えば、位置は本部へ届きます」

「届いた、誰がく」

「本部が判断します」

「判断するまでに、何かかる」

関は答えられなかった。

輪は図のに鉛を置いた。

「こちらが鳩をばしたことを敵に見られれば、通信所の位置が割れる。敵が先にへ回れば、川原たちも終わりだ。

広告

救援をすために、残った者まで危険にさらせない」

「では、何も伝えないんですか」

「未帰還であることは報告する」

「きているかもしれないのに」

輪は関を見た。

「きているかもしれない者は、にもいる。全員を救うために全員を危険にさらす命令はせん」

その言葉に、関は何も言えなくなった。

輪が無責任ななら、従わない理由は簡単だった。だが輪は、負傷者を置いていくことも、部の命を軽く扱うことも望んでいない。命令を守ることが、今残っている百をかす最善のだと考えていた。

「報告用を持ってこい」

関は机へ戻った。

印刷された用には、部隊名、現、退先、残数を記す欄があった。輪の指示どおりなら、「第分隊未帰還」とき、鳩をばすのは峠を越えてからになる。

しかしのがきているなら、峠を越えたでは遅いかもしれない。

報告の裏面はかった。

関は鉛を握ったまま、しばらくけなかった。

佐伯が、鳩籠の横にしゃがんでいた。

「おがいたものを、鳩は運ぶだけだ」

「分かっています」

「受け取ったがどうするかは、分からん」

「それも分かっています」

「なら、何をく」

関は顔をげた。

「名です」

佐伯は、報告を見た。

「名をいて、どうする」

「をのままらせます。未帰還という欄にまとめてしまわないように」

佐伯はそれ以何も言わなかった。

輪が戻ってきた。報告を差しすようを伸ばす。

「正面は命令どおりに記入します」

関は言った。

「裏面には、の位置との図をかせてください」

「それは命令にない」

「はい」

「鳩をばせば、敵に見られるかもしれん」

「はい」

「本部が救援をさないかもしれん」

「それでも、名と所は伝わります」

輪は、関のから報告を取りげなかった。

い沈黙の、彼は図の点を指した。

「のはここだ。ここを通ると、敵の見張りに見つかる」

鉛が、別の斜面へいた。

「崩れた炭焼きがある。図にはていない。川原ならっているはずだ」

輪はそこで言葉を切った。

「くなら、違えるな」

関は、命令を許されたのだとはわなかった。輪は「ばせ」と言っていない。それでも図に、救援が通るを示した。

その、峠のから銃声が響いた。

今度は、発ではなかった。

く発。しを置き、さらに発。

佐伯が振り返った。

「図の返事が違う」

関のが止まった。

あの音は、川原たちの図ではない。

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: