"最後の伝書鳩" 第6話
空を渡るもの
関は、報告が届いたと聞いても、すぐにはできなかった。にいたを救援隊が正しく読めたのか、の入がまだ通れるのか。結果が分かるまで、彼にできることは次の報告を待つことだけだった。
輪は、関が空を見げるたびに何も言わなかった。鳩が戻るかどうかを尋ねても、誰にも答えられない。彼はただ、報告が届くに部隊が分散しないよう、移の順番を何度も確認していた。
そのの夕方、関は空の端に鳥の群れを見た。数羽がにあおられ、同じ所を回ってからの向こうへ消えた。トキもあののをんでいるのだろうか。考えても答えはず、彼は担架を持ちげるために列へ戻った。
夜け、関は目を覚ました。根の隙から見える空は、がく流れていた。鳥がべる気かどうかを考え、びつにトキの翼が度だけ傾いたことをいす。に押されたのか、傷めたのか、確かめる方法はなかった。
彼は籠をける、鳥のさを掌でじた。命令を伝えるより、鳥そのものの方がずっと軽かった。だがそのさな体に、部隊の運命を預けた。ができることをやり尽くしたに、最のつを空へ放したのだとうことにした。
部隊が集落跡をる、関は度だけろを振り返った。
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に濡れた根の隙から、い煙が細くがっている。誰かがを焚いた跡か、砲撃で燃えたの煙か分からなかった。
軍の列には、包帯を巻いた兵が何もいた。を引きずる者、肩を借りる者、担架ので識を失っている者。関はずつ数えようとして、途でやめた。数字を数えるたびに、名簿のがに浮かぶからだ。
佐伯は負傷した肩をかばいながら、無線の部品を背負って歩いていた。関が荷を持とうとすると、「自分で持てるうちは持つ」と断った。しんだところで彼はち止まり、のを見た。
「鳥は、あのの切れ目を抜けたかもしれんな」
「トキなら、の流れを見てびます」
「より賢いな」
「は、どこへ帰るかを決められますから」
佐伯はその言葉を聞き、返事をしなかった。
部隊が全帯へ着くまで、関は何度も空を見た。鳩のは見えなかったが、見えないことと、戻らないことは同じではない。父がそう言っていた。
鳩は、のいところを避けるようにんだ。
関は、翼が見えなくなるまで空を見ていた。トキはの方へみ、それから尾根のでさく円を描いた。に押し戻されているのか、を探しているのかは分からない。
「戻るかもしれない」
佐伯が言った。
「鳩は度んだら、戻る所を選びます」
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「それなら、帰る所が違えば戻らないな」
「はい」
輪は撤収命令をした。通信隊は無線を解体し、報告の控えを防袋に入れた。関は鳩籠を空のまま背負った。籠が揺れるたび、何かを失ったような音がした。
峠を越える途、敵の銃弾が岩に当たった。部隊は伏せ、担架を側の窪みに滑らせた。輪が負傷者を数え直し、佐伯が最尾へ回る。関は、空を見げる余裕もなかった。
付が変わる頃、部隊はさな集落跡へ着いた。根の半分が崩れたにを寄せ、夜がけるのを待つことになった。無線はまだ使えず、本部からの連絡もない。
「鳩が着けば、の昼までには返事がある」
佐伯が言った。
「にいますか」
「何にだ」
関は答えなかった。
のに料が残っているか。田島のはがるか。敵が先に見つけるか。鳩が本部へ届くか。どれかつでも悪い方へ転べば、救援はにわない。
翌朝、輪は関を呼んだ。
「報告の裏に何をいた」
関は、いた通りに説した。
「名、所、通り、それから責任を負うという文です」
「の図は?」
「いていません」
輪はうなずいた。
「本部から返事が来るまでは、誰にも言うな」
「分かりました」
「命令違反として扱われるかもしれん」
「承しています」
「鳩が落ちた、俺たちの位置も危うくなる」
「はい」
「それでも放したんだな」
「はい」
輪は窓のない壁を見ていた。
「俺は、止めなかった」
その言葉に、関は何も答えなかった。
午、隊の先にいた兵が、峠の向こうで羽の鳥を見たと報告した。の鳩がくび、川筋へ沿ってへ向かったという。
関は、トキが本部の飼育所へ向かっているのだと考えた。だが鳥がどこまでべたのか、筒が脚に残っているのか、確かなことは何もない。
その夜、敵の砲撃で集落跡の壁が崩れた。佐伯は肩を負傷し、輪は頬を切った。関は担架を持つ者の列に加わった。鳩のことを考えないようにしたが、籠の格子が目に入るたび、空へ放したの触が戻ってきた。
目の朝、伝令が峠の向こうから駆けてきた。
「本部から連絡です。方の通信所に、伝鳩が羽戻ったそうです」
関は息を止めた。
「筒は?」
「報告が入っていたと」
輪は、伝令の顔を見た。
「返事は来たか」
「まだです。ただ、救援隊が編成されたと聞きました」
誰かが堵の息をついた。
関は、に置かれた空の籠を見つめた。トキが運んだものは届いた。けれど、裏面まで読まれたかどうかは分からない。
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