"最後の伝書鳩" 第7話
方の飼育所
野沢は、トキの脚に薬を塗りながら、鳩が運んできたをもう度見た。鳥は疲れて目を閉じていた。野沢は籠のへ布をかけ、の角を押さえた。鳥を休ませることと、名を読み違えないこと。その両方が彼の仕事だった。
尉は発、報告をもう度読み直した。図の線は荒く、位置の説もい。それでもの名があることで、探す所を絞る掛かりになった。彼はを折り直し、濡れないよう着の内側へしまった。
救援をすと決めたも、野沢は報告を机のに置いたままにしていた。の裏にある名を、何度も確かめる。読み違えれば、別のを別の所へ探しにくことになる。彼はの名をさなへ写し、発する尉へ渡した。
「帰った者には、本の名を確かめてください」
野沢はを押した。
「名簿の数字だけをわせて終わらせないでください」
はを受け取り、胸ポケットへ入れた。鳩が運んだは、もう度、のでへ向かうことになった。
野沢は、伝鳩が戻るたびに、まず翼を確かめてから筒をすよう教えられていた。鳥が傷を負っていれば、より先に当てをする。は待てるが、命は待てないからだ。
トキの脚は擦れていた。野沢は筒をし、鳥を温めた籠へ移した。
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それから報告をいた。正面にある数を通信兵へ渡した、裏にかれた名を見つけた、彼は指を止めた。
野沢は戦へった息子を持っていた。息子から届いた葉は、検閲の印と定型文ばかりで、本が何を考えているのか分からなかった。名だけでも確かめたいとう親の気持ちは、彼にはよく分かっていた。
本部の会議では、救援をすことに反対する者がかった。へ入る隊が全滅すれば、報告のに加えて、さらにの名が増える。野沢は作戦を決めるではなかったが、を持ってきた鳩の姿を見て、黙っていられなくなった。
「関伍は、救援が必ず来るとはいていません」
彼は言った。
「それでも所と名を送った。判断を本部へ返したんです」
その言葉が、発を決める最の押しになった。
トキが戻った、方の飼育所では、古参の鳩係である野沢が夜けの餌を用していた。
鳩は根の縁にり、片を引きずりながら籠へ入った。野沢は見慣れない筒を見つけると、すぐに通信所へらせた。
「どこから来た」
伝令に付いた札には、関がいた部隊の番号が記されていた。野沢はその番号を何度も読み、筒をした。
からてきたのは、で湿った報告用だった。
正面には、部隊の退状況と数がかれている。
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野沢は必な部分を通信兵へ渡し、すぐに本部へ送らせた。を折り畳もうとした、裏面に鉛の文字があるのに気づいた。
名と数。
それから、の名。
野沢は顔をげた。
「このは、どこにいる」
通信兵が図を広げた。の所は細かく記され、炭焼きの通り方までき込まれている。記載した者の名は、最にさく添えられていた。
関清。
本部では、すぐに救援をすかどうかで見が割れた。の位置は敵の線にく、兵を戻せば退の部隊にも危険が及ぶ。のは確認されておらず、記録はの伍がいたものだった。
「正式な報告にない分隊だ」
参謀のが言った。
「未帰還だといてある」
別の者が返した。
「の確認はない」
「それでも名と位置がある」
「報告にない所をくのは危険だ」
野沢は、議論を黙って聞いていた。
「鳩は、どれくらいびましたか」
「約キロです。のを戻っています」
「では、このを持たせた伍は、鳩が本当に届くと信じていたんでしょう」
「それと救援をすかどうかは別の話だ」
参謀は、報告の裏を裏返した。
「この文は何だ」
「命令にない記載をした責任は、自分が負う、と」
そのにいた者たちは黙った。
救援隊は、すぐには発しなかった。先に偵察兵を送り、の側から位置を確認する。
無線が通じる所までづき、がいる証拠があれば、最数で連れ戻す。これが本部の決定だった。
救援隊の指揮を任されたのは、若い尉のだった。
「命令は、者の確認と回収。交戦は避けろ。発見できなければ引き返せ」
は命令を復唱した。
野沢は、筒を運んできたトキを見た。鳩は籠のでをみ、目を閉じていた。脚の皮膚が擦れて赤くなっている。
「この鳥は、もうべません」
野沢が言った。
「そうか」
「度んだら、帰る先へ帰った。あとはが決めることです」
は報告の裏を見た。
の名が、狭い面に並んでいる。
「このたちがきていると分かるまで、名を読んでおきます」
彼はずつ声にした。
「川原軍曹、田島等兵、岸等兵……」
名を読み終えると、はを畳んで胸ポケットへ入れた。
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