"最後の伝書鳩" 第9話
違反報告
配置換えの、関は報告の控えを探したが、元には残っていなかった。正面にかれた数字も、裏面に記したの名も、もう自分の記憶のにしかない。だから彼は、川原から届いたを捨てずに取っておいた。あのにいた者が、なくともは名を忘れていない。そのことが、関には切だった。
数、関は処分を受けたことを川原へらせるをいた。事を詳しく説する代わりに、「が帰った。それでよかった」とだけ記した。川原から届いた返事はかった。「帰れたのは事実だ。だが、おがしたことを正しかったと決めるのは、俺たちだ」。関はそのを、餌箱の底へしまった。
処分を伝えた官は、「結果が良かったからといって、順を無していいわけではない」と告げた。関は、その言葉に反論しなかった。正しい順を守っていればを失ったかもしれない。だが、結果が良かったから自分の判断が正しかったと決めることもできなかった。
配置換えの辞令を受け取った、関は通信所の机を片づけた。引きしの奥には、鳩の餌を測るために使っていたさな匙が残っていた。彼はそれを捨てず、布で包んで荷物に入れた。
佐伯は、何も言わずに無線の修理具を関へ渡した。
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もう通信隊では使わない具だったが、関は受け取った。輪はしれた所からを見ていた。誰も「正しかった」と言わなかったし、「違っていた」と言い切る者もいなかった。
事聴取の席で、関は何度も同じ質問を受けた。誰の指示で鳩をばしたのか。なぜ報告の裏にの名をいたのか。敵に通信内容をられる危険を理解していたのか。
彼は、質問のたびに同じ答えをした。
「自分の判断です」
「輪尉は、許したのか」
「許は受けていません」
「止めなかったのではないか」
「止められませんでした」
それは輪を庇うための言葉ではなかった。輪は止めなかった。関も、輪が図にを示したことを隠さなかった。ただ、命令には残っていない。そのにいた者のでしか分からないことだった。
川原は、事聴取のに関を訪ねた。
「俺が本部へ、全員で証言するよう言う」
「やめてください」
「なぜだ」
「が助かったことを、誰かの柄にしたくないんです」
「柄の話じゃない。記録の話だ」
関は、答えを見つけられなかった。
川原は、彼の顔を見たままちった。のには、助かったことへの謝と、危険にさらされたりが同に残っていた。
救から、関は輪尉とともに本部へ呼びされた。
報告の表に記された数と、裏にかれた。
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正規の指示を受けないまま鳩をばしたこと。敵に位置をられる能性を承で、通信の内容を変えたこと。
どれも事実だった。
「鳩をばす判断は、誰がした」
参謀が尋ねた。
「関伍です」
輪が答えた。
関は横を向いた。
「私が止めなかった」
「止めなかっただけですか」
「そうです」
輪は、自分が命令を許したとは言わなかった。関も、輪に命じられたとは言わなかった。責任はに集められ、記録には「関伍、報告を改変」と残された。
処分は、階級の段格と、通信隊からの配置換えだった。
輪は、関に謝ろうとした。
「俺が裏面をけと言ったわけではない」
「分かっています」
「それでも、止めなかった」
「それも分かっています」
「おだけが処分を受けるのはおかしい」
関は首を横に振った。
「俺がばしました。もきました。俺の判断です」
「それでいいのか」
「よくはありません。でも、名をいたことまで、誰かの命令にしたくないんです」
輪は、それ以何も言えなかった。
川原たちが救されたことは、隊のでられていた。だが、詳細をる者はなかった。関が命令にないことをしたという話だけが広まり、やがて「報告を勝にき換えた伍」と呼ばれるようになった。
川原は、度だけ関をかばった。
「俺たちが帰れたのは、あいつののおかげだ」
しかし、それで関の記録がき換わることはなかった。
戦況はさらに悪化した。部隊は何度も移し、兵は減り、連絡も途切れがちになった。関は通信隊かられ、補の仕事を伝うようになった。鳩を扱うことはなくなった。
トキは方の飼育所へ残ったと、佐伯から聞いた。
「あの鳥は帰ったんだな」
関が尋ねると、佐伯はうなずいた。
「脚を痛めたが、きている。今はばしていない」
「は」
「本部に残った。報告として保管されるらしい」
「裏も読まれましたか」
「読まれた。だが、記録に残ったのは表の数字と、おの違反だけだ」
関は、それ以尋ねなかった。
その、輪尉は別の部隊へ移り、川原たちも各へ散っていった。戦争が終わるまで、関は何度か転属を繰り返した。トキがどうなったのか、がどこへ保管されたのかをる会はなかった。
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