"卒業写真の空いた席" 第1話
空いた席
「先、京から料が届いても、母には全部渡さないでください」
卒業写真を撮る朝、組の窓際で、佐伯澄はそう言った。笑っているようにも、泣きしそうにも見える顔だった。
私は返事をしようとしたが、廊からに呼ばれ、言葉をのみ込んだ。写真が庭で待っていた。卒業式まで、あと3。教には、学先の決まった徒と、就職先の決まった徒が、いつもよりしびた顔で並んでいた。
昭403。田県のあいにあるさな学では、卒業する徒の半分くが、から町のへて働く。京や横浜の、商、旅館。
職業定所から届く求票を、担任が教で読みげ、徒たちは親と相談して希望をす。15歳のを、本だけで決められるはくなかった。
澄は、学で番の成績だった。県の推薦を受けられると、私は何度も勧めてきた。だが父親はの、仕事の事故で腰を痛め、母親は弟と妹を抱えていた。へむはない。澄は自分から「京の縫製へきます」と言い、族もそれに同した。
「佐伯はまだ来ていませんか」
写真が持ってきた黒い布ので、徒たちは順番に座った。列は膝にをね、ろの者は肩を寄せる。さっきまでふざけていた子も、レンズを向けられるとを閉じた。
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何も経てば、彼らがどこで暮らし、誰と族になったか、写真だけでは分からなくなる。それでも、卒業の記録だけは全員そろって残すものだと、私はっていた。
写真が持ってきた黒い布ので、徒たちは順番に座った。列は膝にをね、ろの者は肩を寄せる。さっきまでふざけていた子も、レンズを向けられるとを閉じた。何も経てば、彼らがどこで暮らし、誰と族になったか、写真だけでは分からなくなる。それでも、卒業の記録だけは全員そろって残すものだと、私はっていた。
写真が脚をてながら尋ねた。
「し遅れるそうです」
私はそう答えた。嘘だった。朝、職員に届いた欠席の連絡には、母親の字で「本は本、京へ発しました」とかれていた。卒業式より先にるなんて、聞いていない。私はそのを何度も読み返し、職員の話まで持っていったが、受話器を置いた。佐伯のには話がない。の駐所から呼びしてもらうしかなく、今からではにわない。
卒業のがづくにつれ、教の話題はで埋まっていた。へく者は制の採寸を気にし、就職する者は会社から届いた寮の規則を、何度も読み返していた。
澄はそのどちらの輪にもく入らず、休みには窓際で英語の教科をいていた。
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京へっても勉を続けるのかと聞くと、「夜、があれば」と答えた。
私はそのとき、彼女が仕事を選んだことを、もう受け入れたつもりでいた。
彼女の母親が相談に来たのは、2の終わりだった。父親はまだへ戻れず、計を支える現が必だという。澄は席をされ、母親と私だけで話した。母親は、女が京で働いているから、次女も同じようにできると言った。私は、その女が文子だとっていた。だが、文子から届いた賀状に結婚の報告があったと聞き、踏み込んで尋ねなかった。
集写真の列をえると、澄のいた所だけが空いた。隣の席の野律子が、写真の目を気にしながら、に落ちたものを拾った。卒業写真の注文票だった。裏には鉛でくかれていた。
「先、紹介状の所と、母に届く料の所が違います。あのたちに聞いても、答えてくれませんでした」
撮が終わるころ、が注文票を私から取りげた。
「庭が決めたことだ。余計な配をして、向こうの会社に迷惑をかけるな」
「本が相談してきたんです」
「もう発したんだろう。今さら何ができる」
はそう言って、注文票を机の引きしにしまった。
類の端には、私が面談をした付があった。面談は職員でわれ、会社のは来ていない。
澄が求票を読み、希望欄に丸をつけ、母親が印を押した。私は推薦理由をいた。それで必な続きは済んだとっていた。のの字はっていて、どこにも備はない。だからこそ、かれなかった活のことを、私は見ようとしていなかった。
澄は最の面談で、「仕事を覚えたら、夜に勉したい」と言っていた。私は、働きながら学ぶのは変だと答えた。彼女は「分かっています」と笑っただけだった。今えば、あのときの私は希望を応援するより、現実を説したつもりでいた。が決めたを受け入れることと、自分で選んだことは同じではない。
そのの放課、私は就職の類を確かめるため、職員の棚から佐伯澄の調査票をした。紹介先は、京都墨田区の青葉縫製株式会社。与の振込先欄には「本持参」とある。族へ送するの宛先は空欄だった。
では、澄の母に届くという料の所は何なのか。本が私に託そうとした言葉は、どこへ続くのか。
引きしの奥で、写真が置いていった試し焼きが枚、い封筒からのぞいていた。空いた席の周りだけ、皆が自然に肩を寄せて写っている。私はその写真を机に伏せた。
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