"卒業写真の空いた席" 第5話
封筒の
廊には、齢の違う女たちの靴が並んでいた。玄関脇に貼られた当番表には、事の支度と掃除の名がかれている。台所では、ひとりが噌汁を温め、もうひとりが洗濯物を畳んでいた。働く所は変わっても、彼女たちの暮らしは毎続いている。坂がどういうかを語るとき、彼女たちは単純に悪を言わなかった。仕事を紹介してくれたのは本当だし、をしたときに薬を買ってきたこともある。だから、料のことを疑う自分が違っているのではないかとい込んでいた。
文子は、へ帰れなかった理由を、借だけではなく、自分のさだとも言った。母親から届くには、弟が学したことや、父親がし歩けるようになったことがかれていた。帰ればばれると分かっていた。それでも、自分が送ったがでどう使われているのか、姉妹の暮らしをどこまで支えているのか、確かめるのが怖かったという。
川崎の寮は、から歩いて20分ほどの所にあった。古い造の階で、玄関には靴が並び、廊の奥から煮物の匂いがした。文子は、部の戸を閉めてから、ようやく腰をろした。
「澄は来ていません。でも、あの子が何を調べているのかは分かります」
文子は、青葉縫製の封筒を机に置いた。
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にあったのは、与細と送の控えだった。細の支額は、求票にかれた額とほぼ同じ。ところが、寮費、費、紹介料、借り分という項目が並び、元に残る額はその半分にも届かない。
「紹介料は、会社が払うものではないのですか」
「そう言われて来た子もいます。でも、坂さんは『おまえのにて替えた分だ』と言って、料から引いている。何をいくらて替えたのか、を見せてほしいと言うと、すぐに仕事をなくすと言われます」
「それで、あなたはに帰らなかったの」
文子は、しばらく黙った。
文子が初めて受け取った料は、現の入った封筒だった。働いたと額を確かめる方法をらず、寮の費を引かれたあとに残った札を数えた。へ送ると、母親から「助かった」とが届いた。次のも送らなければとった。送が遅れると、坂は「で待っているがいるんだろう」と言った。文子には、それが親切なのか、断りにくくするためなのか、区別できなくなっていた。
「最初は、母に本当のことを言えませんでした。は父のけがで借があった。私が帰れば、代わりに澄が働きにるとった。だから、結婚したことにして、京で暮らしているとをきました」
母親へ届いた賀状の跡が違う。それは文子が坂に頼んで、代してもらったものだった。
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帰省の旅費を貯めるに借が増え、何度か会社を移るうちに、戻る期を失ってしまったという。
「澄は、あなたが結婚していないとっていたのですか」
「、私のを見つけました。あの子は、私がどうして帰らないのか、ずっと気にしていた。だから、自分が京したら私を連れて帰ると言っていたんです」
文子は、私の帳にき写した川崎の所を見た。そこは、母親が荷札の裏にいた所と同じだった。彼女は、から届いたの封筒を何通か箱にしまっていた。差の所は坂商事で、母親の字ではない。文子は、母親がそこへをしていたのだとっていた。けれど、母親に届いたのは毎の送だけで、文子から直接届いたは、賀状以ほとんどなかったという。
「澄は、所のことを気にしていました。母が受け取るおも、私が送ったとっていた。でも、私が送ったのは毎同じ額じゃありません。坂さんが配した分が、どこからたのか、私には分からない」
私は、荷札にかれた所が単なる送先ではないと悟った。族に届いていたのは、文子が自分で選んで送っただけではない。誰がいくら送り、誰が受け取ったのか、族にも文子にも見えない形で、姉妹の暮らしがつながれていた。
「料を全部渡すな、というのは?」
文子は、送控えの枚を裏返した。受取の欄に、族の名ではなく「坂商事」とある。文子は自分ので送ったもあったが、帳簿にない差し引きもある。母親には毎決まった額が届いていた。それが文子の料からたものなのか、坂が「替」として別に扱ったなのか、族には分からない。
「澄は、私と同じ働き方をさせられるとったんでしょう。だから、に渡す分と、自分で持つ分を分けたかった」
文子は妹の名を聞いたあと、しばらく何も言わなかった。彼女は澄に見つかることより、妹が自分を見て、帰らなかったを責めることを恐れていた。「澄さんはあなたを責めていない」と伝えると、文子は「責められるほうが、まだ楽です」と答えた。
そのとき、玄関の戸がく叩かれた。寮にいた女たちが斉にを閉じる。文子がちがるより先に、坂の声が廊に響いた。
「佐伯先が来ているそうですね。話をしましょう」
文子の顔がこわばった。彼女は与細を私の鞄に押し込んだ。
「先、持って帰ってください。これが見つかったら、あの子たちも、私も、ここにいられなくなります」
戸の向こうで、坂がもう度言った。
「その類は、会社のものです。勝に持ちすなら、警察を呼びますよ」
文子は私を見た。
「先。澄は、今夜ここへ戻ってくるかもしれません」
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