"卒業写真の空いた席" 第9話
母が京した
母親が乗ってきた列は、昼に野へ着いた。代は改札ので、何度も計を見た。彼女は母親が来るのを待っている方で、来なければ自分だけで決められるとっていたのかもしれない。母親の姿を見つけた瞬、堵したように肩ががり、そのあとで叱られると構えた。私は、その表を見て、親子のにあるものがだけでも、支配だけでもないことを改めてじた。
代の母親は、京に坂から「京の寮へ送れば、毎の仕送りは配する」と説されたという。母親は、自分で料を取りげるつもりだったわけではない。毎いくらに届くのかが分かれば、それで分だと考えていた。庭の借のことは、代にすべて話していなかった。娘に背負わせたくない気持ちと、娘の収入を当てにする気持ちが、彼女ので緒になっていた。
翌の昼、代の母親が野駅に着いた。紺のコートの襟をて、片に呂敷包みを抱えている。彼女は娘の姿を見つけるなり、まず頬を叩こうとした。だが、は途で止まった。
「何を勝なことをして。には、あんたの稼ぎが必なんだよ」
代の母親は、呂敷から握り飯をした。娘にべさせるつもりで、朝く握ったのだという。代はひとつ受け取り、母親にも差しした。
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はすぐに仲直りしたわけではない。けれど駅のベンチで同じ握り飯をべるあいだ、母親は娘の話を遮らなかった。私はしれてち、そのを見守った。
代は母親を見つめていた。母親は駅の目に気づき、声を落とした。
「ここで話すことじゃない。帰ろう」
「お母さんは、いくら引かれるかってた?」
母親は答えなかった。坂が渡した面には、諸費用を料から引くとかれていたが、いくらかは空欄だった。母親は「京で働けば、毎いくらかへ送ってもらえる」と説されたのだという。
母親は、夫のけがのあと、のりいから借りたの返済が遅れていることも話した。代には、そこまでらせていなかった。母親は、娘が自分のことを責めるのを恐れていたのだろう。代は母親の話を聞き終え、すぐに「それなら料を全部送る」とは言わなかった。代わりに、毎の計にいくら必か、緒にへきそうと提案した。
「には、もう借がある。お父さんが働けないし、弟の学費もある。代までへかせることはできない」
「私はへくって言ってない。京で働く。でも、全部持っていかれるのは嫌なの」
代はそう言ったあと、母親のにある呂敷を見た。から持ってきた着替えと、握り飯が入っている。京へ送りすことを決めた母親は、娘が困らないようにと、できることをしてきたのだ。
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けれど、何をしてやるかを決めることと、娘の代わりに決めることは違う。その境目を、は今、初めて確かめようとしていた。
母親は、代の言葉を聞いて顔を伏せた。りの奥に、疲れ切ったの表が見えた。
「私だって、好きであんたをすわけじゃないよ。べさせていかなきゃいけないんだ」
「分かってる。でも、私がいくらもらって、いくら送るかは、私にも決めさせて」
私はを挟まなかった。庭の事を聞いたからといって、どちらかの方を決められるわけではない。代が働きたい気持ちも、母親が収入を必としていることも、どちらも本当だった。
そのの夕方、佐伯澄の母親から報が届いた。「京へく。文子と澄に会わせてほしい」。私は、文子にらせるため寮へ向かった。
母親は、寮の玄関で文子の顔を見た。すぐに抱きしめることも、責めることもしなかった。姉妹のあいだには、いが横たわっている。母親は、文子がいたはずの賀状を通、鞄から取りした。
「この字、おまえの字じゃないね」
文子はうなずいた。
「ごめんなさい」
「何があったか、話しなさい」
文子は、与細の控除、何度も移った作業、帰る旅費を失っていったことを話した。母親は話の途で度、をきかけたが、最まで黙って聞いていた。
話が終わると、母親は澄を見た。
「おまえまで、同じことになるところだったんだね」
「私は、もう自分で決める」
「そうだね」
母親は、すぐに謝らなかった。澄も、すぐに許さなかった。ふたりは、同じ部に座りながら、別々の湯みをにしていた。
その夜、坂から話があった。朝、青葉縫製の関係者と話しいをする。女たちの与について、支払いの記録を持参するという。
「ただし、学の先は同席しないでください」
坂はそう言った。私は受話器を持ったまま、返事をしなかった。
「先がいると、話がきくなる」
「もう、私ひとりの話ではありません」
話の向こうが静かになった。
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