みかん小説
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"二十通の辞表" 第15話

う庭と受け継がれる誇り

初の訪れを告げるれの夕暮れ。

夜の営業が始まるの静まり返った綾瀬楼の厨で、私は、先代の遺品である黒漆塗りの文庫箱をいていた。

から取りしたのは、あの使い古された祖父の『仕込み帳』だった。

油と汁の染みが無数につき、角が擦り切れた分いノート。ページをめくると、祖父・惣郎の力く温かい達な文字が、昨のことのように鮮やかに目にび込んでくる。

『料理とは、肩きや権力で作るものにあらず』 『目のの椀に、どれだけ己の邪を捨てられるか。材の命に、どこまで謙虚にを垂れられるか。料理の魂は、包丁の刃先ではなく、客の笑顔を祈る掌のにこそ宿る』

指先でその文字をそっと撫でながら、私は静かに目を閉じた。

、を卒業したばかりの私が「料理の現をから見てきます」と告げた、祖父は何も言わず、ただこの仕込み帳と本の包丁を渡してくれた。

あののまみれの放浪が、魚の凍える氷が、子先の厨での厳しい叱責が、今の私の揺るぎない血肉となっている。

卒の娘だと嘲笑われ、ド素だと罵られたあの々。

けれど、学歴や肩き、功序列の威でを踏みつけにする虚飾のプライドなど、本物の技術とのには、何の価値も持たなかったのだ。

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「若女将」

厨の入りから、澄んだ声が響いた。

振り返ると、板の袖をまくりげた佐藤君と、名の若き料理たちが、清々しい笑顔を浮かべて列していた。

「夜の部のお客様の仕込み、すべて完いたしました。いつでもお迎えできます」

その誇らしげな若者たちの顔を見渡しながら、私は胸いっぱいに満ちてくる温かい誇りをじていた。

もうここには、誰かを脅し、利権を貪るようなは微もない。

ただひたすらに料理をし、技術をめい、お客様の「美しい」という笑顔のために命を燃やす、本物の料理たちのが完成したのだ。

「皆様、ありがとうございます。今夜も最のおもてなしを、を込めてお届けいたしましょう」

「はいっ!」

力い返声が、夕暮れの厨に気持ちよく響き渡った。

私は祖父の仕込み帳を切に胸元にしまい、淡い藤の着物の袂をきりりとたすき掛けにした。

厨の窓から見げる空には、夕焼けの茜がどこまでもく、美しく澄み渡っていた。

伝統とは、古い殻に閉じこもることではない。

誇りき志を胸に、代とともにしい命を吹き込み続けることなのだ。

私は背筋をピンと伸ばし、凛とした取りで、あふれるがする厨の央へと歩みした。

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