"昭和35年、上野駅に現れた二人の「ハルコ」" 第2話
の階
みのり堂の戸をけると、妻の千代が湯気のつ鍋のから振り返った。の奥には、昼の営業で使った丼が積まれている。学の息子、正は宿題を広げた卓で、の女を見比べた。
「この子が子さん。こちらは、子さん。姉さんを捜しているそうだ」
千代は、の名を聞くと、子の呂敷より先に子の葉を受け取った。差の欄には「富美子」とある。裏返すと、鉛でいたい文が添えてあった。
「仕事が決まった。のに会えたら、子へ伝えてほしい」
「このの所に届いたの?」
「いいえ。姉が最にいた所がここでした。葉は、の郵便局から戻ってきたんです」
子は、葉の角を指で押さえた。宛名のには、みのり堂の所。そのに、度消してき直した跡がある。
千代は、壁際の棚から古い帳面をした。みのり堂は堂を始める、夫の父親がさな仕しを営んでいた。そのころ、所のや寮へ弁当を届けていた。富美子の名を見たことがあるか、記録を探してみると言う。
「子さんの部は階の畳です。布団はひと組。正の机を置いてあるから、し狭いけれど」
千代がそう説すると、子は「分です」と答えた。彼女は、部の広さより、料と仕送りの方法を気にしていた。
「お料は、毎、に送ってもらえますか」
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「料は本に渡す。に送るなら、自分で送するんだよ」
私はそう答えた。すると子は、瞬だけ私の顔を見た。
「母は、紹介所のから、料の半分はから直接送ってもらえると聞いたそうです」
その話は初だった。雇用通には、と事代、寮費の額がいてある。族への送については何もない。私は類を引きしからし、子にも見せた。
「ここにはいてありません。働き始めるに、もう度、紹介所へ確かめよう」
子は、うなずいたが、表はれなかった。から持ってきた紹介状には、同じ学のの印がある。裏には母親の字で「毎、弟の学費分を送ること」とき添えられていた。
子は、の隅にったまま、姉の葉を見つめていた。
「姉がここへ来たのは、です。学をて、最初は裁で働きました。末に度だけが来て、それから返事がありません。には、翌の、姉が帰ったと所のがらせに来た。でも、母は姉に会っていません」
「誰が、帰ったと言ったんだ」
「紹介所のです。姉は京の仕事をやめ、故郷へ戻ったと。だから、もうをさないようにと言われたそうです」
私は、帳面を閉じる千代のを見た。富美子がうちで働いた記録はない。だが、彼女の葉は、の所を確かにっていた。
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子が荷物をほどくと、呂敷の底から折り目のついたさながてきた。学の先がいた、京での持ち物とき先の控えだった。そこには、みのり堂の所のに「紹介所から毎送」と鉛でかれている。子は、その字が母親のものではないと言った。に届いた説と学の控えは、同じ話をしている。ところが、雇用通には送のことがもない。私は、その違いを、子自が紹介所に尋ねるのを待つことにした。
その夜、子は階へがるに、雇用通をもう度読み返した。私は彼女の名を確認した。類は「ヤマモトハルコ」。子でも子でも、同じ名に見える。
「、職業定所にこう。あなたの続きを確認してから、仕事を始めてもらう」
「はい。でも、もし紹介所が母に約束したおを送れと言ったら、私はどうすればいいですか」
子の声はさかった。の事をらない私が、簡単に答えてよいことではない。
正は、子の荷物を見て、自分の机をどこへかせばいいかと千代に尋ねた。千代は「机はそのままでいいよ。子さんが勉するには、正はの卓を使いなさい」と言った。正はし満そうだったが、すぐに子へ鉛を本差しした。子は礼を言い、鉛を裁縫箱の横へ置いた。
の階に誰かをまわせることは、部を貸すだけではない。族の活をしずつ組み替えることでもあった。
階の部は、のがてから物置になっていた。千代の使わなくなった踏みミシンと、正の古い教科が壁際に積んである。布団を敷けば、ひとりで寝るだけの所はできる。子は、その部を見ても満を言わなかった。けれど、壁に貼ってある正の算数の表を見つめ、「ここで勉してもいいですか」と聞いた。千代は、夕飯の片づけが終わったら、卓を使えばいいと答えた。
階で正が寝返りを打った。千代は器を片づけながら、古い帳面をもう度いた。
「あなた、富美子さんのことを覚えている?」
千代に聞かれ、私は返事を探した。たしかに、の、仕しの帳面に「ヤマモトハルコ」とかれた配達先があった気がする。
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