"昭和35年、上野駅に現れた二人の「ハルコ」" 第3話
帳面の余
翌朝、私はを千代に任せ、の女を連れて職業定所へった。子は雇用通を胸に抱え、子は姉の葉を鞄にしまっている。駅の改札を通るとき、は自然にれて歩いた。同じ名で呼ばれることに、まだ慣れていないようだった。
職業定所の担当者は、子の類を確かめた。紹介先はみのり堂。雇用条件はと寮費、事代。族へ直接送する約束は記録にない。
「この子のお母さんには、仕送りの話が伝わっているそうです」
「紹介のが、余計な説をしたのかもしれません。与は本に渡すのが原則です。庭への送は、本が決めてください」
担当者は、雇用通の余にそのことをき、子に読ませた。子は黙って読み、最に印を押した。
「お母さんにをきます。へいくら送るかは、働いてから相談します」
職業定所の待には、同じ列で京したが、母親の代わりに類を持って座っていた。彼は求票を何度も読み、分からない言葉に鉛で印をつけている。担当者は子の条件を確認するあいだも、そののを見て説していた。ここへ来る若者は、限られた選択肢ので、族にできるだけくを送れる先を選んでいる。子も同じだった。だからこそ、送の約束を曖昧なままにできない。
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職業定所をたあと、私は担当者に子の話をした。に京へた姉が、帰郷したと紹介所から伝えられたが、族は会っていない。葉の宛先は、みのり堂だ。
「古い紹介記録を調べないと分かりません。個の所はお教えできませんが、本が相談に来ていれば、連絡を取り次げるもあります」
そのでは、富美子の名は見つからなかった。担当者は、当の台帳が別の張所に保管されているかもしれないと言った。記録を探すには数かかる。
子は、その返事を聞いても表を変えなかった。彼女は仕事に就くために京へ来た。姉を捜しに来たわけではない。それでも、子の姿を見ていると、自分も族かられていくことが急に現実を帯びたのだろう。
へ戻ると、千代が帳面を卓に広げて待っていた。仕しをしていたころの古い帳面は、が茶くなり、ところどころに油の染みがついている。千代は、ののページを指で追った。
「ここ。『ヤマモトハルコ 青葉裁』っていてある」
私が見た記憶は違いではなかった。仕しは青葉裁の寮に、週に度、弁当を届けていた。帳面には、注文数がからに減ったこと、配達先をの裏から所の洗濯へ変えたことが記されている。
「どうして配達先が変わったんだ」
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「の寮が閉まったの。女の子たちは別の所へ移ったと聞いたわ」
「富美子さんは、そのにいたのか」
千代は首を横に振った。
「当、に来た子がいた。でも、私は名を聞いていない。あなたが帳面にいたのよ」
その片の端には、の古い印がかすれて残っていた。私は、当の仕し先がだけでなく、寮の堂にもなっていたことをいした。弁当を届けるが代わると、伝票の名を聞き違えることはあった。だが、同じ読みの名を別として扱うことは、所と付を緒に確かめれば防げたはずだ。帳面には、私が確認しなかった跡まで残っているようにえた。
私は、ページのに挟まっていたさな片を見つけた。そこには、青葉裁の所と、話番号らしい数字がかれている。数字の最は、鉛で何度もなぞられて読みにくくなっていた。
子は、その片を見た瞬、息を止めた。
「このです。姉が最初に働いていたところ」
職業定所でもらった古い図には、の名がまだ記されていた。私は、を始めたころに何度も弁当を届けたをいし、乗り換えを帳にいた。所を確かめるだけなら、子でもける。だが、もしそこで姉の話を聞くことになったら、私も署名した側としてち会う必があるとった。
青葉裁は、今も同じ所にあるのだろうか。私は話帳を引きした。だが、片の番号は載っていなかった。
「、そこへってみよう」
子は、うなずいた。
子は階にがり、呂敷をほどいた。からてきたのは、着替えとさな裁縫箱だった。で働くために持ってきたものだ。彼女はその箱を机に置いてから、ふたをけずにしばらく見つめていた。
その夜、の戸に郵便配達がった。私宛ての封筒だった。差は、に青葉裁の寮を管理していた「坂井寮務所」。には、古い雇用通の控えが枚だけ入っていた。
そこに記されていた名は、本富美子ではなかった。
「本子」――しかも、私の署名で、彼女が故郷へ帰ったことになっていた。
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