"昭和35年、上野駅に現れた二人の「ハルコ」" 第5話
戻ったことになった
千の縫製所は、古いの階にあった。戸からミシンの音が聞こえる。の板はておらず、表札には「」とだけかれている。私は、米の主から教わった女性の名を告げた。
「富美子さんをりませんか」
戸をけた配の女性は、すぐには答えなかった。子の顔を見て、目を細める。
「あなた、子ちゃんね。富美子ちゃんの妹」
子は、返事をする代わりに歩へた。
「姉は、ここにいますか」
「ここにはいないよ。でも、はいた。青葉裁をてから、うちでしばらく働いていた」
縫製所の窓は半分だけいていて、から乾いた糸くずがに流れていた。内には、布を裁つ音と、ミシンの針が止まる音が交互に響いている。壁には、仕がりを待つ着が何枚も掛かっていた。女たちは、私たちが話しているあいだもを休めない。仕事を止めれば、そのの来が減るからだと、女性は説した。富美子を捜すことも、彼女たちの暮らしを乱すことも、どちらも慎にしなければならなかった。
女性は、をへ招いた。作業には、布の切れ端を入れた箱や、糸巻きが並んでいる。今働いている女たちは、を止めずに私たちを見た。誰かを捜しに来たを、何度も見てきた顔だった。
「富美子ちゃんは、ここへ来たとき、にをいていた。
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けれど、返事が来なかった。紹介所から『本は帰郷した』とらせがあったと、あとで聞いたんだ」
「その通は誰がしたんですか」
「青葉裁の事務所からだよ。こちらには、のの署名があるの写しも来ていた」
私は、に持っていた雇用通を見た。女性は頷いた。
「あなたの名だったよ」
子は、私を見なかった。富美子は帰ってきたとい、族からも探されなくなった。私は、そのらせに自分の署名を貸していた。
女性は、富美子が最に働いたのことをいした。彼女は度、仕事のあとに夜学へ寄り、翌朝くからまた縫製所へ来た。眠そうでも、料細を見せてほしいという話をやめなかった。ほかの女たちは、紹介所のに嫌われたら次の仕事が見つからないと配していた。富美子は、その子たちの代わりに尋ねていたのかもしれない。
「姉は、なぜここをたんですか」
「仕事が嫌になったんじゃない。ここで働いていた子の賃が、へ届かないことが分かった。紹介所のが、族の借分を先に払うと言って、料の部を預かっていたらしい。富美子ちゃんは、ほかの子の分まで細を見せてくれと頼んだ。それで、揉めたんだ」
女性は、富美子が最に置いていったさな封筒を棚からした。には、姉妹の写真と、子宛ての便箋が入っている。
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便箋は途までかれ、最に「このを渡すのは、私が帰郷したとらせが届いたあとにして」とあった。
「どうして、らせが届いたあとに」
「本は、が探すのをやめるとっていたんだろう。妹さんまで京へ来ることを、配していた」
子は封筒を受け取ったが、すぐにはけなかった。便箋の表には、付がない。かわりに、く所がかれている。
「姉は今もここにいるんですか」
女性は首を横に振った。
「、また移った。き先を誰にも言わずにね。でも、富美子ちゃんがていく、のに渡してくれと頼んだものがある」
彼女は作業台のから、に包まれたさな包みを取りした。にあったのは、雇用通の控えだった。類には富美子の名がなく、本子と記されていた。
女性は、富美子が働いていた当のことをいしていた。青葉裁の仕事が減ると寮の事も簡単になり、末には何かが別のへ移った。富美子は縫い目がきれいで、難しいの仕ても任されていた。料の封筒を受け取ると、まずを数え、細の数字を確かめていた。ほかの女たちが黙って受け取るで、彼女だけが「この差額は何ですか」と聞いた。女性は、そのことを覚えていた。
私は、送記録の付を、子が京へ来たと照らしわせた。
子が職を移ったあとも、同じ名義の送が数か続いている。つまり、富美子の料だけではなく、子が働いたまで、紹介所がまとめて扱った能性があった。のどちらが稼いだなのか、記録のでは分からない。子は、姉のために使われたとっていた自分の名が、別の誰かの都にも使われていたのかもしれないと気づいた。
「この名で、富美子ちゃんの料が送られていたんだよ」
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