"昭和35年、上野駅に現れた二人の「ハルコ」" 第8話
曜の夜学
浅の夜学は、寺のれを借りてかれていた。学を終えたあとに働き始めた若者や、の寮から通う女たちが、週に度、読みきや算数を習っている。子がいた便箋の「曜、」という言葉は、姉がここへ通っていたころのことらしい。
そのは曜ではなかったが、私は夜学の世話をしている先に会いにった。髪の女性は、富美子の名を聞くと、すぐにいした。
「妹のために、夜に勉を続けたいと言っていました。読みきはできる子でしたが、をくとき、いつも何度も消していた」
「今、どこにいるかごじですか」
「ここへ来なくなってから、会っていません。ただ、同じ夜学に通っていた子が、砂の縫製所へ移ったと聞いています。というより、ので縫い物を受けているところです」
先は、すぐに所を教えようとはしなかった。富美子が自分から姿を消したのなら、見らぬが訪ねてくるのを望まないかもしれない。子は、その考えを聞いても、姉の居所だけはりたいと伝えた。
「会うかどうかは、姉が決めればいいんです。私は、帰郷したことになっていた理由をりたい」
先は、その言葉を聞いて、さくうなずいた。
「富美子さんは、妹さんに会うと、すぐ連れて帰れと言われるとっていたのかもしれません。
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あの子は、へ帰りたくないのではなく、族にもう度、働きにされることを恐れていました」
先は、席簿に並ぶ名の数を指でたどった。夜学へ通い始めた女は、半も経たずに来なくなることがある。族に呼び戻されたり、を移ったり、寮の決まりが変わったりするからだ。富美子も、ある突然来なくなった。先は、子に、姉が戻るかどうかを約束できないと改めて伝えた。子は「それでも、はしたい」と答えた。
子の顔がこわばった。彼女は、で聞いた話をいしていた。母は、姉が自分から帰ってきたと紹介所に聞いたあと、の借を返すために子を京へすことにした。姉が帰ったなら、今度は妹が働けばいい。族はそう考えたのだ。
夜学へ来ていた若い女性たちは、昼のを終えたあと、ここで鉛を持ち直していた。学をてすぐ働き始めた、の事で途から学へけなくなった、故郷へをきたいのに漢字が分からず困っている。世話役の先は、富美子がそのひとりの名を覚え、分からない字を教えていたと話した。彼女は自分のためだけに夜学へ通っていたのではない。妹を学に残したいといういが、ほかの女たちの相談にもつながっていた。
私は、夜学の席簿を見せてもらった。
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富美子の名は、途からかれていない。最に来たの欄には、鉛で「妹へ送るの件、相談」と記されていた。
「誰に相談したんですか」
「わたしです。紹介所から、妹さんの名で料を送る話がていると聞いて、本に確かめるよう言いました。でも、そのあと、富美子さんは来なくなりました」
子は、姉が自分の名を使ったことを初めてったに、しだけ納得したようだった。富美子は、妹を学に残すために、料を送ろうとした。だが、紹介所のはそのを数料や寮費に回し、本にも族にも正確にらせていなかった。
先は、子に富美子の所を渡すに、姉が返事をかない能性もあると伝えた。夜学に通う女たちのには、故郷へ戻りたくても、借や族の期待がくて帰れないがいた。居所を見つけたからといって、すぐに連れ戻そうとすれば、また本の決める会を奪うことになる。子はその話を聞き、「姉の返事が来るまで待ちます」と答えた。
夜学の先は、砂の所を封筒に入れ、宛名をかずに子へ渡した。
「直接くに、をしなさい。今度は返事を待つの」
子は封筒を受け取った。帰り、子が言った。
「姉さんが見つかっても、すぐに緒に帰れないかもしれませんね」
「帰るかどうかは、姉が決めることです」
子はそう言った。へ戻ると、千代は昼の仕込みをしながら、紹介所の男が過に何を約束したかを尋ねた。私は、子に連絡がくに久保田がを訪ねていたことをいした。本より先に族へ話を通し、族がうなずけば済んだことにする。そのやり方が、子の記録にも子の送にもつながっているのかもしれない。まだ確かな証拠はないが、今度は誰かの説だけで類に印を押さないと決めた。
子は、その返事を聞いてから、自分の雇用通を鞄へしまった。
夜、の片づけが終わると、子は私に、京へ来るに学で渡された類のことを話した。先は「仕事先で困ったら、学へをしなさい」と言ったが、所は紹介所のものしか教えてもらえなかったという。族に配をかけないよう、本が会社へ直接連絡する必はないとも言われた。子は、その説を疑わなかった。が決めたをれれば、弟の学費まで途切れてしまうとっていたからだ。私は、自分がを始めたころ、働きの族にしてもらうため、紹介所へ任せきりにしていたことをい返した。善のつもりでも、本を通さない仕組みを便利だとっていたのは私だ。子は雇用通を鞄からし、学名の欄を確かめた。
「先に、私がここで働くと自分で決めたってをきます」そう言って、彼女は初めて宛名を自分の字でいた。
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