"昭和35年、上野駅に現れた二人の「ハルコ」" 第11話
誰の料か
久保田は、富美子を責めなかった。代わりに、続きが複雑になっていると説した。彼が用した送は、富美子の料から寮費や紹介費を差し引いた残りだった。子の名を使ったのは、族へ送る分を分の座にまとめるためだという。
「本たちが承したことです。私が勝に決めたわけじゃない」
「姉さんが署名したことは、私も聞きました。でも、いくら引かれて、いくらに届いたのか、本が確かめられるを見たことはありません」
子は、運のそばで受け取った封筒を久保田に見せた。富美子の料細と、送額がかれた古い控えだ。久保田は、違った項目があるかもしれないと認めた。ただし、過の分をすぐに返せるとは言わなかった。
「それなら、細を全部してください。いつ、誰の料から、どの名目で引いたのか」
私が言うと、久保田はため息をついた。
「のご主は、以、子さんの帰郷に署名しましたよね。類を見ずに押したが、今になって責任を問うんですか」
私は反論しなかった。彼の言うとおり、私も類を確かめず、彼女が帰ったと記録する助けをした。だからこそ、今度は署名を急がない。
担当者は、最初に富美子へ、ここで話した内容を記録に残してよいか確認した。富美子はしばらく考えたあと、本の名をしてよいが、今の勤務先の所は紹介所に渡さないでほしいと頼んだ。
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子は、姉の判断を遮らなかった。久保田も同席していたが、以のように類を先に鞄へ入れることはしなかった。机のには、古い与控え、雇用通、子の葉が並び、ひとつずつ付を確かめていった。
翌、職業定所の担当者に、子、子、富美子ので会いにった。
担当者は、まずに別々に話を聞いた。子には、の仕事を続けたいか、雇用通の条件を理解しているかを確かめた。子には、帰郷届がされた期にどこで暮らしていたのかを尋ねた。富美子には、与から引かれた費用に同した類が残っているかを聞いた。質問は細かく、同じことを何度も確かめられた。子は途で「私たちは、まだ何か違ったことをしたんでしょうか」とそうに尋ねた。担当者は、誰かを責めるためではなく、記録と本の話を照らしわせるためだと説した。私はそので、に自分が署名した類の控えを差しした。そこには、本を見て確認したかを問う欄があった。私の署名はあるのに、確認したも所もかれていない。担当者はそのを預かり、写しを取ると言った。自分の印が、姉妹の話を裏づける資料になるとはっていなかった。
担当者は古い台帳を用していた。本子の欄には「帰郷済み」
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。そのに、本富美子の名はない。だが、料の送記録には、子の名で数分の額が記されている。
担当者は、古い台帳をすぐに訂正できるとは言わなかった。原本が残っていない類もあり、紹介所の控えと会社の記録を照らしわせる必がある。子が京にいた付を示すや、働いた所の証言も集めることになった。富美子は、過に戻って名を直せないことを承していた。それでも、記録をそのままにすれば、また別の族が「帰郷済み」のを信じて探すのをやめる。
「同じ読みの名が続いて、記録が混ざった能性があります」
担当者は、そう認めた。誰がいつ名簿をき写し、どの類を確かめなかったのかは、すぐには分からない。役所の記録も、紹介所の控えも、すべてが揃っているわけではなかった。
担当者は、富美子に当の勤め先を訪ね、与の支払い記録が残っていないか確認すると言った。富美子は、今の所を伝えないことを条件に、の名だけなららせてもよいと答えた。子は、自分が京にいた証拠として、寮からへした葉を探すことにした。帰郷届がたにも、京の消印がある葉を母親がしまっているはずだった。私も、に残る紹介状の控えを提すると申した。久保田は、最初は「古い類は処分した」
と言ったが、担当者に記録の保管先を確かめられると、紹介所の帳簿に送先の控えが残っているかもしれないと認めた。彼は翌週までに探すと答えた。誰もそので謝罪を求めなかった。けれど、もう「覚えていない」で話を終わらせることはできなくなった。
富美子は、へ送ったの部が妹の学費になっていないことを話した。担当者は、返が決まるまでにがかかることを、に説した。料から何を差し引いたのか、本の署名がどの類に使われたのか、紹介所の控えを照する必がある。富美子は、全額が戻ると期待していなかった。彼女が求めていたのは、なくとも自分の料が誰の名で、どこへ送られたのかをらかにすることだった。子も、記録を直すには自分が京にいたことを示すや、当の勤め先の証言が必だと聞いた。
久保田は、族が受け取った額について調べると約束した。だが、子は、返を待つためにへ戻るつもりはないと言った。
「私は姉を連れて帰るために来たんじゃありません。姉が帰ったことになっていた理由をりたかったんです」
子も、自分の料をへ送る額は自分で決めると話した。担当者は、彼女の雇用通に「与は本へ直接支払う」とき加え、子自に確認してもらった。
久保田は、子の雇用を取り消すとは言わなかった。ただ、学へ確認のをす必があると話した。子はそのを自分で読み、母親へも同じ内容を送るよう頼んだ。
「あなたが勝に決めたんじゃないって、母にも分かってほしいんです」
帰り、富美子は子に言った。
「へ帰るかどうかは、まだ決められない」
「分かってる。私も、すぐに連れて帰るつもりはない」
姉妹は同じ歩幅では歩かなかった。それでも、別々のへくに、今度はどこにいるのかをらせる約束をした。
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