"「柿の木だけは切るな」――庭から出た四人の遺骨" 第8話
沖縄のアリバイと崩れた捜査
品川署の会議に戻った渡辺を待ち受けていたのは、さらに絶望な報告でした。
専従捜査班の若刑事が、机のに分い資料を広げました。 「係……郎の当のアリバイを精査しましたが、完璧です。崩せません」
〇〇旬、佐藤子さん母娘が姿を消したとされる期。 は、沖縄の覇で催されていた『全国私学教育研究会』に、来賓として席していました。
捜査員が沖縄へび、当の主催団体の事務局から取り寄せた公式記録には、郎の席サインが確に残されていました。 壇で挨拶を述べるのカラー写真、全体集写真の列央で微笑む姿、さらには現の老舗料亭でかれた懇親会の領収まで、すべてが揃っていたのです。
「航空会社の搭乗記録も確認しました。 保期を過ぎて磁記録は破棄されていましたが、当のの搭乗者名簿の控えに『タカハシ・イチロウ』の名がはっきりと残っています。 事件が起きたとされるの夜、は違いなく京から千百キロれた覇のホテルに宿泊していました」
会議に、苦しい沈黙が落ちました。
さらに、科学捜査研究所からの最終報告が、捜査班の希望を無残に打ち砕きました。
広告
柿のが植えられていた壌は、のと酸性化、そして消の化学反応によって、あらゆる物が分解されていました。
犯の指紋はおろか、痕や毛髪、の繊維組織さえ、何ひとつ検されませんでした。 母娘の蓋骨を叩き割ったはずの凶器も、庭を掘り返したにもかかわらず、発見されませんでした。
客観な証拠が何もない。 遺体が自宅の庭からたという事実だけでは、公訴効がとっくに成している「体遺棄罪」しか問えない。 殺罪で件するための「直接証拠」が、何ひとつとしてしないのです。
午、京方検察庁から無な通が届きました。 渡辺たちが提していた、郎の居および関連座に対する宅捜索差押令状の請求が、裁判所によって却されたのです。
『容疑を裏付ける直接証拠のな欠如』
赤いインクで押された却のスタンプを見つめ、渡辺は拳を握りしめました。 爪がのひらにい込み、血が滲みました。
そのの夜、京のつホテルの宴会では、郎が設した『青葉奨学財団』の創周記パーティーが華々しく催されていました。 会には政財界の鎮や物政治、級官僚からの輪が所狭しと並び、シャンパングラスの触れう軽やかな音が響いていました。
広告
タキシードにを包んだ郎が壇にがり、マイクを握って厳かに語りかけました。
「貧しさのために学ぶことを諦める子どもたちを、私はでもく救いたい。 私の余は、すべて未来ある若者への奉仕に捧げる所であります」
会を埋め尽くす割れんばかりの拍とスタンディングオベーション。 数々のカメラのフラッシュが、善の仮面を被った殺鬼の顔をく照らししました。
ホテルの寄せのの、プラカードを掲げて突入しようとした佐藤武は、財団の警備員たちに羽交い締めにされ、たいアスファルトのへ叩きつけられていました。
「殺し! 姉を返せ! あの子たちを返せぇぇっ!」
を啜りながら叫ぶ遺族の声は、音量のクラシック音楽と拍の渦のに、無残にかき消されていきました。
広告
おすすめ作品
-
完結第12話
「寄付は千円ぽっち」笑われた老夫婦の30年の秘密
町内会の夏祭りで、寄付が千円しかないと笑われた68歳の静子。古い自転車に乗り、夫の勉と慎ましく暮らす彼女は、婦人会長から「ケチな人」と見下され、記念式典の受付役まで外されてしまう。それでも静子は言い返さない。夫婦には、30年間、毎月15日に欠かさず続けてきた秘密の約束があった。やがて婦人会の記念式典に、育英基金の支援で大学を卒業した青年が現れる。青年が大切に持っていた一通の手紙をきっかけに、会場の空気が思いがけない方向へ変わり始める。人生逆転|夫婦|真実|金銭問題1.9万字5 690 -
完結第12話
昭和35年、上野駅に現れた二人の「ハルコ」
昭和35年春。集団就職列車を迎えに上野駅へ来た食堂の主人は、「山本春子」と呼ばれた少女が二人同時に手を挙げたことに戸惑う。一人は店で働くために上京した春子。もう一人の晴子は、三年前に東京へ出た姉を捜していた。姉は故郷へ帰ったことになっているのに、家族は誰も会っていない。不審に思った主人が古い雇用通知書を調べると、晴子の帰郷を証明する書類に、自分の署名が残されていた。誰が少女たちの名前を使い、何を隠していたのか。集団就職の時代を背景に、書類一枚に翻弄された若者たちの人生を描く物語。時代|歴史|昭和|真相2.3万字5 0 -
完結第15話
「このおばあちゃん、危ない」六歳の孫が見たもの
六十八歳の静子は、夫を亡くしてから一人暮らしをしている。近所の蛇田さんは、毎日のようにお菓子を配って歩く親切なおばあさん。ところが、六歳の孫・小春だけは、なぜか彼女を避けていた。 ある日、三人でスーパーへ出かけると、小春が突然、静子の手を引いて言った。 「ばあば、このおばあちゃん、あぶない」 その直後、店員に呼び止められた蛇田さん。小春はいったい何に気づいたのか。お菓子に隠された秘密と、一人暮らしの老人たちが抱える寂しさを描く物語。人生逆転|祖父母と孫|真実|真相1.6万字5 118 -
完結第12話
最後の伝書鳩
昭和19年、南方の山地。撤退を命じられた部隊は、谷に残された九人の兵士と連絡が取れなくなっていた。 通信兵の関谷清一伍長は、彼らが「未帰還」の一言で片づけられることに納得できない。しかし、無線は故障し、残された伝書鳩は最後の一羽だけ。報告書が敵の手に渡れば、百人以上の仲間まで危険にさらされる。 命令を守るか、九人の居場所を知らせるか。関谷は報告書の裏に、九人の名前と谷の場所を書き込んだ。 戦場で一枚の報告書と一羽の鳩に、九人の命を託した通信兵の物語。時代|歴史|昭和|真実2.3万字5 88 -
完結第12話
150万円を払わせたママ友、次は寿司300万円
夫の昇進祝いで家族とレストランを訪れたひまり。楽しい食事の最後に告げられた会計は、なんと150万円。原因は、顔見知り程度のママ友・ぽて子一家が大量の料理を注文し、勝手にひまりへ支払いを押しつけたことだった。仕方なく立て替えたものの、返金を求めると渡されたのは、まさかのポテトチップスの空袋。しかも数日後、ぽて子は高級寿司店で新たな計画を立て始める。「ママ友なんだから払って当然」と言い張る一家に、ひまりが取った行動とは?因果応報|夫婦|真相|親子関係|金銭問題|修羅場1.2万字5 1018 -
完結第12話
毎朝「出ていけ」と怒鳴る隣人、測量の日に顔色が変わった
「引っ越しなさい!」毎朝七時、向かいの家の奥さんに怒鳴られる六十八歳のしず子。生まれ育った家を手放す気はないが、理由のない嫌がらせは日に日にひどくなり、相手の夫まで引っ越しを勧めてくる。しず子は言い返す代わりに、毎日の出来事をノートに書き留めていた。そんなある日、隣人の土地売却をきっかけに境界の測量が行われる。測量士が示した一本の線と、亡き祖父が残した古い封筒。そこには、長年の隣人関係を覆す意外な約束が隠されていた。怒り|真実|修羅場1.3万字5 522 -
完結第12話
新幹線で母娘の席を奪った女、現れた女性を見て絶句
五歳の娘パニミと夏休みの帰省を楽しみにしていた、弁当店を営むシングルマザーのパニコ。新幹線の自由席でようやく親子並んで座れたものの、見知らぬ女性に突然コーヒーをこぼされてしまう。服を拭くため席を外したわずかな間に、その女性は荷物を床へ放り出し、二人の席を奪っていた。娘を守るため、悔しさをこらえてデッキへ向かったパニコ。そこで偶然、日頃から世話になっている立花会長と再会する。事情を聞いた会長が一緒に席へ戻ると、先ほどまで威張っていた女性の顔色が一変して……。怒り|真相|親子関係|修羅場1.2万字5 1125 -
完結第12話
フクと小さなおにぎり
ペットショップの隅で「特価品」の札をつけられていた猫、フク。以前の飼い主に一度迎えられながら、すぐに店へ戻された過去があった。幼い娘ゆいに心を動かされ、フクを家族に迎えた俺と妻の由佳。少しずつ新しい家に慣れていくフクだったが、なぜか人前では決してご飯を食べようとしない。その理由を知った俺たちは、無理をさせずに見守り続ける。迎えてから約一年が過ぎたある夜、二歳になったゆいが小さな椅子を運んできた。娘の何気ない行動が、フクの心を少しずつ変えていく、家族の温かな物語。感動|真実1.1万字5 945 -
完結第10話
消えた卵の秘密
茜の家では、父の再婚相手・美津江が届けてくれる卵が、なぜか毎回なくなっていた。夜中につまみ食いをする夫の陽斗を疑っていた茜だったが、ある日、卵をこっそり持ち出す小学一年生の娘・凛を目撃する。「急に卵が嫌いになった」と泣く娘。しかし、いつもは素直な凛の様子はどこかおかしかった。そんな中、美津江から再び大量の卵が届く。茜は娘のために手作りプリンを用意するが、それを食べた美津江は、材料を聞いた途端に顔色を変えてしまう。娘が必死に隠していた秘密とは、いったい何だったのか。祖父母と孫|真実|真相|第二の人生1.4万字5 778