"金庫に眠る遺言" 第1話
1995923、午6。
京都港区麻布にある級宅の15階で、70代の老夫婦が忽然と姿を消した。
玄関の扉には内側から鍵がかかっていた。内はきれいに頓され、荒らされた形跡はなかった。財布も、携帯話も、着も、そのまま残されていた。
まるで2だけが、空気のに溶けて消えてしまったようだった。
姿を消したのは、佐藤健と妻の子だった。
健は72歳、子は70歳。2は港区帯でもられた産資産だった。麻布の級宅、座の商業ビル、神奈川県箱根にあるきな別荘まで所し、財産は当の点で8億円を超えていた。
財産目録だけで、A4用の表と裏を埋めるほどだったという。
夫婦には3の子どもがいた。
女の佐藤ゆき子は45歳。港区で皮膚科医院を営む医師だった。
次男の佐藤次郎は42歳。証券会社の部を務めていた。
末っ子の佐藤郎は39歳。父の産事業を伝っていた。
3は、失踪当は全員、両親と連絡が取れなかったと話した。までは普段と変わらず元気だった、とも証言した。
方届がされたのは、2の1995925だった。
次男の次郎が両親のを訪れ、誰もいないことに気づいて通報した。
「母が話にないので配になってち寄りました。けれど、には誰もいませんでした」
警察が現に到着した、部の様子はさらに謎をめた。
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卓のには、朝の跡が残っていた。噌汁とご飯、焼き魚の匂いがまだかすかに残っている。しかし器はきれいに洗われ、流しに並べられていた。
寝のベッドはえられ、装ダンスのも決まった位置にかかっていた。洗面所には、朝使ったとわれる拭いが静かに吊るされていた。
すべてが平凡な常の面だった。
ただ1つを除いて。
そのの主である2だけが、消えていた。
港警察署の田警部は、玄関先で腕を組んだまま、しばらくかなかった。
「急いでしたようには見えませんね」
若い刑事が台所から戻ってきて言った。
田警部は黙ってうなずいた。
「したなら、靴がないはずだ」
玄関の駄箱には、健と子の用の靴がすべて残されていた。運靴、革靴、サンダルまで、いつもの位置に並んでいた。
次郎は青ざめた顔で玄関を見つめた。
「では、裸でていったということですか」
誰も答えなかった。
警察は指紋を採取した。玄関の取っ、窓、バルコニーのすりまで丁寧に調べた。しかし審な指紋はなかった。確認されたのは、族のものだけだった。
次に、宅の監映像が確認された。
管理事務所の職員が、1995922から25までの録画テープを持ってきた。15階のエレベーター、1階ロビー、駐、正面玄関。
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刑事たちは暗い会議で、映像を1つずつ確認した。
そこで奇妙な映像が見つかった。
1995923、午820分。
健と子が15階のエレベーターに乗り、1階へりる姿が映っていた。
健はのズボンにいワイシャツを着ていた。子はベージュのワンピース姿だった。
次郎は画面にを乗りした。
「見てください。両親がへようとしています」
しかし、田警部は目を細めた。
「元を見ろ」
映像を止めると、2が履いていたのは用の靴ではなかった。
内履きだった。
子がので履いていたピンクの履きが、画面にはっきり映っていた。
「内履きのまま、にたというのか」
若い刑事がつぶやいた。
だが、もっと奇妙なことがあった。
1階ロビーの映像には、2がエレベーターからりる面が映っていた。ところが、正面玄関からていく姿はなかった。駐へ向かう映像にも映っていなかった。
つまり2は、15階から1階へりた。
しかし、そのどこにもていない。
警備、管理事務所、トイレ、舗。警察は1階のすべてを調べたが、何も見つからなかった。
そのの夕方、港警察署では緊急会議がかれた。
「自発なの能性はありますか」
1の刑事が尋ねた。
田警部は首を振った。
「70歳を超えた夫婦が、内履きで、財布も持たずにするか」
「誘拐でしょうか」
「誘拐なら痕跡が残る。揉みった跡、鳴を聞いた者、侵入者の指紋。何もない」
会議は沈黙に包まれた。
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