"葬儀よりハワイ" 第4話
「美さん、すまないが1つ頼みがあるんだ」
話の向こうで、美はし面倒くさそうに言った。
「何ですか、お父さん」
「来週の曜だけでいい。子のそばにいてやってくれないか。わしもちょっと病院にかなきゃならんのだが、あの子を1にしておくのが配でな」
しが空いた。
「お父さん、すみません。私もそのは予定が入ってまして。ヘルパーさんにお願いした方がいいんじゃないですか。最はいいサービスもあるみたいですし」
吉郎は受話器を持ったまま黙った。
りより先に、い疲れが全を覆った。
このに期待する方が違いだった。
「ああ、そうか。悪かったな、忙しいのに」
その夜、吉郎はスマートフォンをいた。正が以、美の様子はこれで見られると教えてくれたSNSだった。
画面をスクロールした吉郎の指が止まった。
そこには、ちょうどあの曜に投稿された写真があった。のおしゃれなレストラン。いテーブルクロスのにワインのグラス。友らしき女性たちに囲まれた美が、満面の笑みでピースサインをしていた。
添えられた言葉は、こうだった。
「久しぶりの女子会、最のランチ」
吉郎はしばらく画面を見つめた。
このは、義理の母が命を削っていることをらないわけではない。
っていて、こうなのだ。
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それ以来、吉郎は美に何かを頼むことをやめた。
がまる頃、子の体はさらにった。事はスプーン1杯の粥がやっとになり、声もさくなり、起きがることも難しくなった。
それでも子は、吉郎に配をかけまいとした。
「あなた、ちゃんとべてる? 無理しないでね」
自分の方がよほど苦しいはずなのに、気遣うのはいつも吉郎のことだった。
ある夜、体を拭いていると、子がふと言った。
「ねえ、あなた。美さんには、あんまり無理を言わないでね」
吉郎のが止まった。
「あの子も忙しいんでしょう。迷惑をかけたくないの、私」
吉郎は何も答えられなかった。
迷惑をかけたくない。
その言葉が、胸の奥にく刺さった。
違う。
おは何も悪くない。
悪いのはあっちだ。
でも、そんなことを病の妻に言えるはずがなかった。
吉郎はただ、「ああ、分かってる」とだけ答え、黙ってタオルを絞り直した。
1217、け方の4をし回った頃だった。
吉郎はいつものように、子の枕元の子で浅い眠りについていた。ここ数、子の呼吸は浅くなっていた。吉郎は夜通し、そばをれなかった。
ふと気配をじて目をけた。
部は静かだった。
あまりにも静かだった。
それまで聞こえていた、か細い寝息が聞こえない。
吉郎はを起こし、子の顔を覗き込んだ。目を閉じたまま、穏やかな表をしていた。
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苦しそうなところはどこにもない。まるでい眠りに落ちているようだった。
けれど、そのに触れた瞬、吉郎には分かった。
指先がたかった。
「子」
声がなかった。
「おい、子」
返事はなかった。
吉郎は子のを両で包んだ。もう温もりは戻らない。では分かっていた。それでもをせなかった。
涙がこぼれた。
声をげて泣く涙ではなかった。ただ止めようもなく頬を伝い、握ったのに落ちていった。
55が瞬のうちによみがえった。
の堂のおにぎり。
隅田川沿いの夕暮れ。
造アパートで向かいってべた噌汁。
独を決めた、背を押してくれた声。
正がまれた。
吉郎はかすれた声でつぶやいた。
「本当によく頑張ってくれたな。俺なんかのそばで55も、ありがとうな、子」
夜がけてから、吉郎はかかりつけ医に話をし、確認をしてもらった。医師は聴診器を当てたあと、静かに首を横に振った。
「らかなお顔です。最は苦しまなかったといますよ」
その言葉に、吉郎はわずかに救われた。
葬儀への連絡、所への挨拶、親戚への話。やるべきことはのようにあった。80歳の体を引きずるようにして、吉郎は1つずつ片付けていった。
しんでいる暇などない。
このをちゃんと送りす。
それが最の務めだった。
正には朝1番に話した。
「正、母さんが逝った」
話の向こうで、正が息をむのが分かった。
「すぐく」
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