"犬吠埼に消えた三人" 第2話
脱いだ。
洗面具。
化粧品。
みかけの茶。
そこには、ほんのしまで3がいたような温度が残っていた。
捜査員の1が鞄をけ、を確認した。
「警部、おかしな点があります。財布も分証も、現も全部あります」
斎藤は無言で鞄のをのぞき込んだ。
計画に姿を消すなら、財布や分証を置いていくはずがない。現まで残しているなら、自分のでくへ逃げた能性はかった。
斎藤は林へ尋ねた。
「朝、3は何か持ってましたか」
林は記憶を確かめるように目を細めた。
「いいえ。初のを見にくだけだからと、ほとんどぶらでした。鞄のようなものは持っていませんでした」
部で何らかの事件が起きた能性も考え、監識班が呼ばれた。
ドアノブ、窓の縁、畳、ベッドフレーム、洗面台。部の隅々まで調べられた。かりを落とし、ルミノール反応も確認された。
しかし、結果は気なほど何もなかった。
「3の指紋以、部のの痕跡はありません。血液反応も性です」
監識班の報告を聞き、斎藤は両で顔をこすった。
荷物はある。
財布もある。
分証もある。
だが、3だけがいない。
それは、捜査員たちにとって理解しがたい景だった。
現検証を終えると、捜査員たちは旅館の周辺へた。くの商、民、の角。
広告
写真を見せながら、1軒ずつ聞き込みをった。
「この3を見ませんでしたか」
しかし、元の朝の町は通りがなく、ほとんどのも閉まっていた。
返ってくる答えは、どれも首を横に振るものばかりだった。
斎藤は旅館のでの方角を見た。
3は確かにここをた。
だが、その先で何が起きたのか。
まだ誰にも分からなかった。
捜査チームは、3の最終目だった犬吠埼の岸へ向かった。
の朝には、初のを見ようとで埋め尽くされていた所だった。だが1が過ぎた岸は、まるで何事もなかったかのように静かだった。砂浜には無数の跡が入り乱れ、波打ち際にはたい潮が吹きつけていた。
「これだけがいた所で、誰にも気づかれずに消えたというのか」
若い捜査員がわずつぶやいた。
斎藤は厳しい表のままを見つめた。
「見落とすな。砂浜の端から端まで調べろ」
捜査員たちは数kmにわたって岸線を歩いた。岩の隙、防波堤の、の茂った空き、くの廃まで確認した。だが、靴も、も、血痕も、争った跡も見つからなかった。
「暗いうちにを滑らせてへ落ちた能性はありませんか」
1の捜査員がそう言った。
斎藤はすぐに首を横に振った。
「3が同に落ちるとは考えにくい。1が落ちたなら、残りの2が必ず助けを求めたはずだ」
広告
それでも万がを考え、保庁に協力が請された。巡がし、沿岸帯を捜索した。たい波を切り裂くようにがみ、面に漂うものを1つずつ確認した。
しかし、3の捜索でも何も見つからなかった。
陸にもにも、がかりはなかった。
そんな、通信記録の分析から奇妙な事実が浮かびがった。
3の携帯話は、19931231の夜11以、誰とも通話していなかった。だが源は入っており、朝5頃までは銚子内の基局に信号が残っていた。
そして、199411午510分。
3台の携帯話の信号が、1秒の誤差もなく同に途絶えていた。
通信記録を見た捜査員たちは、しばらく黙り込んだ。
偶然3台の池が同に切れることは、ほぼ考えられない。誰かが図に源を切ったか、端末を破壊した能性がかった。
旅館の部に残されたのポケットまで調べ直したが、携帯話は見つからなかった。
通信専が図のに丸をつけた。
「最に信号が途絶えた範囲は、この辺りです。旅館から岸へ向かうの途になります」
斎藤はその図を見つめ、すぐに指示をした。
「この帯をもう1度洗え。むら、側溝、廃、全部だ。携帯話の破片1つでも見つけろ」
捜査員たちは再び現へ向かった。ダウンジャケットは埃にまみれ、袋はで黒くなった。
それでも、探していた端末のも形もてこなかった。
物証がない。
目撃者もいない。
広告
おすすめ作品
-
完結第6話
骨壷に眠る花嫁
結婚式の2日前、山田晴恵は突然姿を消した。 婚約者との口論、消えた財布、荒らされた形跡のない部屋。警察は彼女を「結婚を恐れて逃げた花嫁」と判断し、事件は自発的失踪として処理された。 家族は世間の冷たい視線に耐え、婚約者は“残された新郎”として同情を集めたまま、時間だけが過ぎていく。 しかし6年後、群馬県の国道18号線沿いで排水設備の交換工事中、コンクリート製の雨水桝から異様な包みが見つかる。 中にあったのは、人間の頭部。 歯科記録の照合により、それは6年前に消えた晴恵のものだと判明した。 彼女は逃げたのではなかった。 では、誰が彼女を殺し、なぜ道路脇のコンクリートの中に隠したのか。 “逃亡した花嫁”という嘘が崩れた時、婚約者が守り続けた6年間の沈黙が、静かにほころび始める――。ミステリー|夫婦|真実|真相9.1千字5 220 -
完結第5話
八年目のインタビュー
1999年、静岡市で有名アナウンサー・高橋正弘の妻、純子が忽然と姿を消した。 夫はカメラの前で涙を流し、「今でも妻の帰りを待っています」と訴えた。世間は彼を、妻を失った悲劇の夫だと信じて疑わなかった。 しかし8年後、未解決事件を扱う番組の収録中、切り忘れられたピンマイクが、正弘の“ある独り言”を拾ってしまう。 「純子……あの時、お前が黙ってさえいれば――」 その一言から、眠っていた事件は再び動き出す。 失踪前夜の不可解な通話記録、消えた保険証書、純子が残した日記。そして、自宅の庭に隠されていたもの。 8年間、悲劇の夫を演じ続けた男の仮面が、一本の音声によって剥がされていく――。ミステリー|真相7.0千字5 748 -
完結第10話
箱根の盲点
探偵の樋口司は、不動産コンサルタントの宮原から「尾行と脅迫から守ってほしい」と依頼を受け、箱根出張に同行する。しかし滯在中、開発反対派の旅館主・戸田克彥が急死。樋口が記録した緻密な「行動ログ」は、結果として宮原の完璧なアリバイを証明するものとなってしまう。 數週間後、戸田の娘から「父の死因を調べてほしい」と頼まれた樋口は、過去の手帳を読み返す。そこに刻まれていたのは、自らの「プロとしての信頼」と「正確な記録」が、犯罪者の道具として利用されていたという殘酷な真実だった。 記録は事実を語るが、真実を語るとは限らない。探偵が自らの「盲點」に挑む、本格ミステリー。真相1.5萬字5 187 -
完結第5話
金庫に眠る遺言
1995年9月、東京・麻布の高階住宅で、70代の老夫婦が忽然と姿を消した。 玄関の鍵は內側からかかり、室內に荒らされた形跡はない。財布も攜帯電話も外出用の靴も殘されたまま。監視映像には、室內履きのままエレベーターに乗る2人の姿が映っていたが、その後、どこからも外へ出た記録はなかった。 消えた夫婦は、総資産8億円を超える不動産資産家。殘された3人の子どもたちは、それぞれ確かなアリバイを主張し、事件は真相にたどり著けないまま迷宮入りしていく。 やがて失蹤宣告が下され、莫大な遺産は3人の子どもたちへ分配された。麻布の住宅、銀座の商業ビル、箱根の別荘。すべては靜かに受け継がれ、事件は人々の記憶から薄れていった。 しかし25年後、銀行の貸金庫から見つかった一通の手紙が、止まっていた時間を再び動かす。 これは、親の愛と子どもの慾望が壊れていく、25年越しの家族ミステリー。相続|真実|行方不明|金銭問題7.2千字5 315 -
完結第6話
港の消失船長
1994年9月15日、橫浜港の霧深い埠頭で、貨物船の船長・木村俊助が突然姿を消した。 船長室には書類も鞄も殘されたまま。車も港內で見つかったが、本人だけがどこにもいない。最後に彼を呼び出したのは、妻の弟・佐藤健二だった。 事故か、失蹤か、それとも事件か。 真相が分からないまま7年が過ぎ、妻のゆき子は5億円の生命保険を受け取る。さらに、その一部は弟の健二へ渡り、2人は豊かな暮らしを手に入れていった。 しかし20年後、橫浜港の再開発工事で、コンテナの下から一體の遺骨が見つかる。 地下3メートルに埋められていた船長。 そして、止まった腕時計が示していたのは、失蹤當日の朝だった――。真実|裡の顔|行方不明9.3千字5 240