"犬吠埼に消えた三人" 第5話
「りません。私は何も……」
だが、指先は隠しようもなく震えていた。
斎藤がい声で言った。
「8もの、遺族に涙を流させておきながら、まだ隠すつもりですか」
その言葉に、信子の肩が崩れた。
「私が……私がやったんです」
彼女は泣きながら、最初の自を始めた。
「共を使い込んだことがばれて、銚子まで追いかけて謝りました。でも許してもらえなくて、岸で順子さんを突きばしてしまったんです」
しかし斎藤は、その話を聞きながら違を覚えていた。
成女性3が、岸で次々に落ちる。
その説は、どう考えても自然だった。
信子の証言を確認するため、警察は8に旅館から押収して保管していたシーツや枕を再鑑定した。
1994当には検できなかった痕跡も、2002のDNA鑑定技術なら調べられる能性があった。
2、鑑定結果が届いた。
「警部、ベッドシーツから微量の血液が見つかりました。DNAは渡辺順子さんと致しています」
斎藤は報告を握りしめた。
事件の始まりは岸ではなかった。
旅館の2階の部だった。
信子を再び取り調べると、彼女はらかに揺した。だが、まだ何かを隠していた。
その直、通信記録を洗い直していた捜査員が取調へ駆け込んできた。
「警部、199411午2、川信子の携帯話から部への発信記録がありました。
広告
相は……渡辺順子さんの夫、渡辺正弘です」
被害者の夫。
その名を聞いた瞬、斎藤の表が変わった。
正弘はすぐに警察署へ呼ばれた。
8の午2に、信子と3分通話していた記録を突きつけられると、正弘の顔は真っになった。
「それは……よく覚えていません」
斎藤は静かに通信記録を机へ置いた。
「誰もが寝静まっている午2に、ただの様子伺いですか」
い沈黙のあと、正弘は唇を噛んだ。
「実は、私もあの夜、銚子にいたんです」
取調の空気が凍った。
正弘は、妻の様子を審にい、こっそりをつけて銚子まで来ていたと話した。旅館のから2階の部を見張り、窓越しに女たちが激しく言い争うを見たという。
「信子さんが妻をく突きばして、妻はベッドの角にをぶつけました」
順子はそのに倒れ、から血を流した。
森妙子と岡田代は、すぐに病院へこうと言った。だが信子は警察に捕まることを恐れた。そこへ正弘が部へ駆け込んだ。
夫である正弘は、本来なら妻を救急へ運ぶべきだった。
しかし彼は、そうしなかった。
「妻は、しばらくして息を引き取りました」
正弘はうなだれた。
「代さんが脈を確かめて、もう息がないと言いました」
斎藤はりを抑えながら尋ねた。
「では、岸へ向かった理由は何ですか」
信子は泣きながら答えた。
広告
「に沈めれば、転落事故に見せかけられるとったんです」
そのにいた4は、順子の遺体を抱えて真夜のへ向かった。
午1頃、の気配が途絶えた防波堤の先端で、彼らは遺体をへ押し入れた。
だが、それで終わらなかった。
遺体を沈めた直、岡田代が言った。
「警察へく。こんなこと、黙っていられない」
森妙子も同した。
その瞬、信子と正弘は完全に追い詰められた。
2が警察へけば、すべてが終わる。
信子は震えながら告した。
「封じのために……2をろからの方へ突きばしました」
正弘も認めた。
「信子さん1では無理でした。私も緒に押しました」
斎藤は言葉を失った。
自分の妻を救わず、遺体をに沈め、さらに真実を話そうとした2までたいへ突き落とした。
それが、8隠されてきた真実だった。
信子と正弘の自は得られた。
だが、事件を完全に証するには、まだ決定な物証が必だった。
「3の遺体は本当に犬吠埼のへ沈めたのか」
斎藤が問いただすと、信子は泣きながらうなずいた。
「違いありません。全員、あのに……」
しかし8、遺体は1体もがっていなかった。
斎藤は保庁へ特別捜索を請した。
「の底をひっくり返してでも、3を族の元へ帰す」
2002、銚子沖には数隻の巡がした。潜士たちは酸素ボンベを背負い、たいへ入った。
潮流は激しく、底は複雑だった。8というは、あまりにもかった。
広告
おすすめ作品
-
完結第12話
「寄付は千円ぽっち」笑われた老夫婦の30年の秘密
町内会の夏祭りで、寄付が千円しかないと笑われた68歳の静子。古い自転車に乗り、夫の勉と慎ましく暮らす彼女は、婦人会長から「ケチな人」と見下され、記念式典の受付役まで外されてしまう。それでも静子は言い返さない。夫婦には、30年間、毎月15日に欠かさず続けてきた秘密の約束があった。やがて婦人会の記念式典に、育英基金の支援で大学を卒業した青年が現れる。青年が大切に持っていた一通の手紙をきっかけに、会場の空気が思いがけない方向へ変わり始める。人生逆転|夫婦|真実|金銭問題1.9万字5 598 -
完結第10話
腎臓をあげた私に離婚届――夫の隣には若い女
三歳の娘を育てる裕子は、重い腎臓病になった夫・英司を救うため、自分の腎臓を一つ提供した。ところが手術後、体調を崩した裕子を待っていたのは、夫からの暴言と冷たい仕打ちだった。やがて英司は、若い女との新生活を理由に離婚届を突きつけ、娘まで奪おうとする。そんな裕子の味方になったのは、意外にも義母だった。命を救ってくれた妻を平然と捨てようとする夫。すべてを失いかけた裕子は、娘と自分の人生を守るため、反撃を決意する。夫婦|真実|裏の顔|真相|第二の人生1.4万字5 993 -
完結第12話
150万円を払わせたママ友、次は寿司300万円
夫の昇進祝いで家族とレストランを訪れたひまり。楽しい食事の最後に告げられた会計は、なんと150万円。原因は、顔見知り程度のママ友・ぽて子一家が大量の料理を注文し、勝手にひまりへ支払いを押しつけたことだった。仕方なく立て替えたものの、返金を求めると渡されたのは、まさかのポテトチップスの空袋。しかも数日後、ぽて子は高級寿司店で新たな計画を立て始める。「ママ友なんだから払って当然」と言い張る一家に、ひまりが取った行動とは?因果応報|夫婦|真相|親子関係|金銭問題|修羅場1.2万字5 657 -
完結第12話
毎朝「出ていけ」と怒鳴る隣人、測量の日に顔色が変わった
「引っ越しなさい!」毎朝七時、向かいの家の奥さんに怒鳴られる六十八歳のしず子。生まれ育った家を手放す気はないが、理由のない嫌がらせは日に日にひどくなり、相手の夫まで引っ越しを勧めてくる。しず子は言い返す代わりに、毎日の出来事をノートに書き留めていた。そんなある日、隣人の土地売却をきっかけに境界の測量が行われる。測量士が示した一本の線と、亡き祖父が残した古い封筒。そこには、長年の隣人関係を覆す意外な約束が隠されていた。怒り|真実|修羅場1.3万字5 365 -
完結第12話
新幹線で母娘の席を奪った女、現れた女性を見て絶句
五歳の娘パニミと夏休みの帰省を楽しみにしていた、弁当店を営むシングルマザーのパニコ。新幹線の自由席でようやく親子並んで座れたものの、見知らぬ女性に突然コーヒーをこぼされてしまう。服を拭くため席を外したわずかな間に、その女性は荷物を床へ放り出し、二人の席を奪っていた。娘を守るため、悔しさをこらえてデッキへ向かったパニコ。そこで偶然、日頃から世話になっている立花会長と再会する。事情を聞いた会長が一緒に席へ戻ると、先ほどまで威張っていた女性の顔色が一変して……。怒り|真相|親子関係|修羅場1.2万字5 961 -
完結第12話
フクと小さなおにぎり
ペットショップの隅で「特価品」の札をつけられていた猫、フク。以前の飼い主に一度迎えられながら、すぐに店へ戻された過去があった。幼い娘ゆいに心を動かされ、フクを家族に迎えた俺と妻の由佳。少しずつ新しい家に慣れていくフクだったが、なぜか人前では決してご飯を食べようとしない。その理由を知った俺たちは、無理をさせずに見守り続ける。迎えてから約一年が過ぎたある夜、二歳になったゆいが小さな椅子を運んできた。娘の何気ない行動が、フクの心を少しずつ変えていく、家族の温かな物語。感動|真実1.1万字5 884 -
完結第10話
消えた卵の秘密
茜の家では、父の再婚相手・美津江が届けてくれる卵が、なぜか毎回なくなっていた。夜中につまみ食いをする夫の陽斗を疑っていた茜だったが、ある日、卵をこっそり持ち出す小学一年生の娘・凛を目撃する。「急に卵が嫌いになった」と泣く娘。しかし、いつもは素直な凛の様子はどこかおかしかった。そんな中、美津江から再び大量の卵が届く。茜は娘のために手作りプリンを用意するが、それを食べた美津江は、材料を聞いた途端に顔色を変えてしまう。娘が必死に隠していた秘密とは、いったい何だったのか。祖父母と孫|真実|真相|第二の人生1.4万字5 735 -
完結第12話
竹林の向こうの白衣
八歳のティアラは、重い喘息を理由に山奥の療養施設へ預けられた。だが本当の理由は、両親が天才と呼ばれる兄の教育に専念するためだった。家族に忘れられた少女を支えたのは、施設の人々と小児科医の竹之内先生。やがて彼女は自分の名前を変え、医師になる道を選ぶ。努力の末に脳神経外科医となった洋子は、ある冬の深夜、救急搬送された患者と向き合うことに。かつて自分を置き去りにした家族との思いがけない再会が、彼女の人生を大きく揺さぶり始める。兄弟姉妹|真相|絶縁|親子関係1.7万字5 557