"多摩川に沈んだ食堂" 第7話
落ちくぼんだ目がきく見かれ、それから震えるように伏せられた。
逃げようとはしなかった。
ただ、そのにち尽くしていた。
い、来るべきものを待っていたような表だった。
「オンスクさんのことですか」
絞りすような、かれた声だった。
「ええ」
宮本は静かに答えた。
「川から彼女のげ庫が見つかりました。に帳が入っていた。あなたのことがかれていました」
男は目を閉じた。
そしてゆっくりとドアをきくけた。
「お入りください。お話しします。もう、いいんです。すぎました」
部は狭く、暗かった。
さなちゃぶ台、畳んだ布団、古いテレビ。物のない暮らしぶりは、かつてのオンスクのまいとどこか似ていた。
男はちゃぶ台のに座り、2にも座るようで示した。
しばらく俯いたまま、何も言わなかった。
やがてをいた、その声は震えていた。
「オンスクさんは、私にとって姉のようなでした。いや、それ以です」
男は、ぽつりぽつりと語り始めた。
実の族とはぐれ、たった1で本に来た、誰も頼れるはいなかった。そんな、オンスクだけが男を受け入れてくれた。
同じ国から逃れてきたとして、オンスクは男を本当の弟のように面倒を見た。腹をすかせていれば飯をわせ、仕事がなければりいにを利いてやり、落ち込んでいれば励ました。
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「オンスクさんのの魚が、私の故郷のに1番かったんです」
男は目を伏せた。
「あれをべると、なぜか涙がました」
だが、男の暮らしは次第にき詰まった。
仕事は続きせず、わずかなにも困るようになった。悪いりいに勧められるままをした話で、借まで背負ってしまった。返す当てもないのに、利息だけが膨らんでいった。
追い詰められた男は、オンスクのへを向けるようになった。
「最初は、ほんのしだけのつもりでした。1万円、2万円。すぐ返すからと」
しかし、返せるわけがなかった。
返せないまま、また借りにく。その繰り返しだった。
「自分でも分かっていたんです。オンスクさんのがぎりぎりの商売だってことは。あのが自分のべる分まで削って、私にを渡してくれているってことも」
男の声が苦しげに歪んだ。
「分かっていたのに、やめられなかった」
オンスクは断らなかった。
膨らみ続ける無に、それでもできる限り応じ続けた。けれど、それにも限界が来た。の蓄えは底をついた。
そして、あの夜が来た。
男は度、言葉を切った。
落ちくぼんだ目から、涙が筋こぼれ落ちた。
それを拭おうともせず、男は続けた。
「あの夜も、私はを借りにきました。借取りに、までにを作らなければひどい目に遭わせると脅されていたんです。
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藁にもすがるいで、オンスクさんのに駆け込んだ」
を閉めたの夜だった。
オンスクは男をの奥へ通した。そして静かに首を振った。
「もうない」
そう言ったという。
「あなたのためにできることは全部した。でも、もう私には何も残っていない」
男はその言葉を聞いても引けなかった。
分かっていた。オンスクは分すぎるほど自分を助けてくれていた。けれど、追い詰められた男のには、恐怖と焦りしかなかった。
「頼む。なんとかしてくれ。あんたしかいないんだ」
男はそうすがった。
オンスクは、それでも首を振った。
そして男のを振りほどこうとした。
「私はかっとなって、オンスクさんの腕を掴んで引いたんです。オンスクさんはそれを振り払おうとして……」
男の声が途切れた。
部のに痛いほどの沈黙が満ちた。
「オンスクさんは、よろけて、の奥の階段のそばでを踏みしました。ろに倒れて、をく打って……」
男は両で顔を覆った。
「かなくなったんです」
男は震える声で続けた。
「すぐに抱き起こしました。何度も名を呼びました。オンスクさん、起きてくれって。でも、もう2度と目をけなかった」
それは、確な殺を持った為ではなかった。
を求めて揉みい、振り払おうとしたほんの瞬の来事。
しかし、その瞬が取り返しのつかない結果をんでしまった。
「救急を呼ぼうとしました」
男は言った。
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