"桜を連れて消えた妻" 第4話
テレビの音もさくし、なるべく活の気配を消した。
健が帰ってきても、もういちいち起きて迎えることはなかった。
ただドアのく音と靴を脱ぐ音だけを聞いて、ああ帰ってきたんだ、とうだけだった。
ある、健のシャツから見慣れないりがした。
甘くてしいの匂いだった。
私はそのシャツをにしたまま、しばらくけなかった。
問いただすことはできた。
でも、しなかった。
答えを聞くのが怖かったからではない。
分、もうっていたからだ。
数、健のスマートフォンがテーブルに置きっぱなしになっていた。
画面に1通のメッセージが表示された。
「今は会えて嬉しかったです」
その1文だけで、すべてが繋がった。
私は画面を消し、何も見なかったことにした。
のどこかで、これ以ってしまえば戻れなくなると分かっていた。
それでも活は続いていった。
朝になれば朝ご飯を作り、桜を保育園へ送り、に戻って仕事をした。午には迎えにき、夕の準備をして、お呂に入れて寝かせる。
その繰り返しので、私はしずつ自分のを切りしていった。
考えすぎない。
期待しない。
じすぎない。
そうしないと、毎が持たなかった。
桜が3歳になった頃、初めてはっきりした変化があった。
健がにほとんどいなくなったのだ。
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帰ってきてもすぐにシャワーを浴び、スマートフォンを見ながら事を済ませた。会話はほとんどなかった。
桜が話しかけても、「うん」とだけ答え、すぐに線をした。
その様子を見て、私は気づいた。
このはもう、のに居所をじていない。
そして同に、に別の居所がある。
ある夕方、保育園の帰りに桜がふいに聞いた。
「パパ、なんでいないの?」
私は瞬答えに詰まった。
「仕事が忙しいのよ」
そう言うと、桜はさく頷いた。
でもその顔は、納得しているようには見えなかった。
子供は、がうよりずっと空気を読んでいる。
そのの夜、健は珍しくく帰ってきた。
卓に座ると、私はいつも通りご飯をした。しばらく無言のまま事がんだ。
そして健が箸を置いた。
「話がある」
その声は、どこか決めてきたようない音だった。
私はを止めて、静かに頷いた。
桜は隣でスプーンを握ったまま、私たちの顔を見ていた。
健は1度く息を吸ってから言った。
「会社の同僚と付きっている」
その言葉は、っていたよりもずっとあっさりとてきた。
私は驚かなかった。
やっぱりそうなんだ。
その程度のしか湧かなかった。
健は続けた。
「そのに、子供ができた」
私は瞬、が止まったようにじた。
けれど、すぐにを理解した。
子供。
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そして次に来る言葉も分かってしまった。
「男の子だ」
その言で、部の空気が変わった。
義母の言葉。
青い。
ため息。
すべてが1本の線で繋がった。
桜は何も分からず、ただ私の顔を見ていた。
私はゆっくりと息を吐いた。
「そう」
それだけ言った。
健はし苛ったように言葉をした。
「向こうは産むつもりだ」
そしてしを置いてから言った。
「婚してほしい」
その言葉は、とても事務だった。
お願いではなく、決定事項のように聞こえた。
私はしばらく何も言わなかった。
しいとも、悔しいともわなかった。
ただ、とても静かだった。
ああ、ここまで来たんだ。
そうった。
「ママ?」
桜がさく呼んだ。
私はその声で現実に引き戻された。
「丈夫よ」
そう言って、桜のを撫でた。
健はその様子を見て、し目をそらした。
その仕を見た、私は初めてこのに対してたいものをじた。
逃げている。
そうった。
私はゆっくりちがり、引きしから1枚のをした。
それはずっとから用していた婚届だった。
健は目を見いた。
「なんでそれ……」
私は答えなかった。
ただペンをに取り、自分の名をいた。
は震えなかった。
名をき終えた、なぜかしだけ息が楽になった。
私はを健のに置いた。
「これでいいでしょう?」
その言だけ言った。
健は何か言いかけて、結局何も言わなかった。
私は計を見た。
針がゆっくりといていた。
あと3分。
のでそう数えた。
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