みかん小説
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"桜を連れて消えた妻" 第6話

はしばらくして、静かに械を止めた。

「今はここまでにしましょう」

その言葉で、やっとした。

がり、何か言おうとして、結局何も言えなかった。

義母は子の縁をく握り、顔をげられなかった。

女性はお腹にを当てたまま、誰とも目をわせなかった。

3は、ばらばらのまま診察た。

が、やけに眩しく見えた。

た途端、義母が女性に向かって言った。

「どういうことなの?」

その声は、これまで聞いたことのないい音だった。

女性はさく首を振った。

そして、ほとんど聞き取れないほどさな声で言った。

「ごめんなさい」

それだけだった。

その言で、すべてが決まった。

義母はそのでよろめき、壁にをついた。

信じていたものが、気に崩れた顔だった。

は女性を見た。

その目には、りより先に理解が浮かんでいた。

自分は最初から選ばれていなかった。

のいい相だった。

その事実が、ゆっくり胸に落ちていった。

は何も言わず、そのれた。

誰も引き止めなかった。

病院をると、空はよくれていた。

と同じように何も変わっていない空だった。けれど、健ではすべてが変わっていた。

に乗り込み、ハンドルを握ったまま、しばらくけなかった。

彼はしていた。

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桜がまれた、あのさなを見たみ。

そして、あの夜のこと。

病院の廊で医者に言われた言葉。

「奥さんの体はもう限界です。次は命の危険があります」

その言葉を聞いた、自分は何をったのか。

妻が助かったことをんだのか。

それとも、2目が難しいと聞いて落ち込んだのか。

はっきりとはせなかった。

ただ、そのに帰ってから義母の言葉に何も返さなかったことだけは、はっきり覚えていた。

止めることも、守ることもしなかった。

ただ黙っていた。

その結果が、今ここにあった。

はゆっくり目を閉じた。

そして初めて気づいた。

自分は何も失っていないとい込んでいただけで、本当は1番切なものを、すでに放していたのだと。

その頃、れたさな町で、私は桜と2で暮らしていた。

借りたは古かったけれど、窓からがよく入った。

朝になると、鳥の声で目が覚めた。

桜はその音を聞いて、嬉しそうに笑った。

「ママ、綺麗な声だね」

私は頷いた。

「そうだね」

その言葉に、もう誰の顔も伺う必はなかった。

台所は狭く、調理台も古かった。

それでも私は、その所が好きだった。

自分のために料理をして、娘と緒にべる。

それだけで、が静かに満たされた。

仕事はくはなかったが、なんとか2で暮らしていけた。

きな贅沢はできない。

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でも、誰にも何も求められない。

それがどれほど楽なのかを、私は初めてった。

あるの午、桜は庭で遊んでいた。

さなを見つけて、こちらへ駆け寄ってきた。

「これ、ママにあげる」

私はしゃがんで、そのを受け取った。

「ありがとう」

その言だけで、胸がいっぱいになった。

その、ふと線をじた。

顔をげると、れたの向こうに1の男がっていた。

違えるはずがなかった。

だった。

よりずっと痩せて、どこか疲れた顔をしていた。けれど、その目はまっすぐこちらを見ていた。

私は何も言わなかった。

ただ1秒だけ見つめて、すぐに線をした。

桜が私のを引っ張った。

「ママ、あの誰?」

私はほんのしだけ考えるふりをした。

そして、静かに答えた。

らないよ」

その言葉は、とても軽く、とてもはっきりしていた。

はそのから1歩もかなかった。

づくことも、呼び止めることもしなかった。

ただ、私たちの姿を見つめたまま、ち尽くしていた。

やがて、桜の笑い声がに乗って広がった。

その音は、まっすぐ空へがっていった。

はその声を聞きながら、ゆっくりと目を閉じた。

そして何も持たないまま、静かにそのった。

私は振り返らなかった。

もう、振り返る理由がどこにもなかったからだ。

それでも胸の奥に残っていたさが、しだけ軽くなった気がした。

が吹いて、庭のさく揺れた。

桜が笑って、私のを握った。

私はそのを握り返して、同じように笑った。

それだけで、もう分だった。

これが、私たちの選んだ暮らしだった。

そしてようやくに入れた、静かな幸せだった。

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