"喪服で行った結婚式" 第4話
戻せなかったもの。
私だけがまだを残していたもの。
私はその指輪をのひらに乗せました。
昔、巧はこの指輪を私にはめながら言いました。
「苦労はさせるかもしれない。でも、1にはしない」
約束は、破ったより、信じていたの方にく残るのです。
私は指輪をさな封筒に入れました。
そして、予約確認と緒に机のに置きました。
その朝、私は泣きませんでした。
ただ、初めていました。
私がまだ妻でいようとしていたことの方が、違いだったのかもしれない。
結婚は、1で守れるものではありません。
片方がをしたも握り続けることを、はではなく、執着と呼ぶのかもしれません。
そのから、私は証拠を集めました。
共同座の細。
クレジットカードの利用履歴。
保険証券。
の名義に関する類。
そして、式の予約確認。
共同座から消えていた額は、全部で150万円でした。
50万円。
30万円。
70万円。
すべて、式の内が支払われるでした。
それだけではありません。
ジュエリーショップ、68万円。
ホテルレストラン、4万2000円。
ドレスサロン予約、10万円。
私はその数字をノートにき写しました。
りではなく、確認のために。
は言えば揺れます。
けれど数字は、黙ったまま残ります。
数、私は藤崎里奈弁護士の事務所へきました。
広告
さな会議に通されると、私は鞄から類を1枚ずつ取りしました。
予約確認。
領収。
共同座の細。
クレジットカードの利用履歴。
玲奈さんから届いたメッセージ。
古い結婚指輪だけは、しませんでした。
それは証拠ではなく、私ので終わらせるためのものだったからです。
藤崎弁護士は、私が並べた類を1枚ずつ確認しました。
慰めの言葉はありませんでした。
「つらかったですね」とも、「ひどいですね」とも言いませんでした。
その静けさが、かえって私を支えてくれました。
しばらく類を見た、藤崎弁護士は顔をげました。
「婚に式を予約したこと自体が、すぐに犯罪になるわけではありません」
私は黙って頷きました。
「ただし、婚姻の共同資産を相女性との挙式準備に使っていたなら、財産分与や慰謝料の交渉ではきな材料になります」
私は膝のでをねました。
「私は彼を罰したいわけではありません」
そう言うと、藤崎弁護士はしだけ私を見ました。
「では、何を望みますか?」
私はしを置いて答えました。
「私を、なかったことにさせたくありません」
それが本音でした。
そのの夕方、また玲奈さんからメッセージが届きました。
「巧さんは、奥様とは族みたいなものであって、もう女性としては見られないと言っていました」
広告
その瞬、指先だけが震えました。
私は返信しませんでした。
画面を保しました。
しいフォルダを作り、名をつけました。
終わり。
その夜、巧はいつも通り帰ってきました。
靴を脱ぎ、を洗い、卓に座りました。
私がした夕をべながら、何もらない顔で言いました。
「のいシャツ、アイロンかけてある?」
私は答えました。
「ええ」
巧は噌汁をみ、し眉をひそめました。
「最、が変わったな。なんというか、気持ちが入ってない」
私は箸を置きませんでした。
気持ち。
私の気持ちは、彼が別の女のドレス代に使った座ので、もう分に踏まれていました。
それでも私は静かに言いました。
「疲れているのかもしれないわ」
巧はため息をつきました。
「そういうところなんだよ。黙ってしているような顔をして、こっちに罪悪を持たせる」
私は初めて、彼の顔をまっすぐ見ました。
「罪悪があるの?」
巧の箸が止まりました。
ほんの1秒。
それだけで分でした。
彼はすぐに笑いました。
「言葉の綾だよ。さゆりはすぐく考えすぎる」
その夜、私は寝で喪をしました。
黒い布は、余計なを吸い込むように静かでした。
誰かを呪うためではありません。
誰かを辱めるためでもありません。
終わったものに、終わったと告げるためでした。
翌朝、私は式へ話をしました。
「更の族の者です。打ちわせのを確認したいのですが」
受付の女性は丁寧に答えました。
広告
おすすめ作品
-
完結第15話
誕生日に姪を選んだ夫、3年後の再会で絶句
読書好きで控えめな陽菜子は、誠実だと信じていた夫・高尾と穏やかに暮らしていた。ところが三十歳の誕生日、夫は姪の百花を連れて現れ、妊娠を告げたうえで離婚届を突きつける。「子供ができないお前が悪い」と責められ、家まで追い出された陽菜子は、誰も自分を知らない町で新しい生活を始める。やがて高校時代の同級生との再会をきっかけに、少しずつ前を向けるようになっていく。そして数年後、偶然出会った元夫と姪の前で、思いがけない出来事が起こる。因果応報|人生逆転|夫婦|親子関係|修羅場|不倫2.1万字5 1447 -
完結第10話
父の葬儀中「飯を作れ」と怒鳴った夫に、参列者が…
父の葬儀で喪主を務める美穂のもとに、夫・健一から何度も電話がかかってきた。用件は「今すぐ帰って飯を作れ」という身勝手な要求だった。二十年間、夫の暴言と厳しい金銭管理に耐えてきた美穂。父との最後の別れさえ邪魔され、ついに参列者の前で夫の怒声が響き渡る。すると、最後列に座っていた一人の男性が立ち上がった。その人物は亡き父の教え子で、健一とも思いがけないつながりがあった。因果応報|怒り|夫婦|親子関係|修羅場1.6万字5 2123 -
完結第10話
144枚の給与明細
金型の仕上げ職人として20年以上の経験を持つ宮下明。会社の危機を救うほどの腕前を持ちながら、12年間、月給は19万円のままだった。それでも創業者への恩を忘れず、黙々と働いてきた宮下だったが、ある日、専務から突然の配置転換を命じられる。職人としての誇りを踏みにじられ、退職を決意した翌朝、会長が自宅へ駆けつけてきた。「年収1200万円では足りないのか?」――その一言から、会社の金をめぐる不可解な事実が明らかになり始める。職場逆転|第二の人生|修羅場1.7万字5 1334 -
完結第12話
結婚式当日「新婦が救急搬送」私、ここにいますけど?
高校時代から付き合ってきた健二と、ようやく結婚することになった警察官の愛。式の準備をほとんど任せきりにする健二に寂しさを感じながらも、愛は幸せな結婚生活を信じていた。 ところが結婚式当日の朝、式場に「新婦の愛さんが病院に運ばれた」という連絡が入る。愛本人は、ウェディングドレス姿で控室にいるというのに。 しかも病院の女性は、健二を呼んでほしいと言っているらしい。そこへ遅れて現れた健二は、愛の姿を見るなり顔色を変えた。 病院にいる「愛さん」は誰なのか。そして、長年信じてきた婚約者が隠していた秘密とは――。因果応報|人生逆転|夫婦|修羅場1.3万字5 1849 -
完結第15話
夫の出張中に義両親が居座った――電話で判明した正体
夫の海外出張中、蒼井の家に突然やってきたのは、十年ぶりに顔を合わせる義両親だった。「息子から同居の許可をもらった」と言い張る二人は、家の料理を食べ尽くし、蒼井や娘のメイの服まで勝手に着て破いてしまう。追い出そうとしても、二人は居座るばかり。頼みの夫は電波の届かない場所にいて、連絡も取れない。そんな中、ようやく夫から電話がかかってくる。ところが、蒼井の訴えを聞いた夫は、思いもよらないことを口にした。厚かましい訪問者に振り回された母娘の、騒がしくも痛快な逆転劇。嫁姑|夫婦|絶縁|修羅場1.4万字5 412 -
完結第15話
「一緒に暮らそう」親切な男性に質問すると、顔色が変わった
夫を亡くして四年、六十八歳の静子は、一人暮らしを気ままに楽しんでいた。そんなある日、親友の千鶴から、買い物袋を持ってくれる親切な男性・佐藤の話を聞く。七十四歳の佐藤は千鶴に同居を申し込み、千鶴も久しぶりの出会いに心を弾ませていた。ところが、静子にも佐藤が近づいてくる。しかも、千鶴に話したのとよく似た言葉で同居を持ちかけてきたのだ。静子が何気なく尋ねた一つの質問から、男性の思わぬ本音が見え始める。人生逆転|孤独|第二の人生|修羅場1.4万字5 734 -
完結第12話
150万円を払わせたママ友、次は寿司300万円
夫の昇進祝いで家族とレストランを訪れたひまり。楽しい食事の最後に告げられた会計は、なんと150万円。原因は、顔見知り程度のママ友・ぽて子一家が大量の料理を注文し、勝手にひまりへ支払いを押しつけたことだった。仕方なく立て替えたものの、返金を求めると渡されたのは、まさかのポテトチップスの空袋。しかも数日後、ぽて子は高級寿司店で新たな計画を立て始める。「ママ友なんだから払って当然」と言い張る一家に、ひまりが取った行動とは?因果応報|夫婦|真相|親子関係|金銭問題|修羅場1.2万字5 1035 -
完結第12話
毎朝「出ていけ」と怒鳴る隣人、測量の日に顔色が変わった
「引っ越しなさい!」毎朝七時、向かいの家の奥さんに怒鳴られる六十八歳のしず子。生まれ育った家を手放す気はないが、理由のない嫌がらせは日に日にひどくなり、相手の夫まで引っ越しを勧めてくる。しず子は言い返す代わりに、毎日の出来事をノートに書き留めていた。そんなある日、隣人の土地売却をきっかけに境界の測量が行われる。測量士が示した一本の線と、亡き祖父が残した古い封筒。そこには、長年の隣人関係を覆す意外な約束が隠されていた。怒り|真実|修羅場1.3万字5 529 -
完結第12話
新幹線で母娘の席を奪った女、現れた女性を見て絶句
五歳の娘パニミと夏休みの帰省を楽しみにしていた、弁当店を営むシングルマザーのパニコ。新幹線の自由席でようやく親子並んで座れたものの、見知らぬ女性に突然コーヒーをこぼされてしまう。服を拭くため席を外したわずかな間に、その女性は荷物を床へ放り出し、二人の席を奪っていた。娘を守るため、悔しさをこらえてデッキへ向かったパニコ。そこで偶然、日頃から世話になっている立花会長と再会する。事情を聞いた会長が一緒に席へ戻ると、先ほどまで威張っていた女性の顔色が一変して……。怒り|真相|親子関係|修羅場1.2万字5 1136 -
完結第10話
「中卒女に現場は無理」職人10人が辞めた結果
中学卒業後、十五歳で職人の世界に飛び込んだ堀江千夏。三十二歳で工務店の現場責任者に抜擢されるが、古参の職人頭・岩木は「中卒の女に現場が回せるか」と嘲笑う。やがて岩木を含む十人が一斉に退職。大型介護施設の改修工事は納期目前なのに、残された職人はわずか三人だった。しかし千夏には、十七年間積み重ねてきた技術と、二十冊を超える黒い手帳があった。仲間とともに現場の立て直しに挑む千夏。その一方で、手帳に記された資材の数字が、会社に隠された不審な事実を浮かび上がらせていく。職場逆転|因果応報|人生逆転|修羅場1.3万字5 445