"白いワンピースの帰還" 第1話
19975、平の夕方だった。
郊にあるパチンコの駐に、1台のが入ってきた。を止めたのは1740分頃。運転席から母の美咲がり、部座席から6歳の娘、桜がさなで面にりた。
桜はいワンピースを着て、元にはサンダルを履いていた。にはさなバッグを持ち、母の横をれないように歩いていた。
そのは、にいた父の久志を迎えに来ただけだった。
入のガラス扉は自でき、2がに入ると、るい照とパチンコ台の音が気に押し寄せた。内にはタバコの匂いがく残り、景品カウンターの周りにはの流れがあった。
美咲は桜のを軽く握りながら、カウンターをに曲がった。その先には景品コーナーがあり、奥には子どもが好きそうなお菓子の棚が並んでいた。
「しだけ見ていてもいいよ」
美咲がそう言うと、桜は嬉しそうに棚のへづいた。さなでグミの袋をに取り、のついた袋をじっと見比べる。
美咲はそのしろで財布を確かめた。カウンターの奥には、父の久志が景品交換の列に並んでいるのが見えた。
そのにいたは、わずか1分ほどだった。
「桜、どれにする?」
美咲が声をかけると、桜はいワンピースの裾を揺らして振り返った。にはお菓子の袋を持ち、で母の方をちらりと見た。
広告
その直、桜は棚の隅へ歩いていった。
美咲がそちらへ線を移した、桜の姿はもうなかった。
最初は、棚のに隠れたのだとった。
美咲は柱の向こうを覗き込み、すぐ横の景品コーナーも確認した。だが、いワンピースはどこにも見えない。
「桜?」
声をして呼んだが、返事はなかった。
美咲は入の方へ向かった。ガラス扉のには駐が広がっている。まだ夕方のるさは残っていたが、そこにも桜の姿はなかった。
その、景品交換を終えた久志がカウンターからてきた。
「どうした?」
美咲は振り返り、声を抑えきれないまま言った。
「桜が……ちょっと見えなくなったの」
久志の表が変わった。
2はすぐに内を探し始めた。景品棚の奥、スロット台の通、トイレの入、柱の。音とに包まれた内を何度も歩いた。
けれど、桜はいなかった。
美咲のには汗がにじみ、呼吸がしずつ乱れ始めた。くの員に声をかける。
「さい女の子を見ませんでしたか。いワンピースを着ています」
員は周囲を見回してから、首を横に振った。
「このは、子どもはあまり見ませんね」
その言葉を聞いた瞬、美咲の胸の奥にたいものが広がった。
5分が過ぎた頃、美咲は正面をて駐を見回した。との、舗の壁際、ゴミ箱の裏。どこを見ても桜はいない。
広告
久志はの奥から順に歩き、桜の名を何度も呼んでいた。の部座席も確認した。駐の周囲も回った。だが、変わったものは何もなかった。
美咲はを止め、背に汗がすっと流れるのをじた。
何かがおかしい。
ただ見失っただけではない。
そうった、久志が戻ってきた。
「もう1度、内を探そう」
2は再び入へ戻り、別々に通を歩いた。の央にはきな柱があり、その向こう側は瞬だけ見通しが悪くなる所だった。
美咲はその柱のでを止めた。
桜の気配はない。
ただ元に、さなお菓子の袋が落ちていた。
美咲はしゃがみ込み、それを拾いげた。指先にたさが残る。さっき桜が持っていた袋だった。
「落としたのかな……」
声はかすかに震えていた。
そのにも、自ドアは何度も閉を繰り返していた。の空はしずつ暗くなり、駐にはのエンジン音だけが響いている。
になってえば、内には角がいくつもあった。
柱の裏。
景品コーナーの奥。
トイレの角。
そしてへ続く通。
そのどこかで何が起きていたのか、この点では誰にも分からなかった。
内には監カメラが全部で12台あった。映像データは事務所のパソコンに記録されており、警察が到着した、失踪の映像が細かく確認されることになった。
入、景品カウンター、トイレ、スロットの通。
順番に見直すと、美咲と桜がカウンターを歩く面が映っていた。
広告
おすすめ作品
-
完結第11話
雨の美容室ローズ
2003年、埼玉県川口市の古い商店街で、美容室「ローズ」を1人で営んでいた宮下しず子が、雨の朝に突然姿を消した。 店の明かりはついたまま。床には切ったばかりの髪が落ち、ハサミと櫛は使いかけのまま置かれていた。レジの金も財布も残され、争った跡もない。 まるで、誰かの髪を切っている途中で、店主だけが雨に溶けるように消えてしまったかのようだった。 警察が追ったのは、前日の夕方に店を訪れた見知らぬ男。痩せて背が高く、雨に濡れたままローズへ入っていった「あの日の客」だった。 しかし男の名前も行方も分からず、事件は迷宮入りする。 それから10年後。 取り壊されることになった美容室の床下から、古い予約帳と一枚の写真が見つかる。そこに写っていたのは、かつて誰も正体をつかめなかった最後の客。 写真の裏には、しず子の筆跡でただ一言、こう書かれていた。 「金田さん 福島」 10年前の雨の夜、しず子はなぜ店を開けたまま姿を消したのか。 そして、最後の客と彼女の間に隠されていた古い約束とは――。ミステリー|真実1.7萬字5 18 -
完結第5話
消えた教師と127番の鍵
1997年、北アルプスで単独登山をしていた小学校教師・佐藤幸恵が、忽然と姿を消した。 リュックも靴も水筒も見つからず、まるで山に吸い込まれたかのように消えた彼女。家族は必死に捜し続けたが、手がかりは何ひとつ残されていなかった。 それから2年後。 秋の渓谷で、登山客が岩の間に挟まった小さな紫色の小銭入れを発見する。中に入っていたのは、幸恵の身分証明書、謎の鍵、そして破れた一枚のメモだった。 そこに震える文字で書かれていたのは―― 「私はこの山に1人ではなかった」 彼女は本当に単独登山中に遭難したのか。 それとも、山にはもう1人、誰かがいたのか。 小銭入れに残された127番の鍵が、2年間眠っていた真実の扉を開いていく。ミステリー|真実7.5千字5 4 -
完結第6話
秩父の森に残された映像
2003年、卒業課題のために秩父山中へ向かった5人の大学生が、森の奥で忽然と姿を消した。 彼らが調べようとしていたのは、管理区域外で夜ごと聞こえるという重機の音と、地図にない工事現場の噂。ビデオカメラ、GPS、無線機を持って森へ入った5人は、やがて人の気配が消えたはずの山中で、不自然な構造物と誰かに見張られているような視線を感じ始める。 そして最後の夜。 暗闇の中で響いた悲鳴、壊された車、森の奥へ消えていく仲間たち。翌日発見されたのは、傷を負い、怯えきった1人の生存者だけだった。 事件は山岳事故として処理されかけ、4人の行方は分からないまま時だけが流れていく。 しかし7年後、秩父の山中で発見された1台のビデオカメラが、封じられていた真実を再び呼び覚ます。 そこに映っていたのは、ただの遭難では説明できない、森の奥に隠された“誰かの罪”だった――。ミステリー|行方不明9.2千字5 17 -
完結第8話
赤城山に消えた幸
2005年春、群馬・赤城山の山開きに参加した52歳の女性・木村幸が、下山中に忽然と姿を消した。 最後に彼女と一緒にいたのは、山岳会の登山リーダー・田中健二。彼は「彼女は先に下りた」と証言したが、幸は打ち上げ会場にも、自宅にも戻らなかった。 警察、消防、山岳救助隊による大規模な捜索が行われたものの、足跡も所持品も見つからない。まるで山の中で、彼女だけが消えてしまったかのようだった。 それから1年後。 赤城山の麓にある廃山荘のリフォーム工事中、古い浄化槽の中から人骨が発見される。そばには登山靴、指輪、壊れた携帯電話。 山で消えたはずの女性は、なぜ登山道から離れた廃山荘にいたのか。 そして、彼女の最後を知っていた人物は誰だったのか――。ミステリー|真実1.1萬字5 126 -
完結第5話
青い門扉の三つ子
1992年12月、名古屋の静かな路地で、5歳の三つ子の兄弟が一夜にして姿を消した。 寝かしつけたはずの布団は空になり、玄関はわずかに開いていた。外部の男による誘拐、近所の不審者、曖昧な目撃証言――捜査は何度も別の方向へ揺れたが、決定的な手がかりは見つからないまま、事件は未解決のまま時の中へ沈んでいく。 しかし、20年後。 かつて祖母が住んでいた青い門扉の家の解体工事中、地面の下から小さな骨が見つかる。 長い沈黙を破るように現れた真実。 孫を誰よりも可愛がっていたはずの祖母は、あの夜、本当は何をしていたのか。 20年間、土地だけが覚えていた三つ子失踪事件の真相が、ついに明らかになる。ミステリー|真実7.0千字5 63