"橋の下で見つけた孫" 第6話
けれど、涙を見せないように、優しく体を洗った。
「おばあちゃん、お湯、あったかいね」
美咲がさく笑った。
「これからは毎、温かいお呂に入れるからね」
里子はタンスの奥から、2に買っておいたピンクのワンピースを取りした。いつか美咲が帰ってくるかもしれない。その淡い願いだけで買っただった。
そのを着た美咲は、さなのように見えた。
剣太も呂に入り、無精ひげを剃った。正のしきめのを着ててきた彼は、まだ痩せてはいたが、のにいたの暗いはしれていた。
「母さん、俺、丈夫かな」
げに尋ねる息子の肩に、里子はを置いた。
「相変わらず、お母さんの自の息子よ」
そのの夕に、里子は筑煮を作った。
鶏肉、ごぼう、にんじん、醤油とみりんの甘いりが台所を満たしていく。それは、族の記憶を呼び戻す匂いだった。
美咲はさなで頬張りながら、何度も言った。
「おばあちゃん、おいしい。こんなにおいしいもの、べたことない」
剣太は黙ってべていた。
、苦しい記憶も緒にみ込もうとしているようだった。
翌から、里子は剣太にを伝わせた。最初はを掃き、材料を運ぶだけだったが、剣太は文句を言わず黙々と働いた。
美咲はくの学へ通う続きをした。懐こい彼女は、数週でクラスに溶け込んでいった。
広告
に、美咲の笑い声が戻った。
しかし、里子の胸の奥には、静かな炎が灯っていた。
ゆかりに対するり。
息子と孫から奪われた3。
それをこのまま終わらせるつもりはなかった。
族の穏やかな常が戻るにつれ、里子のので燃えていたりは、より確な形を取り始めた。
それは単なる憎しみではなかった。
剣太と美咲から奪われた3。ので飢えと寒さに耐えた々。踏みにじられた族の尊厳。
それを取り戻すための、静かで揺るぎない決だった。
里子がまず連絡を取ったのは、き夫・正の古くからの友であり、元刑事の恩田だった。今はさな調査事務所を営んでいる。
里子は話で、これまでの経緯を全て話した。剣太と美咲をので見つけたこと。ゆかりの裏切り。今、族が再しようとしていること。
恩田は黙って聞いていた。やがて、力い声で言った。
「里子さん、よく耐えましたね。正がきていたら、きっと同じことをしたでしょう。私が全力で力になります」
数、恩田は1の女性を連れて「甘鈴」を訪れた。
若林弁護士だった。きりりとしたスーツ姿で、な瞳には鋭さと自信があった。
里子と剣太は、の奥で彼女と向かいった。
里子はゆかりが仕組んだ罠、剣太がサインさせられた類、空港での置きり事件を語った。
広告
若林弁護士は折ペンをらせながら、静にを傾けた。
全てを聞き終えると、彼女は静かに言った。
「これは単なる夫婦のトラブルではありません。悪質な詐欺であり、育児放棄です。法に責任を追及できる能性は分あります」
剣太は俯いた。
「俺、どんな類にサインしたのか、ほとんど覚えていません。ゆかりに言われるままに……」
「まずは婚調の記録を取り寄せましょう」
若林弁護士は責めることなく言った。
「そして、ゆかりさんの現の居所を突き止める必があります」
その役目は恩田が引き受けた。
数、恩田から話があった。
「里子さん、驚かないで聞いてください。ゆかりはオーストラリアへっていません。国記録がないんです」
里子は息をんだ。
「それだけではありません。剣太さんから奪ったで始めた投資に失敗し、額の借を抱えているようです。最、本国内での目撃報もあります」
里子はので遊ぶ美咲を見た。
あの女が、この子のに現れたら。
背筋が凍った。
それから里子は、美咲が1で歩かないよう徹底した。学の送り迎えをし、先で遊ぶも目をさなかった。
それでも々はんでいった。
剣太がを伝うようになって、「甘鈴」はたな活気を取り戻していた。伝統のを守りつつ、剣太は若い性で商品を考え、SNSで報発信を始めた。
週末には列ができるほど、評判はしずつ広がった。
広告
おすすめ作品
-
完結第18話
昭和44年、最終バスから消えた女性車掌
昭和44年、女性車掌・藤村紀子は最終バスの途中で姿を消し、車掌鞄から三万円を盗んで逃げたと噂された。25年後、娘の美和が廃校の屋根裏で十三枚の乗車券を発見する。当夜の公式記録は乗客十二人だったが、十三枚目は家庭で虐待されていた九歳の少年・高瀬誠の切符だった。 紀子は帰宅を拒む誠を継父・大島へ渡さず、夫の英一に託して鉱山会社の不正資料を取りに向かった。事故隠蔽や児童労働の証拠を掴んだものの追われて富山へ逃れ、その後三度手紙を送っていた。しかし英一は、最初は誠を守るため、後には自分の嘘が露見する恐怖から、すべて受取拒否にしていた。三万円の盗難も、運転手や営業所長らが作った偽装だった。 生存していた紀子と再会した美和は、母の潔白を証明しても、25年の不在まで無条件には許さない。会社記録は訂正され、十三枚の切符は廃校の資料室に保存される。父母は離婚し、美和は双方と境界を定めながら関係を築き直す。最後に母娘は一緒に資料室の戸締まりをし、次に会う日を、初めて誰にも決められず自分たちで選んだ。歴史|昭和|ミステリー|真相2.7万字5 129 -
完結第18話
昭和五十一年、消えた父の声を十八年後に聞いた
昭和51年、深夜番組の途中で言葉を止めたアナウンサー・孝一が、そのまま姿を消した。局から消えた200万円を持ち逃げしたと疑われ、家族には盗人という噂だけが残る。18年後、娘の奈津美は放送局の壁から、当夜の未放送音声を記録したテープを発見する。 調査の末、孝一はダム建設に伴う戸籍偽装と土地補償の不正を知り、死亡したことにされた女性の娘を守ろうとして町を離れたと判明する。200万円の受領書も局幹部による偽装だった。しかし危険が去った後も、孝一は家族に拒絶されることを恐れ、自ら帰らない年月を重ねていた。 奈津美たちは父と再会するが、すぐに昔の家族へ戻ろうとはしない。父の潔白だけでなく、その後の沈黙も記録に残し、それぞれの距離で関係を築き直す。資料館では途切れた放送と地域の声が保存され、孝一は新たな記録に《今度は、返事がなくても、自分から確かめる》と書き残した。昭和|ミステリー|真相|行方不明2.7万字5 118 -
完結第16話
12人の子を育てた母の墓から蛇が出た――納骨室を開けると、知らない骨壺が重ねられていた
母・澄江が亡くなって3年。65歳の長男・満は、12人のきょうだいと墓参りに集まった。すると1匹の蛇が墓石の隙間へ消え、91歳の父が「この墓は何かおかしい」と告げる。調べると、石板には工具の傷があり、寺の台帳には母以外の納骨記録がない。正式に納骨室を開けると、母の骨壺の上には見知らぬ骨壺が重ねられていた。火葬日は母の納骨から62日後。さらに、38万円の夜間作業伝票と23時43分の写真が見つかる。誰が母の墓を開け、なぜ別人の遺骨を3年間も隠したのか。やがて浮かび上がったのは、母を誰より慕っていたはずの親友だった。真相|遺體発見2.0万字5 543 -
完結第14話
搭乗直前、警察犬が機長に飛びかかった――10時32分、空港全便が止まった理由
瀬戸内空港で爆発物検索犬ハヤテを担当する高瀬直人。9時38分、搭乗口へ向かう黒川機長にハヤテが突然飛びかかり、フライトバッグから爆発物由来成分が検出された。だが、バッグの中には何もない。さらにハヤテは、168人を乗せて10時15分に出発する217号機へ向かい、再び警戒姿勢を取る。全7便が緊急停止する中、操縦席後方の点検パネルから見つかったのは、「10時32分」を示す謎の装置だった。機長は犯人なのか、それとも誰かに罪を着せられたのか。消された午前1時30分の記録と、バッグが視界から消えた47秒が、3年前の検修不正へつながっていく。真相1.7万字5 203 -
完結第19話
昭和54年、消えた母の集金袋
昭和54年の集金日、商店街の積立金86万4千円とともに母・澄江が姿を消した。金を持ち逃げしたという噂を残したまま17年。娘の直子は、父の遺品から「返すこと」と書かれた千円札を見つけ、古い帳簿を調べ始める。 調査で見つかった受領書は、澄江が集金した全額を会計担当の大竹へ渡していたことを示していた。大竹は会費の使い込みを隠すため、澄江が倉庫の点検槽へ落ちた夜に救助を呼ばず、失踪後も嘘を重ねていた。ただし、転落の瞬間に何が起きたかは分からない。 直子と弟の修司は母の汚名を晴らし、積立金の記録と返金先を調べ直す。帳簿に残った「集金係の未入金」という記述も訂正された。直子は母の集金袋を店の棚に戻し、修司と並んで帰り道を歩く。時代|昭和|ミステリー|真相2.8万字5 181 -
完結第16話
消えた子猫と、花壇の頑固おじさん
公園で暮らす地域猫のこん、五郎、クマは、新しく作られた花壇を掘り返し、管理を担う大西を激怒させる。ボランティアのみどりが謝罪しても、大西は猫の撤去を要求するが、彼の怒りの奥には、かつて球根をかじって病気になった愛猫チャロへの深い後悔が隠されていた。 やがて体の弱いクマが姿を消し、茂みの奥で衰弱しているところを大西が発見する。動物病院へ運び、治療費を負担した大西は、五年前にチャロを失ってから閉ざしていた自宅へクマを迎え入れる。クマもまた、古い毛布や爪とぎに残る温もりを受け入れ、大西の膝で安心して眠るようになる。 しかし、公園に残されたこんと五郎には、行政による一斉捕獲の通告が突きつけられる。猶予はわずか二週間。怒り|真相2.4万字5 155 -
完結第11話
棺の中で眠る娘と、吠え続けた秋田犬
秋田の豪雪地帯で、七歳の少女・雪の葬儀が営まれていた。ところが愛犬ハチだけは棺に向かって激しく吠え、畳を掻き続ける。周囲が狂犬扱いする中、前妻であり元救命看護師の静子は、棺の内側から聞こえる微かな音と、雪の指先の動きを見逃さなかった。 静子が葬儀を止めて棺を開けると、雪には脈と呼吸が残っていた。静子は的確な応急処置を行い、雪はついに「お母さん」と声を発する。無力だと見下していた静子に娘を救われ、後妻エミリーと父・健一は言葉を失う。 しかし、奇跡の生還で物語は終わらない。救急搬送される娘に付き添いながら、静子は「なぜ雪が猛吹雪の夜、裏山へ出たのか」という疑念を抱く。人生逆転|真実|真相|親子関係1.6万字5 657 -
完結第11話
父の葬儀を捨てた夫へ、亡き父が遺した最後の証拠
父の葬儀の読経中、夫のスマホが3度震えた。 「会社で緊急のトラブルがあった」 そう言って席を立った夫は、私の父を見送ることなく姿を消した。 喪主だった私は、何も言えず一人で最後まで葬儀を終えた。 その夜、冷たい家に戻ると、午前2時57分―― 亡くなったはずの父の名前から、メッセージが届いた。 「誰にも言わず、母さんの墓へ行きなさい」 半信半疑で向かった先で、父が残していたものを見つけた。 そこに入っていたのは、夫の知られざる裏切りと、私を守るための証拠だった。 そして私は初めて知った。 父は最後の日まで、私の人生を守ろうとしていたのだ。夫婦|親子関係|修羅場|不倫1.6万字5 464 -
完結第13話
死刑執行直前、1匹の犬が見つけた「8年前の嘘」
ホテルで起きた2人の殺害と放火の罪を着せられ、死刑判決を受けた設備技術者・相沢直人。無実を訴え続けて8年、ついに執行の朝が訪れる。その2日前、元婚約者の結衣と愛犬ハルの前に、かつて直人を犯人だと証言した男から連絡が届いた。「消された9分間を、私は持っています」。だが約束の場所に残されていたのは、男の車と携帯だけ。誰もが彼は帰ったと考える中、10歳になったハルだけが、閉鎖された研修施設の地下扉から離れようとしなかった。扉の奥に隠されていた人物、途切れた防犯映像、そして直人を死刑台へ送った8年前の嘘。1匹の犬が見つけた小さな異変は、止まっていた事件を再び動かし始める。真相2.6万字5 295