"寿司屋で暴かれた嫁" 第3話
数秒の沈黙。
それが、とてつもなくくじられました。
そして突然、田さんがカウンターに両をついてを乗りしました。
「節子さん、そのからく逃げてください」
内に、将の震える声が響きました。
あまりに突然で、私は反射に半歩ずさりしました。
「ちょっと、将、何を……」
「いいから、節子さん。その女の言うことを聞いちゃだめだ」
田さんの目は充血していました。カウンターをつかむが震えています。穏やかな将がこんな顔をするのは初めてでした。声も、体も、全部が震えていました。
隣を見ると、美咲さんはきょとんとした顔をしていました。それからさく首をかしげ、困ったように微笑みました。
「あの、将。何かの違いじゃないですか。私、こちらのおに来るのは初めてなんですけど」
その声は落ち着いていて、いつもの美咲さんそのものでした。
でも、田さんは激しく首を横に振りました。
「違いじゃない。違えるわけがない」
田さんの声がくなりました。歯をいしばるような声でした。
「その女は2、うちの親父を騙した女だ」
瞬、が分かりませんでした。
のの空気が止まったようでした。
「親父は女に先たれて、1で暮らしていた。そこにこいつがづいてきたんだ。名も顔つきも変えているが、目は変えられない。
広告
この目を、俺は絶対に忘れない」
田さんが、美咲さんをまっすぐ指さしました。差し指の先が震えています。
「親父のを全部持っていきやがった。3000万円だ。の権利までき換えさせて、あるいきなり消えた。親父はショックで寝込んで、半にんだ」
最の方は、声がかすれていました。りなのかしみなのか、分その両方だったのだといます。
私はのが真っになり、田さんと美咲さんの顔を交互に見ることしかできませんでした。
美咲さんが静かにをきました。
「将、つらいご経験をされたんですね。でも、本当に違いですよ。私はそんなことをした覚えはありませんし、お父様にお会いしたこともありません」
声は、同するような優しい響きでした。表もまったく崩れていません。
ただ、ほんの瞬だけ、目が違いました。
笑っているのに、目の奥だけがたくったのです。
ほんの瞬のことで、見違いかもしれません。けれど、あの目は私がっている美咲さんの目ではありませんでした。
田さんがカウンターからてきて、私の腕をそっとつかみました。
「節子さん、頼むから。今はとにかくここからてくれ。で全部話すから。頼む」
将のはまだ震えていました。その震えが腕を通じて伝わってきて、私はようやく理解しました。
広告
このは本気だ。
冗談でも、勘違いでもない。
このはの底から怖がっている。
「分かったわ」
気がついたら、そう答えていました。
私はバッグをつかみ、田さんに背を押されるようにをました。会計のことなどにありませんでした。簾をくぐってにた瞬、10のがたく頬を撫で、自分がどれだけ揺しているのか、やっと分かりました。が震えて、まっすぐ歩けませんでした。
「お母様」
ろから美咲さんが追いかけてきました。私の隣に並び、配そうに顔を覗き込みます。
「丈夫ですか。驚きましたよね。ちょっとおかしかったですね。もしかしたら、お昼からお酒でも入っていたんじゃないですか」
美咲さんは笑っていました。いつもの柔らかい笑顔です。
「気にしないでください、お母様。ああいうい込みの激しいって、たまにいますから。私たちは何も悪いことをしていないんですからね」
美咲さんが、私の腕に自分の腕を絡めてきました。
親しげで、甘えるような仕。いつもなら嬉しいはずのその温もりが、このだけはひどく気悪くじられました。
「ええ、そうね」
私はそれだけ答えて、なんとか笑顔を作りました。
けれどのでは、もう今までと同じ気持ちではいられませんでした。
田さんの顔がかられなかったのです。
あの震え。
30くカウンターの向こうで穏やかに寿司を握っていたあのが、あんな顔をした。
広告
おすすめ作品
-
完結第6話
録音機が暴いた息子の本音
息子の家から帰ってきた夜、夫の茂は書斎に閉じこもり、声を押し殺して泣いていた。 これまでどんな苦労にも涙を見せなかった頑固な夫。そんな彼が、嫁からの電話に怯え、息子の家へ行くことさえ拒むようになる。 妻の花子は、夫が何を隠しているのか確かめるため、こっそり夫の上着に小さな録音機を仕掛けた。 そして録音されていたのは、嫁の冷たい言葉、息子の残酷な本音、そして夫が必死に守ってきた誇りが壊れていく音だった。 「老人臭が残るから、もう来ないでほしい」 「パパが俺の人生を潰したんだ」 息子のためにすべてを捧げてきた夫婦が、最後に聞かされた言葉。 その夜、花子は決意する。 親としての役目は、もう終わったのだと。 夫婦は住み慣れた家を売り、電話線を抜き、誰にも告げず遠い町へ向かう。そこから始まったのは、失った人生を取り戻すための静かな再出発だった――。因果応報|夫婦|親子関係9.0千字5 5 -
完結第9話
橋の下で見つけた孫
夫の三回忌を終え、心を癒すために熱海を訪れた鈴木里子。 賑やかな温泉街の片隅で、彼女は一人の痩せた少女と出会う。土埃にまみれた裸足、古びた人形を抱きしめる小さな手。そして右目の下にある、息子と同じ場所のほくろ。 「おばあちゃん……本当に、おばあちゃん?」 少女の言葉に、里子の時間は止まった。 3年前、嫁の嘘を信じた息子・剣太は、里子を拒絶し、妻と娘を連れて姿を消した。オーストラリアへ移住したはずの息子と孫娘。けれど里子が連れて行かれた先は、観光地の明るさから遠く離れた、冷たい橋の下だった。 そこにいたのは、変わり果てた息子と、飢えに耐えて生きてきた孫娘。 あの日、家族を引き裂いた嘘の真相とは何だったのか。 失われた3年間を取り戻すため、里子は息子と孫を連れて鎌倉の家へ帰る。そして、すべてを奪った女との静かな戦いが始まる――。真相|親子関係1.3萬字5 5 -
完結第6話
桜を連れて消えた妻
「男の子を産んでほしい」 娘・桜を命がけで出産した私に、義母は何度もそう言い続けた。医師から次の妊娠は命に関わると告げられても、夫は私を守ってくれなかった。 女の子である桜は、いつも“足りない存在”のように扱われ、私は笑顔の裏に隠された言葉で少しずつ追い詰められていく。 やがて夫は、外に別の女性を作った。 そしてある夜、彼は私に告げる。 「その人に子供ができた。男の子だ。離婚してほしい」 私は黙って離婚届に名前を書き、3分後、娘と一緒に家を出た。 翌日、夫と義母は新しい命の検診へ向かう。待ち望んだ“男の子”のはずだった。 しかし診察室で医師が告げた一言に、夫家族は凍りつくことになる――。夫婦|親子関係9.1千字5 112 -
完結第7話
義母が家を売った日
夫に裏切られ、車いす生活の義母の介護まで押し付けられたゆい。 離婚したその日、夫は若い女性のもとへ逃げ出し、実の母である義母を置き去りにした。しかも「離婚しても母さんはお前の親だろ」と言い放ち、介護だけを元妻に押し付けようとする。 しかし、夫は知らなかった。 車いすの義母は、ただ助けを待つだけの弱い老人ではなかった。資産を持ち、知恵を持ち、何よりも自分を本当の娘のように支えてくれたゆいを守る覚悟を決めていたのだ。 夫が若い女との新生活に浮かれている間、義母は静かに電話を手に取る。 「まずは、この家を売ろうかしら」 血のつながった息子より、心でつながった嫁を選んだ義母。 そして、母も妻も捨てた夫に待っていたのは、想像もしない転落だった――。因果応報|介護|不倫1.0萬字5 183 -
完結第7話
消えた3506号室
70歳を迎える井上秀夫は、亡き妻との約束を胸に、息子夫婦と同居していた。 30年間守ってきたラーメン屋と、妻との思い出が詰まった家を売り、全財産を使って港区のタワーマンションを購入した秀夫。これからは息子夫婦と温かい家族として暮らせる――そう信じていた。 しかし現実は違った。 毎朝心を込めて作る朝食は見向きもされず、家族旅行にも誘われない。そんな中、息子夫婦は「大阪出張」と「母の看病」という嘘をつき、秀夫を1人残して豪華なヨーロッパ旅行へ出かけようとしていた。 しかも、その旅行期間は、秀夫が人生最後になるかもしれない70歳の誕生日と重なっていた。 秀夫には、どうしても息子に伝えなければならない秘密があった。だが、裏切りを知った彼は静かに決意する。 息子夫婦が旅行を楽しんでいる間に、秀夫は自分名義のタワーマンションを売却し、姿を消した。 帰国した2人を待っていたのは、もう開かない玄関と、父からの冷たい一通の手紙。 なぜ父は突然すべてを捨てたのか。 そして、息子夫婦が失ったものは、家だけではなかった――。因果応報|相続|親子関係|金銭問題1.0萬字5 107 -
完結第6話
ハワイへ消えた母
「10年間、お疲れ様でした」 息子夫婦からそう告げられ、68歳の長沼クミは家を出るよう求められた。 孫の世話、家事、食事、掃除――結婚以来10年間、息子家族のために尽くしてきた日々。けれど、感謝の言葉はいつしか消え、最後に残ったのは“もう必要ない”という冷たい宣告だった。 しかし、クミは泣かなかった。 なぜなら彼女は、ずっと前からこの日が来ることを予感していたから。 翌朝、荷物はすでにまとめられていた。息子夫婦が呆然と見つめる中、クミは静かに家を去る。そして1ヶ月後、彼女は日本ではなく、青い海の広がるハワイにいた。 その頃、息子からの着信は90件。 だが、クミが再び振り返ることはなかった――。因果応報|人生逆転|ATM扱い|親子関係9.4千字5 88