"寿司屋で暴かれた嫁" 第10話
そして本さんにも話しました。
「曜、お願いします」
「任せてください」
本さんの声は静かに力いものでした。
その夜、私は仏壇にをわせました。正男の写真が、いつものように穏やかに微笑んでいます。
「お父さん。、全部終わらせるからね」
線の煙がまっすぐちがり、ゆっくり揺れて消えていきました。
11最の曜は、朝からよくれていました。
はありませんでしたが、空気はののきりっとしたたさでした。庭の柿のは、もうすっかり葉を落としていました。枝だけになった柿のを見ると、正男がきていた頃、毎2で実を取ったことをいします。
今で終わらせる。
私は朝から鍋の準備をしました。菜、豆腐、ねぎ、鶏もも肉。浩司と美咲さんを呼んで鍋をする。それが今の表向きの名目でした。
テーブルの、座布団のには茶い封筒を1つ置きました。には、この1かで集めた証拠のすべてが入っています。
1145分、玄関のチャイムが鳴りました。
「お母様、こんにちは」
美咲さんのるい声がしました。ベージュのコートにいマフラー。にはケーキの箱を持っています。浩司はダウンジャケットにジーンズ姿でした。
いつもの2。
いつもの曜。
「寒かったでしょう。がって」
私はできる限り自然に笑い、2を迎え入れました。
広告
居に通すと、美咲さんが「わあ、お鍋ですか。嬉しい」と声をげました。浩司も「いい匂いだな」とし笑いました。
この笑顔を見ると、胸が痛みました。本当は、こうして3で穏やかに過ごせたら、どんなにいいか。
でも、そんなは最初から嘘だったのです。
12半を回った頃、私は台所にちました。鍋にをつけるふりをしながら、スマートフォンで田さんに言だけメッセージを送りました。
「お願いします」
5分ほどして、玄関のチャイムが鳴りました。
「あら、誰かしら」
わざとそう言って、私はちがりました。
「私がますよ」
美咲さんが腰を浮かせましたが、私は首を振りました。
「いいのよ。座っていて」
玄関の引き戸をけると、そこに田さんがっていました。いつものではなく、ジャケットを羽織った改まった格好です。そのろには3の姿がありました。
柄で背筋の伸びた髪の女性。阪から来てくれた本さんです。その隣には杖をついた70代の男性、名古の佐藤さん。そして30代半の女性、福岡の島さんの娘の子さん。
「どうぞ、がってください」
5で居に向かいました。
ふすまをけると、浩司と美咲さんがきょとんとした顔でこちらを見ました。
「母さん、このたちは……」
美咲さんは最初の瞬だけ表を固めました。けれど、すぐにいつもの笑顔に戻りました。
広告
「あら、お客様ですか。お茶を入れますね」
「座っていなさい」
私の声はったよりくました。
美咲さんのきが止まりました。
「美咲さん。今、あなたに会いたいという方たちが来てくれたの。ちゃんと座って聞いてちょうだい」
最初にをいたのは、本さんでした。
「久しぶりやね、美咲さん。いや、私のは佐々美奈やったかな。覚えてるやろ」
居の空気が、瞬で変わりました。
美咲さんの笑顔が初めて揺れました。
「何のことでしょう。私、お会いしたことないといますけど」
「とぼけんでもええよ。2、うちの息子にづいてきたのはあんたや。婚活アプリで声をかけて、半で族ごと取り込もうとした」
続いて佐藤さんが、杖を握るに力を込めながら言いました。
「名古の佐藤です。私はあなたに退職の半を持っていかれました。2000万円です。40働いて、老のために貯めただった」
福岡から来た子さんも静かにをきました。
「私の母は、あなたに保険の受取を変えさせられそうになりました。母は今も、らないがに来るのを怖がって暮らしています」
3の証言がなっていく。
美咲さんは黙っていました。笑顔はもう消えていました。代わりに浮かんでいたのは、能面のような無表でした。
浩司は呆然としていました。
私はテーブルのから封筒を取りし、を1つずつ並べました。
3枚の偽造免許証。
広告
おすすめ作品
-
完結第6話
録音機が暴いた息子の本音
息子の家から帰ってきた夜、夫の茂は書斎に閉じこもり、声を押し殺して泣いていた。 これまでどんな苦労にも涙を見せなかった頑固な夫。そんな彼が、嫁からの電話に怯え、息子の家へ行くことさえ拒むようになる。 妻の花子は、夫が何を隠しているのか確かめるため、こっそり夫の上着に小さな録音機を仕掛けた。 そして録音されていたのは、嫁の冷たい言葉、息子の残酷な本音、そして夫が必死に守ってきた誇りが壊れていく音だった。 「老人臭が残るから、もう来ないでほしい」 「パパが俺の人生を潰したんだ」 息子のためにすべてを捧げてきた夫婦が、最後に聞かされた言葉。 その夜、花子は決意する。 親としての役目は、もう終わったのだと。 夫婦は住み慣れた家を売り、電話線を抜き、誰にも告げず遠い町へ向かう。そこから始まったのは、失った人生を取り戻すための静かな再出発だった――。因果応報|夫婦|親子関係9.0千字5 5 -
完結第9話
橋の下で見つけた孫
夫の三回忌を終え、心を癒すために熱海を訪れた鈴木里子。 賑やかな温泉街の片隅で、彼女は一人の痩せた少女と出会う。土埃にまみれた裸足、古びた人形を抱きしめる小さな手。そして右目の下にある、息子と同じ場所のほくろ。 「おばあちゃん……本当に、おばあちゃん?」 少女の言葉に、里子の時間は止まった。 3年前、嫁の嘘を信じた息子・剣太は、里子を拒絶し、妻と娘を連れて姿を消した。オーストラリアへ移住したはずの息子と孫娘。けれど里子が連れて行かれた先は、観光地の明るさから遠く離れた、冷たい橋の下だった。 そこにいたのは、変わり果てた息子と、飢えに耐えて生きてきた孫娘。 あの日、家族を引き裂いた嘘の真相とは何だったのか。 失われた3年間を取り戻すため、里子は息子と孫を連れて鎌倉の家へ帰る。そして、すべてを奪った女との静かな戦いが始まる――。真相|親子関係1.3萬字5 5 -
完結第6話
桜を連れて消えた妻
「男の子を産んでほしい」 娘・桜を命がけで出産した私に、義母は何度もそう言い続けた。医師から次の妊娠は命に関わると告げられても、夫は私を守ってくれなかった。 女の子である桜は、いつも“足りない存在”のように扱われ、私は笑顔の裏に隠された言葉で少しずつ追い詰められていく。 やがて夫は、外に別の女性を作った。 そしてある夜、彼は私に告げる。 「その人に子供ができた。男の子だ。離婚してほしい」 私は黙って離婚届に名前を書き、3分後、娘と一緒に家を出た。 翌日、夫と義母は新しい命の検診へ向かう。待ち望んだ“男の子”のはずだった。 しかし診察室で医師が告げた一言に、夫家族は凍りつくことになる――。夫婦|親子関係9.1千字5 112 -
完結第7話
義母が家を売った日
夫に裏切られ、車いす生活の義母の介護まで押し付けられたゆい。 離婚したその日、夫は若い女性のもとへ逃げ出し、実の母である義母を置き去りにした。しかも「離婚しても母さんはお前の親だろ」と言い放ち、介護だけを元妻に押し付けようとする。 しかし、夫は知らなかった。 車いすの義母は、ただ助けを待つだけの弱い老人ではなかった。資産を持ち、知恵を持ち、何よりも自分を本当の娘のように支えてくれたゆいを守る覚悟を決めていたのだ。 夫が若い女との新生活に浮かれている間、義母は静かに電話を手に取る。 「まずは、この家を売ろうかしら」 血のつながった息子より、心でつながった嫁を選んだ義母。 そして、母も妻も捨てた夫に待っていたのは、想像もしない転落だった――。因果応報|介護|不倫1.0萬字5 183 -
完結第7話
消えた3506号室
70歳を迎える井上秀夫は、亡き妻との約束を胸に、息子夫婦と同居していた。 30年間守ってきたラーメン屋と、妻との思い出が詰まった家を売り、全財産を使って港区のタワーマンションを購入した秀夫。これからは息子夫婦と温かい家族として暮らせる――そう信じていた。 しかし現実は違った。 毎朝心を込めて作る朝食は見向きもされず、家族旅行にも誘われない。そんな中、息子夫婦は「大阪出張」と「母の看病」という嘘をつき、秀夫を1人残して豪華なヨーロッパ旅行へ出かけようとしていた。 しかも、その旅行期間は、秀夫が人生最後になるかもしれない70歳の誕生日と重なっていた。 秀夫には、どうしても息子に伝えなければならない秘密があった。だが、裏切りを知った彼は静かに決意する。 息子夫婦が旅行を楽しんでいる間に、秀夫は自分名義のタワーマンションを売却し、姿を消した。 帰国した2人を待っていたのは、もう開かない玄関と、父からの冷たい一通の手紙。 なぜ父は突然すべてを捨てたのか。 そして、息子夫婦が失ったものは、家だけではなかった――。因果応報|相続|親子関係|金銭問題1.0萬字5 107 -
完結第6話
ハワイへ消えた母
「10年間、お疲れ様でした」 息子夫婦からそう告げられ、68歳の長沼クミは家を出るよう求められた。 孫の世話、家事、食事、掃除――結婚以来10年間、息子家族のために尽くしてきた日々。けれど、感謝の言葉はいつしか消え、最後に残ったのは“もう必要ない”という冷たい宣告だった。 しかし、クミは泣かなかった。 なぜなら彼女は、ずっと前からこの日が来ることを予感していたから。 翌朝、荷物はすでにまとめられていた。息子夫婦が呆然と見つめる中、クミは静かに家を去る。そして1ヶ月後、彼女は日本ではなく、青い海の広がるハワイにいた。 その頃、息子からの着信は90件。 だが、クミが再び振り返ることはなかった――。因果応報|人生逆転|ATM扱い|親子関係9.4千字5 88