"雨の美容室ローズ" 第2話
けれど、しず子さんの姿はどこにもありません。
ただ、議なことがありました。
レジの引きしには、の売らしいおがそっくりそのまま残されていました。奥の棚には、しず子さんの財布も置きっぱなしになっています。には札も銭も、保険証も入ったままで、何1つ抜き取られた様子はありませんでした。
物盗りなら、まずおを持っていくはずです。
けれど、おは残っていました。
は荒らされていない。
争った跡もない。
それなのに、の主だけが煙のように消えていました。
田所さんは背筋がたくなるのをじました。
「これは、ただ事じゃない」
田所さんは震えるで、くの駐所へ話をかけました。
はまだ、商の根を静かに叩き続けていました。
ほどなくして、自転をこいで駆けつけてきたのは、その区の駐所に勤める本巡査でした。
本さんは40代半ばの警察官で、この町に来てからもう5になります。しず子さんとも顔なじみで、々ローズで髪をえてもらうこともありました。
「田所さん、どうしました」
「本さん、これを見てくれよ。しずちゃんがいないんだ。をこんなふうにしたまま、いなくなっちまってる」
田所さんは、くなった顔でのを指さしました。
本巡査は内をひと通り見回すと、すぐに表を変えました。
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に落ちた髪の毛、使いかけのハサミ、湿ったタオル、つかずのレジ、置きりの財布。
の勘が、これは普通のでは済まないと告げていました。
本巡査はそのからの警察署へ連絡を入れました。
の、ほどなくして数台のがローズのにまりました。署から来た刑事や鑑識のたちが、次々と狭いのへ入っていきます。商には、いつもの朝とは違う物々しい空気が漂いました。
傘を差した所のたちが、何事かと巻きに集まってきます。
そのに、1の配の刑事がいました。
名をといいました。刑事課の捜査係にく勤めてきた、無で、しかし目の鋭い男です。の頃は50歳。いものの混じり始めた髪をく刈り、よれたコートを羽織っていました。
刑事は、のをゆっくりと歩きながら、1つ1つのものに目をやりました。
に落ちた髪の毛。
途で止まったハサミ。
湿ったタオル。
つかずのレジ。
置きりにされた財布。
「妙だな」
は、ぽつりと呟きました。
そばにいた若い刑事が尋ねます。
「妙と言いますと」
「物盗りならを持っていく。だがは残っている。げのもつれやみつらみなら、抵は争った跡が残る。だが、ここには何もない。子も鏡も倒れていない。荒らされた様子がまるでない」
はにしゃがみ込み、髪の毛をじっと見つめました。
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「それなのに、の主だけが髪を切っている途で消えている。まるで自分のでふらりとていったみたいだ」
若い刑事は答えに詰まりました。
「だが、財布も置いたまま、もけたまま、52歳の女がどこへくっていうんだ」
の声はく、内の湿った空気のに沈みました。
事件なのか。
事故なのか。
それとも、しず子さんが何か事を抱えて、自分から姿を消したのか。
捜査が始まりました。
警察はまず、しず子さんの辺を洗いました。借はないか。誰かと刻な揉め事を抱えていなかったか。男のはないか。
けれど、調べれば調べるほど、しず子さんというは、ろ暗いところのない、真面目で誠実な柄であることが分かってくるばかりでした。
借はありません。商売はながら堅実で、蓄えもそれなりにありました。男の噂もありません。夫をくしてからは、と、々会いに来る娘の美佐さんだけが、しず子さんの世界のすべてだったようです。
所付きいもよく、誰1として、しず子さんを悪く言うはいませんでした。
らせを受けて娘の美佐さんがに駆けつけたのは、そのの昼過ぎのことでした。
美佐さんは当26歳。隣のの会社で事務の仕事をしていましたが、母が消えたというらせを聞き、仕事を放りしてんできたのです。
に濡れたままに入った美佐さんは、に落ちた髪の毛と、止まったままのハサミを見て、そのにへたり込んでしまいました。
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