"柿の木の下の息子" 第1話
埼玉県、の静けさが丘を包み込む。庭の片隅で聖太郎は、荒れたで柿のの幹を撫でていた。唇の隙からく漏れる呟き――「帰ってくるまで、ここをれない」。、医学部格を祝う夜に消えた息子・純也のことをいしながら、聖太郎は黙ってを見つめた。
その夜、ではさな宴会がわれ、純也の友たちは祝杯を交わしていた。しかし、科学捜査も未熟で、警察はただのとして処理した。たちは直していた――偶然ではない、と。
20021015、再発の通が届く。丘のに残るは聖太郎の軒だけ。役の職員が類を差しすたび、彼は首を横に振った。「息子が帰るまで、ここをれない」。職員はため息をつき、は、またと荷物をまとめっていく。
午、坂を黄いショベルカーががり、庭ので止まった。作業員の声が響く。「お父さん、にいたら危険です。し避けてください」。聖太郎は柿のを度撫で、ゆっくり横に移した。ブレードが面を掘る音が庭に鳴り響く。
がひっくり返る瞬、彼の目はの所かられない。掘りむこと1メートル、けたたましい械音が止まった。「うわっ!」作業員のが鳴をげ、尻もちをつく。のからしたのは、の骨だった。血の気が聖太郎の顔から引き、膝から崩れ落ちた。
広告
30分、パトカー台が現に到着。秩父警察署の川真司警部補が規制線を張り、発掘現を保させた。45歳のベテランは袋をはめ、骨を慎に覗き込む。膝を折った姿勢のままする骨の隣に、古い革財布が見つかった。
慎に封すると、からビニールでコーティングされたが枚。1995度の学入試センター試験受験票――純也の名が記されていた。その瞬、聖太郎は面にへたり込み、両で顔を覆った。科学捜査研究所の鑑定がに届く。骨は、違いなくに失踪届けがされた純也、22歳の青のものだった。
解剖の結果、蓋骨方に箇所の陥没が確認され、な殺と判。川警部補は、ファイルをき、1995の失踪事件の全記録を理した。柿ののに埋められた純也のは、7誰にもられることなく隠されていた――そして今、真実がを浴びようとしていた。
純也の骨遺体が発見されたの夜。
秩父警察署のでは、川真司警部補が古びた捜査資料を机いっぱいに広げていた。
の失踪事件。
当は単なるとして処理された案件だったが、今となってはらかな殺事件だった。
川は黄ばんだ類を枚ずつめくっていく。
その、ある記録に目が止まった。
――、父・聖太郎、庭に柿のを植。
広告
川はゆっくりと資料を閉じた。
そして子にもたれながら井を見げる。
あまりにも自然だった。
遺体が埋まっていた所。
その真に植えられていた柿の。
しかも植えたのは被害者の父親。
偶然で片付けるには来すぎていた。
翌朝。
川は公民館のを訪れた。
再発によって自宅を退した聖太郎は、仮の宿泊施設として公民館にを寄せていた。
窓際の子に腰掛けた聖太郎は、まるで魂が抜けたように虚空を見つめていた。
晩眠れなかったのだろう。
目は真っ赤に腫れている。
川は向かいの子を引き寄せて腰をろした。
「さん。確認したいことがあります」
聖太郎はゆっくりと顔をげた。
「なんでしょうか……」
「庭の柿のです」
その言葉を聞いた瞬、聖太郎の表がわずかに揺れた。
川は続けた。
「を植えたのはのですね」
「……はい」
「穴は誰が掘りましたか」
聖太郎はしばらく黙り込んだ。
川は線を逸らさない。
沈黙が部を支配する。
やがて聖太郎がをいた。
「私じゃありません」
「どういうですか」
「その頃、私は腰を痛めていて……い作業ができなかったんです」
川の眉がわずかにく。
「では誰が掘ったんですか」
聖太郎は震えるを握り締めた。
そして絞りすような声で答えた。
「佐藤太です」
川の目が鋭く細くなった。
「純也さんの友ですね」
「ええ……」
「彼が穴を?」
広告
おすすめ作品
-
完結第18話
昭和44年、最終バスから消えた女性車掌
昭和44年、女性車掌・藤村紀子は最終バスの途中で姿を消し、車掌鞄から三万円を盗んで逃げたと噂された。25年後、娘の美和が廃校の屋根裏で十三枚の乗車券を発見する。当夜の公式記録は乗客十二人だったが、十三枚目は家庭で虐待されていた九歳の少年・高瀬誠の切符だった。 紀子は帰宅を拒む誠を継父・大島へ渡さず、夫の英一に託して鉱山会社の不正資料を取りに向かった。事故隠蔽や児童労働の証拠を掴んだものの追われて富山へ逃れ、その後三度手紙を送っていた。しかし英一は、最初は誠を守るため、後には自分の嘘が露見する恐怖から、すべて受取拒否にしていた。三万円の盗難も、運転手や営業所長らが作った偽装だった。 生存していた紀子と再会した美和は、母の潔白を証明しても、25年の不在まで無条件には許さない。会社記録は訂正され、十三枚の切符は廃校の資料室に保存される。父母は離婚し、美和は双方と境界を定めながら関係を築き直す。最後に母娘は一緒に資料室の戸締まりをし、次に会う日を、初めて誰にも決められず自分たちで選んだ。歴史|昭和|ミステリー|真相2.7万字5 80 -
完結第18話
昭和五十一年、消えた父の声を十八年後に聞いた
昭和51年、深夜番組の途中で言葉を止めたアナウンサー・孝一が、そのまま姿を消した。局から消えた200万円を持ち逃げしたと疑われ、家族には盗人という噂だけが残る。18年後、娘の奈津美は放送局の壁から、当夜の未放送音声を記録したテープを発見する。 調査の末、孝一はダム建設に伴う戸籍偽装と土地補償の不正を知り、死亡したことにされた女性の娘を守ろうとして町を離れたと判明する。200万円の受領書も局幹部による偽装だった。しかし危険が去った後も、孝一は家族に拒絶されることを恐れ、自ら帰らない年月を重ねていた。 奈津美たちは父と再会するが、すぐに昔の家族へ戻ろうとはしない。父の潔白だけでなく、その後の沈黙も記録に残し、それぞれの距離で関係を築き直す。資料館では途切れた放送と地域の声が保存され、孝一は新たな記録に《今度は、返事がなくても、自分から確かめる》と書き残した。昭和|ミステリー|真相|行方不明2.7万字5 86 -
完結第16話
廃線駅に殘された最後の切符
昭和43年、廃線となった白沢駅で、老駅長・源吉は毎年3月12日になると、昭和25年の日付が入った東京行きの切符を机に置いていた。若い駅員の修一が調べると、その日は14歳の少年・健一が故郷を離れた日だった。 健一は別の少年を助けるために名前を貸し、故郷では東京へ就職したことになっていた。しかし本人は別の土地で働き、母へ送った手紙も届かないまま、帰る場所を失っていた。源吉は、東京へ行きたくない健一を時代の流れに任せて送り出したことを、長年悔やんでいた。 源吉の死後、白沢駅へ戻った健一に、修一は最後の切符を渡す。それは旅立ちを促すためではなく、「いつでも帰ってきてよい」と伝えるために残された一枚だった。健一は草に覆われた廃線跡を歩き、置き去りにした故郷との時間に向き合う。歴史|昭和|ミステリー2.4万字5 49 -
完結第19話
昭和54年、消えた母の集金袋
昭和54年の集金日、商店街の積立金86万4千円とともに母・澄江が姿を消した。金を持ち逃げしたという噂を残したまま17年。娘の直子は、父の遺品から「返すこと」と書かれた千円札を見つけ、古い帳簿を調べ始める。 調査で見つかった受領書は、澄江が集金した全額を会計担当の大竹へ渡していたことを示していた。大竹は会費の使い込みを隠すため、澄江が倉庫の点検槽へ落ちた夜に救助を呼ばず、失踪後も嘘を重ねていた。ただし、転落の瞬間に何が起きたかは分からない。 直子と弟の修司は母の汚名を晴らし、積立金の記録と返金先を調べ直す。帳簿に残った「集金係の未入金」という記述も訂正された。直子は母の集金袋を店の棚に戻し、修司と並んで帰り道を歩く。時代|昭和|ミステリー|真相2.8万字5 140 -
完結第11話
棺の中で眠る娘と、吠え続けた秋田犬
秋田の豪雪地帯で、七歳の少女・雪の葬儀が営まれていた。ところが愛犬ハチだけは棺に向かって激しく吠え、畳を掻き続ける。周囲が狂犬扱いする中、前妻であり元救命看護師の静子は、棺の内側から聞こえる微かな音と、雪の指先の動きを見逃さなかった。 静子が葬儀を止めて棺を開けると、雪には脈と呼吸が残っていた。静子は的確な応急処置を行い、雪はついに「お母さん」と声を発する。無力だと見下していた静子に娘を救われ、後妻エミリーと父・健一は言葉を失う。 しかし、奇跡の生還で物語は終わらない。救急搬送される娘に付き添いながら、静子は「なぜ雪が猛吹雪の夜、裏山へ出たのか」という疑念を抱く。人生逆転|真実|真相|親子関係1.6万字5 589 -
完結第19話
廃線の駅で待ち続けた父
昭和37年、源吉は毎週金曜日、15年前に列車が来なくなった青谷駅のベンチで誰かを待っていた。駅員の中村が古い記録を調べると、源吉の息子・修一は終戦後の列車事故で消息を絶っていた。 しかし修一は、事故の直前に戦災孤児の健一を助けるため列車を降りていた。源吉が本当に待っていたのは息子ではなく、「修一さんに助けられた。いつか会いに行く」と手紙を送った健一だった。 中村は30歳になった健一を探し出す。修一の家族を苦しめることを恐れ、15年間会いに行けなかった健一は、最後の金曜日に青谷駅を訪れる。源吉はその顔へ震える手を伸ばし、「修一に似ている」と静かに告げた。歴史|昭和|ミステリー2.9万字5 70 -
完結第12話
消えた姉と18年後の手紙
昭和39年、19歳の佐和子は東京の洋裁店へ働きに出るため、柳行李を上野駅へ送った。しかし本人は店に現れず、上野に届いた荷物からは財布、印鑑、戸籍関係の書類だけが消えていた。家族は、佐和子の帰りを待ち続ける。 18年後、弟の浩二は父の遺品から、姉が乗るはずだった夜行列車とは別方向の列車に印を付けた時刻表と、失踪から2か月後に届いた姉の手紙を見つける。父は、佐和子が生きていることも、自ら家を離れたことも知りながら、家族へ隠していた。 横浜で姉を見つけた浩二は、佐和子が家族のために決められた人生から逃れ、自分の道を選んだと知る。やがて佐和子は弟と列車に乗り、母の墓がある故郷へ向かう。今度は誰かに決められた旅ではなく、自分の意思で選んだ帰郷だった。時代|歴史|昭和|ミステリー1.7万字5 116 -
完結第18話
消えた写真屋の父が残した一本のビデオ
昭和62年の運動会の日、写真館を営む信吾が姿を消した。店から商店街の預かり金200万円もなくなり、家族を捨てて逃げたと疑われる。8年後、娘の由美は運動会のビデオの続きに、失踪したはずの父が午後4時過ぎ、道路計画をめぐって時計店主と口論する姿を見つけた。 由美が調べると、道路の調査資料は書き換えられ、父はそれを示す写真を守ろうとしていたことが分かる。一方で信吾は生きており、家族に連絡できる時期になっても帰らなかった。母の千鶴も、子どもを守るつもりで映像と自分が受け取った金のことを隠していた。 真相が明らかになっても、失われた8年は戻らない。由美と千鶴は新しい写真の店を開き、信吾とは時間をかけて会い直す。由美は今の家族をそれぞれの居場所で撮り、自分の写った一枚も店の棚に置いた。昭和|ミステリー|真相2.7万字5 416 -
完結第13話
黒い着物の誓い
「お前んち、ヤクザだっけ?w なら今すぐ呼んでみろよ」 同窓会の席で、私は昔のいじめ加害者に笑われました。 祖母の形見の黒い着物を見て、 「極道の真似事かよ」 そう言った男は、私の胸元に酒を浴びせたのです。 周囲は笑っていました。 10年前、教室で机に落書きをされた時と同じように。 私は怒りを抑え、ただ1本の電話をかけました。 「5分で来てください」 すると―― ホテルの前に現れたのは、30台の黒塗り高級車。 そして、誰もが知るはずのない私の本当の立場を前に、笑っていた同級生たちは凍りつきました。 しかし、そこで終わりではありませんでした。 床に這いつくばって謝罪する男の背後には、 母親が隠していた「400万円の借金」と、10年前の雨の日に繋がる秘密があったのです。 なぜ私は、私を傷つけた相手を救うことになったのか。 そして、あの日の1万円が、10年後に大きな運命の変化を起こすことになるとは――人生逆転|怒り|真実|修羅場1.9万字5 466