"年金六万円の母" 第2話
台所の隅でめた残り物をに運んでいると、目から筋の涙がこぼれました。
私は慌てての甲で拭いました。
それを見られたくなかったからです。
けれど、扱いはににひどくなりました。
ある朝、美咲がノックもせずに私の部へ入ってきました。
「お母さん、この、まだ着てるんですか?」
彼女は私の返事を待たず、クローゼットを勝にけました。そして、ハンガーにかかったを枚ずつ眺め、で笑いました。
「こんな古臭いばかり着て、恥ずかしくないんですか? うちに来客があった、みっともないじゃないですか」
私が着ていたのは、き夫と緒に選んだいのでした。確かに流遅れかもしれません。けれど、どれも切に入れしてきたものです。
私はさく答えました。
「しいを買うおがなくて……」
美咲はすぐにたく言い放ちました。
「それは自己責任でしょう。の使い方がなんじゃないですか?」
私は何も言えませんでした。
は、全額彼らに渡しているのです。
美咲はさらに私の髪を見ました。
「お母さん、せめて髪くらいちゃんとセットしたらどうですか? 髪も目つし、恥ずかしいですよ」
美容院にくおすらないことを、彼女はっているはずでした。
それでも、私は黙りました。
黙ることしか、できませんでした。
広告
数、孫の誕会の準備が始まりました。
私はずっと楽しみにしていました。孫のために、3週かけてマフラーを編んでいたのです。毛糸は価なものではありませんでしたが、を選び、目目丁寧に編みました。
孫が首に巻いてくれる姿を像するだけで、胸が温かくなりました。
けれど、誕会の、翔平が私の部に来ました。
彼はし気まずそうにドアのにち、線をそらしたまま言いました。
「母さん、悪いけど、誕会にはないでくれ」
私はわずちがりました。
「どうして? 孫のれ姿を見たいわ」
翔平は顔をしかめました。
「美咲の両親も来るんだ。向こうのお母さんは元学教授でさ、話もわないだろうし」
私は言葉を失いました。
翔平はさらに続けました。
「それに、子どもの友達の親も来るから。母さんの格好じゃ、ちょっと貧乏臭いっていうか……」
胸の奥がきゅっと縮みました。
それでも私は、机のに置いていた包みをに取りました。
「でも、プレゼントは用したのよ」
翔平は包みを見て、すぐに眉をひそめました。
「いらないよ。物でしょ。子どももばないから」
「そんなこと……」
私が言い終えるに、翔平は私のから包みを取りげました。布をき、からてきた編みのマフラーを見た瞬、彼はため息をつきました。
広告
「こんなの、今どき誰も使わないよ」
そう言って、私の目のでマフラーをゴミ箱に投げ捨てました。
3週かけて編んだマフラーが、ゴミ箱のでくしゃりと横たわりました。
私はけませんでした。
声もませんでした。
翔平は何事もなかったように部をていきました。
誕会当、私は自に閉じこもっていました。
階からは楽しげな笑い声が聞こえます。拍の音、子どもたちのはしゃぐ声、美咲のるい声。
そのに、孫の声が混じりました。
「おばあちゃんは?」
美咲がすぐに答えました。
「おばあちゃんは用事があるんだって。それより、こっちのおばあちゃまからすごいプレゼントがあるよ」
私は布団をまでかぶりました。
を塞いでも、笑い声は聞こえてきました。
その翌週、買い物から帰ると、族がリビングで談笑していました。私が入った瞬、会話がぴたりと止まりました。
美咲が迷惑そうに言いました。
「あ、お母さん。買い物ですか?」
「ええ。今は特売だったから」
すると、美咲はさく笑いました。
「そういえば、このも特売の話をしていましたよね。お母さんって、本当に貧乏臭いですね」
翔平も笑いながら言いました。
「母さん、もうし品ってものを考えてよ。俺も会社経営者なんだから」
品。
息子の会社資を全額した私に、息子は品を説いていました。
私は買い物袋を抱えたまま、廊にち尽くしました。
あるの夕方、私はリビングへお茶を運んでいました。
広告
おすすめ作品
-
完結第5話
古い風呂敷の遺言
認知症になった義母の介護を、5年間ひとりで続けてきた由美。 夜中の世話、病院の付き添い、介護費用の負担。すべてを引き受けてきたのは由美だった。ところが正月、義実家に集まった親戚たちの前で、義母は長男の嫁と次男の嫁に高級な着物を贈る。 そして由美に渡されたのは、古びた風呂敷包みだけだった。 「残り物よ」 そう言って足元に投げつけられた風呂敷。親戚たちは笑い、夫さえも何も言ってくれなかった。 屈辱に耐えきれず家へ帰った由美は、捨てる前に中身を確認しようと風呂敷を開く。 しかし、そこに入っていたのは料理ではなかった。 分厚い書類の束、通帳、登記簿、そして義母からの手紙。 認知症だと思われていた義母は、この5年間、すべてを見ていた。誰が本当に寄り添い、誰が財産だけを狙っていたのかを。 古い風呂敷に隠されていたのは、義母が最後に仕掛けた、静かな逆転だった――。因果応報|相続|親不孝6.6千字5 8 -
完結第6話
録音機が暴いた息子の本音
息子の家から帰ってきた夜、夫の茂は書斎に閉じこもり、声を押し殺して泣いていた。 これまでどんな苦労にも涙を見せなかった頑固な夫。そんな彼が、嫁からの電話に怯え、息子の家へ行くことさえ拒むようになる。 妻の花子は、夫が何を隠しているのか確かめるため、こっそり夫の上着に小さな録音機を仕掛けた。 そして録音されていたのは、嫁の冷たい言葉、息子の残酷な本音、そして夫が必死に守ってきた誇りが壊れていく音だった。 「老人臭が残るから、もう来ないでほしい」 「パパが俺の人生を潰したんだ」 息子のためにすべてを捧げてきた夫婦が、最後に聞かされた言葉。 その夜、花子は決意する。 親としての役目は、もう終わったのだと。 夫婦は住み慣れた家を売り、電話線を抜き、誰にも告げず遠い町へ向かう。そこから始まったのは、失った人生を取り戻すための静かな再出発だった――。因果応報|夫婦|親子関係9.0千字5 5 -
完結第12話
寿司屋で暴かれた嫁
68歳の田村節子は、息子の再婚相手である嫁・美咲を、ずっと“よくできた人”だと思っていた。 亡き夫を失い、1人暮らしになった節子の家へ通い、手料理を届け、病院の送り迎えまで申し出てくれる優しい嫁。近所の人たちからも羨ましがられ、節子自身も本当の娘のように感じ始めていた。 しかし、美咲は少しずつ、家の権利書や預金、保険の受取人について尋ねるようになる。 そんなある日、節子は美咲に誘われ、馴染みの寿司屋へ向かった。ところが店主は、美咲の顔を見た瞬間、血相を変えて叫ぶ。 「節子さん、その人から早く逃げてください」 店主の父を騙し、財産を奪った女と同じ顔――。 信じたい気持ちと、拭えない違和感。やがて節子は、嫁の荷物の中から決定的なものを見つけてしまう。 優しい嫁の正体は何者なのか。 そして節子は、息子と家を守るため、静かに反撃を始める。因果応報|相続|親子関係1.7萬字5 142 -
完結第6話
崖下に残された声
2018年秋、北アルプスの断崖下で、田中優人とその母・よしえの遺体が発見された。 唯一生き残ったのは、優人の妻・渡辺彩佳。彼女は泣き崩れながら「写真を撮ろうとして、2人が足を滑らせた」と証言した。現場の状況も事故として説明でき、警察はやがて悲劇的な同時滑落事故として処理する。 だが、若い刑事・伊藤健二だけは、彩佳の表情に違和感を覚えていた。 葬儀では悲劇の未亡人を演じ、8億円の保険金を受け取った直後、彩佳は姿を消す。事件はそのまま忘れられていくかに見えた。 それから7年後。 解体される田中家の旧宅の壁の中から、黒いタブレット端末が発見される。そこには、死んだはずの夫が残した音声、日記、監視の記録、そして事件前日の恐怖が克明に保存されていた。 「私は明日死ぬかもしれない」 夫が最後に残したその言葉が、完璧だったはずの事故を崩し始める。 愛なのか、支配なのか。 北アルプスの紅葉の下に隠された、女のもう1つの顔が暴かれていく――。ミステリー|人生逆転|真実8.4千字5 712 -
完結第7話
義母が家を売った日
夫に裏切られ、車いす生活の義母の介護まで押し付けられたゆい。 離婚したその日、夫は若い女性のもとへ逃げ出し、実の母である義母を置き去りにした。しかも「離婚しても母さんはお前の親だろ」と言い放ち、介護だけを元妻に押し付けようとする。 しかし、夫は知らなかった。 車いすの義母は、ただ助けを待つだけの弱い老人ではなかった。資産を持ち、知恵を持ち、何よりも自分を本当の娘のように支えてくれたゆいを守る覚悟を決めていたのだ。 夫が若い女との新生活に浮かれている間、義母は静かに電話を手に取る。 「まずは、この家を売ろうかしら」 血のつながった息子より、心でつながった嫁を選んだ義母。 そして、母も妻も捨てた夫に待っていたのは、想像もしない転落だった――。因果応報|介護|不倫1.0萬字5 188 -
完結第7話
消えた3506号室
70歳を迎える井上秀夫は、亡き妻との約束を胸に、息子夫婦と同居していた。 30年間守ってきたラーメン屋と、妻との思い出が詰まった家を売り、全財産を使って港区のタワーマンションを購入した秀夫。これからは息子夫婦と温かい家族として暮らせる――そう信じていた。 しかし現実は違った。 毎朝心を込めて作る朝食は見向きもされず、家族旅行にも誘われない。そんな中、息子夫婦は「大阪出張」と「母の看病」という嘘をつき、秀夫を1人残して豪華なヨーロッパ旅行へ出かけようとしていた。 しかも、その旅行期間は、秀夫が人生最後になるかもしれない70歳の誕生日と重なっていた。 秀夫には、どうしても息子に伝えなければならない秘密があった。だが、裏切りを知った彼は静かに決意する。 息子夫婦が旅行を楽しんでいる間に、秀夫は自分名義のタワーマンションを売却し、姿を消した。 帰国した2人を待っていたのは、もう開かない玄関と、父からの冷たい一通の手紙。 なぜ父は突然すべてを捨てたのか。 そして、息子夫婦が失ったものは、家だけではなかった――。因果応報|相続|親子関係|金銭問題1.0萬字5 110 -
完結第6話
ハワイへ消えた母
「10年間、お疲れ様でした」 息子夫婦からそう告げられ、68歳の長沼クミは家を出るよう求められた。 孫の世話、家事、食事、掃除――結婚以来10年間、息子家族のために尽くしてきた日々。けれど、感謝の言葉はいつしか消え、最後に残ったのは“もう必要ない”という冷たい宣告だった。 しかし、クミは泣かなかった。 なぜなら彼女は、ずっと前からこの日が来ることを予感していたから。 翌朝、荷物はすでにまとめられていた。息子夫婦が呆然と見つめる中、クミは静かに家を去る。そして1ヶ月後、彼女は日本ではなく、青い海の広がるハワイにいた。 その頃、息子からの着信は90件。 だが、クミが再び振り返ることはなかった――。因果応報|人生逆転|ATM扱い|親子関係9.4千字5 94 -
完結第7話
5500億を動かした手
施設で育ち、ようやく銀行の正社員として初出勤の日を迎えた24歳の志宮リンカ。 しかし出勤途中、駅前で倒れていた一人の老人を見つけた彼女は、迷わず足を止める。救急車が来るまで手を握り続けた結果、初出勤にはわずか5分遅れてしまった。 待っていたのは、支店長からの冷たい一言だった。 「初日から遅刻か。即刻解雇だ」 事情を聞こうともせず、施設出身という経歴まで見下され、リンカはたった5分で夢を奪われる。けれど、支店長は知らなかった。 彼女が助けた“質素な老人”の正体を。 翌日、東銀行梅ヶ丘支店に現れたのは、5500億円を預ける大口顧客。その男が口にした一言で、支店長の顔色は一瞬にして青ざめる。 踏みにじられた善意は、本当に報われないのか。 これは、見返りを求めず手を差し伸べた新人行員が、たった一つの優しさで運命を大きく変えていく物語。人生逆転|金銭問題|修羅場1.0萬字5 254