"年金六万円の母" 第3話
美咲はソファに座り、友と話で話していました。私がくにいることには、らかに気づいていました。それでも、彼女は声をひそめることすらしませんでした。
「そうなの。義母がいるから変で、正直目障りなのよね」
私のが止まりました。
美咲は笑いながら続けました。
「を取って何の役にもたないし、ただご飯をべてるだけ。まるで居候よ」
翔平はその横でスマートフォンを見ながら、何も言わず笑っていました。
美咲の声はさらにたくなりました。
「認症も始まってるんじゃない? この、同じ話を何度もしたのよ」
私は、ただ孫の話を嬉しくて繰り返しただけでした。
それを認症と言われたのです。
翔平はようやく顔をげ、軽い調で言いました。
「美咲の言う通りだよ。母さんも、もうし空気読んでほしいよな」
私のが震えました。
盆のの湯みが傾き、いお茶がこぼれました。にかかり、わず息をのむほどかったのですが、美咲は私のではなくを見ました。
「ああ、また! 本当に迷惑。やっぱり認症じゃないですか」
彼女は声を荒げました。
「掃除するのは私なんですよ。本当に邪魔者以の何者でもないわ」
邪魔者。
その言葉が、胸の奥にく刺さりました。
その夜、翔平が私の部に来ました。
いつになく真剣な表をしていました。
広告
私は布団のに座り、彼の顔を見げました。
「母さん、ちょっと話があるんだ」
「なあに?」
翔平はしだけ目をそらし、それから言いました。
「実はさ、母さんにはそろそろ施設に入ってもらおうとってるんだ」
私は凍りつきました。
「施設って、老ホームのこと?」
「そう。母さんも1の方が気楽でしょ。俺たちも仕事で忙しいし、ちゃんと面倒を見られないから」
私は膝のでを握りました。
「でも、私はまだ元気だし、事も伝えるわ」
翔平は首を横に振りました。
「いや、もう必ないんだ」
その言葉は、私のそのものを否定していました。
翔平は苦しそうな顔を作りながら、それでもはっきりと言いました。
「正直に言うけど、母さんは俺たちのまといなんだよ」
まとい。
私は息ができなくなりました。
「俺だって言いたくないけど、美咲も限界なんだ。母さんがいると、の雰囲気が暗くなるって」
「翔平……」
「もう決めたことだから。来には施設を探すから、準備しておいて」
私は震える声で尋ねました。
「おはどうするの?」
翔平は簡単に答えました。
「母さんので何とかなるでしょう。りない分は活保護でも受ければいい」
活保護。
1500万円を渡した私が、活保護。
翔平はそれだけ言うと、部をていきました。
私は崩れるようにに座り込みました。
広告
涙が止まりませんでした。
けれど、その涙の奥で、何かが変わり始めていました。
もう、これ以する必はないのかもしれない。
その夜、私はひとつのな決断をしました。
その夜、私は眠れませんでした。
施設。
活保護。
まとい。
邪魔者。
息子夫婦の言葉がので何度も回り続けました。
け方、私は古い写真アルバムをきました。
そこには、若い頃の私と夫、そして幼い翔平の写真がありました。写真のの翔平は満面の笑みで私に抱きついています。
「母さん、好き」
そんな声まで聞こえてくる気がしました。
あの頃の純粋な息子は、もういないのでしょうか。
ページをめくるが、1枚の写真で止まりました。
代の親友、えり子との写真でした。
修学旅で撮った写真です。制姿の私たちは肩を寄せい、何も怖いものなどないように笑っていました。
「若子、私たち友達よ」
「うん。何かあったら必ず助けおうね」
あのの約束をいしました。
えり子とは卒業、それぞれのを歩み、賀状のやり取りだけになっていました。それでも、彼女なら話を聞いてくれるかもしれない。
私は震えるで古い帳を取りしました。
そこには、かすれた文字でえり子の話番号がかれていました。
40、1度も使わなかった番号。
朝の7でした。
すぎるかもしれないといました。けれど、もう待てませんでした。
受話器を取り、番号を押しました。
呼びし音が響きます。
広告
おすすめ作品
-
完結第5話
古い風呂敷の遺言
認知症になった義母の介護を、5年間ひとりで続けてきた由美。 夜中の世話、病院の付き添い、介護費用の負担。すべてを引き受けてきたのは由美だった。ところが正月、義実家に集まった親戚たちの前で、義母は長男の嫁と次男の嫁に高級な着物を贈る。 そして由美に渡されたのは、古びた風呂敷包みだけだった。 「残り物よ」 そう言って足元に投げつけられた風呂敷。親戚たちは笑い、夫さえも何も言ってくれなかった。 屈辱に耐えきれず家へ帰った由美は、捨てる前に中身を確認しようと風呂敷を開く。 しかし、そこに入っていたのは料理ではなかった。 分厚い書類の束、通帳、登記簿、そして義母からの手紙。 認知症だと思われていた義母は、この5年間、すべてを見ていた。誰が本当に寄り添い、誰が財産だけを狙っていたのかを。 古い風呂敷に隠されていたのは、義母が最後に仕掛けた、静かな逆転だった――。因果応報|相続|親不孝6.6千字5 8 -
完結第6話
録音機が暴いた息子の本音
息子の家から帰ってきた夜、夫の茂は書斎に閉じこもり、声を押し殺して泣いていた。 これまでどんな苦労にも涙を見せなかった頑固な夫。そんな彼が、嫁からの電話に怯え、息子の家へ行くことさえ拒むようになる。 妻の花子は、夫が何を隠しているのか確かめるため、こっそり夫の上着に小さな録音機を仕掛けた。 そして録音されていたのは、嫁の冷たい言葉、息子の残酷な本音、そして夫が必死に守ってきた誇りが壊れていく音だった。 「老人臭が残るから、もう来ないでほしい」 「パパが俺の人生を潰したんだ」 息子のためにすべてを捧げてきた夫婦が、最後に聞かされた言葉。 その夜、花子は決意する。 親としての役目は、もう終わったのだと。 夫婦は住み慣れた家を売り、電話線を抜き、誰にも告げず遠い町へ向かう。そこから始まったのは、失った人生を取り戻すための静かな再出発だった――。因果応報|夫婦|親子関係9.0千字5 5 -
完結第12話
寿司屋で暴かれた嫁
68歳の田村節子は、息子の再婚相手である嫁・美咲を、ずっと“よくできた人”だと思っていた。 亡き夫を失い、1人暮らしになった節子の家へ通い、手料理を届け、病院の送り迎えまで申し出てくれる優しい嫁。近所の人たちからも羨ましがられ、節子自身も本当の娘のように感じ始めていた。 しかし、美咲は少しずつ、家の権利書や預金、保険の受取人について尋ねるようになる。 そんなある日、節子は美咲に誘われ、馴染みの寿司屋へ向かった。ところが店主は、美咲の顔を見た瞬間、血相を変えて叫ぶ。 「節子さん、その人から早く逃げてください」 店主の父を騙し、財産を奪った女と同じ顔――。 信じたい気持ちと、拭えない違和感。やがて節子は、嫁の荷物の中から決定的なものを見つけてしまう。 優しい嫁の正体は何者なのか。 そして節子は、息子と家を守るため、静かに反撃を始める。因果応報|相続|親子関係1.7萬字5 142 -
完結第6話
崖下に残された声
2018年秋、北アルプスの断崖下で、田中優人とその母・よしえの遺体が発見された。 唯一生き残ったのは、優人の妻・渡辺彩佳。彼女は泣き崩れながら「写真を撮ろうとして、2人が足を滑らせた」と証言した。現場の状況も事故として説明でき、警察はやがて悲劇的な同時滑落事故として処理する。 だが、若い刑事・伊藤健二だけは、彩佳の表情に違和感を覚えていた。 葬儀では悲劇の未亡人を演じ、8億円の保険金を受け取った直後、彩佳は姿を消す。事件はそのまま忘れられていくかに見えた。 それから7年後。 解体される田中家の旧宅の壁の中から、黒いタブレット端末が発見される。そこには、死んだはずの夫が残した音声、日記、監視の記録、そして事件前日の恐怖が克明に保存されていた。 「私は明日死ぬかもしれない」 夫が最後に残したその言葉が、完璧だったはずの事故を崩し始める。 愛なのか、支配なのか。 北アルプスの紅葉の下に隠された、女のもう1つの顔が暴かれていく――。ミステリー|人生逆転|真実8.4千字5 712 -
完結第7話
義母が家を売った日
夫に裏切られ、車いす生活の義母の介護まで押し付けられたゆい。 離婚したその日、夫は若い女性のもとへ逃げ出し、実の母である義母を置き去りにした。しかも「離婚しても母さんはお前の親だろ」と言い放ち、介護だけを元妻に押し付けようとする。 しかし、夫は知らなかった。 車いすの義母は、ただ助けを待つだけの弱い老人ではなかった。資産を持ち、知恵を持ち、何よりも自分を本当の娘のように支えてくれたゆいを守る覚悟を決めていたのだ。 夫が若い女との新生活に浮かれている間、義母は静かに電話を手に取る。 「まずは、この家を売ろうかしら」 血のつながった息子より、心でつながった嫁を選んだ義母。 そして、母も妻も捨てた夫に待っていたのは、想像もしない転落だった――。因果応報|介護|不倫1.0萬字5 188 -
完結第7話
消えた3506号室
70歳を迎える井上秀夫は、亡き妻との約束を胸に、息子夫婦と同居していた。 30年間守ってきたラーメン屋と、妻との思い出が詰まった家を売り、全財産を使って港区のタワーマンションを購入した秀夫。これからは息子夫婦と温かい家族として暮らせる――そう信じていた。 しかし現実は違った。 毎朝心を込めて作る朝食は見向きもされず、家族旅行にも誘われない。そんな中、息子夫婦は「大阪出張」と「母の看病」という嘘をつき、秀夫を1人残して豪華なヨーロッパ旅行へ出かけようとしていた。 しかも、その旅行期間は、秀夫が人生最後になるかもしれない70歳の誕生日と重なっていた。 秀夫には、どうしても息子に伝えなければならない秘密があった。だが、裏切りを知った彼は静かに決意する。 息子夫婦が旅行を楽しんでいる間に、秀夫は自分名義のタワーマンションを売却し、姿を消した。 帰国した2人を待っていたのは、もう開かない玄関と、父からの冷たい一通の手紙。 なぜ父は突然すべてを捨てたのか。 そして、息子夫婦が失ったものは、家だけではなかった――。因果応報|相続|親子関係|金銭問題1.0萬字5 110 -
完結第6話
ハワイへ消えた母
「10年間、お疲れ様でした」 息子夫婦からそう告げられ、68歳の長沼クミは家を出るよう求められた。 孫の世話、家事、食事、掃除――結婚以来10年間、息子家族のために尽くしてきた日々。けれど、感謝の言葉はいつしか消え、最後に残ったのは“もう必要ない”という冷たい宣告だった。 しかし、クミは泣かなかった。 なぜなら彼女は、ずっと前からこの日が来ることを予感していたから。 翌朝、荷物はすでにまとめられていた。息子夫婦が呆然と見つめる中、クミは静かに家を去る。そして1ヶ月後、彼女は日本ではなく、青い海の広がるハワイにいた。 その頃、息子からの着信は90件。 だが、クミが再び振り返ることはなかった――。因果応報|人生逆転|ATM扱い|親子関係9.4千字5 94 -
完結第7話
5500億を動かした手
施設で育ち、ようやく銀行の正社員として初出勤の日を迎えた24歳の志宮リンカ。 しかし出勤途中、駅前で倒れていた一人の老人を見つけた彼女は、迷わず足を止める。救急車が来るまで手を握り続けた結果、初出勤にはわずか5分遅れてしまった。 待っていたのは、支店長からの冷たい一言だった。 「初日から遅刻か。即刻解雇だ」 事情を聞こうともせず、施設出身という経歴まで見下され、リンカはたった5分で夢を奪われる。けれど、支店長は知らなかった。 彼女が助けた“質素な老人”の正体を。 翌日、東銀行梅ヶ丘支店に現れたのは、5500億円を預ける大口顧客。その男が口にした一言で、支店長の顔色は一瞬にして青ざめる。 踏みにじられた善意は、本当に報われないのか。 これは、見返りを求めず手を差し伸べた新人行員が、たった一つの優しさで運命を大きく変えていく物語。人生逆転|金銭問題|修羅場1.0萬字5 254