"年金六万円の母" 第4話
1回。
2回。
3回。
やがて、懐かしい声が聞こえました。
「はい、財です」
苗字が変わっていました。
私は息をのみ、かすれた声で言いました。
「あの……えり子? 私、若子よ。川若子」
瞬の沈黙の、話の向こうでるい声ががりました。
「若子? 本当に若子なの? なんて嬉しいの。40ぶりじゃない!」
その声を聞いた瞬、私は涙がこみげました。
「えり子、ごめんなさい。突然話して」
「何言ってるの。ずっと連絡を待ってたのよ。どうしたの? 声が暗いわよ」
私は堰を切ったように話し始めました。
夫の遺産1500万円を翔平の会社に渡したこと。
息子夫婦からを全額取られていること。
事も満に与えられず、孫の誕会からもされたこと。
そして、施設に入れられそうになっていること。
えり子は黙って聞いてくれました。折、話の向こうで「そんな……」というさなつぶやきが聞こえました。
話し終えると、えり子の声が急に真剣になりました。
「若子、あなたの息子さんの会社の名は?」
「川システムズよ。IT関係の会社」
「川システムズ……」
えり子の声がくなりました。
「若子、実は私、今ある企業グループの経営をしているの。財グループって聞いたことある?」
「財グループ?」
私は息をのみました。テレビや聞でよく見る企業グループの名でした。
えり子は静かに続けました。
広告
「あなたの息子さんの会社、うちが資しているわ。かなりの額をね。投資部からの報告で見覚えがあったの。川システムズには、追加資も検討していたはずよ」
私は言葉を失いました。
代の親友が、そんな企業の経営者になっていたなんて、像もしていませんでした。
えり子はしを置いて尋ねました。
「若子、1つ聞かせて。あなたは今、幸せ?」
私はをこうとしましたが、すぐには声がませんでした。
やがて、さく答えました。
「いいえ」
話の向こうで、えり子が静かに息を吸いました。
「そう。なら、私にできることがあるかもしれない」
「でも、えり子。私は何かを頼むつもりで話したわけじゃ……」
「若子、覚えてる? のの約束。困ったは助けうって言ったでしょう」
えり子の声には、昔と変わらない優しさがありました。
「私たちは親友よ。親友が困っているのに、黙って見ていられるわけないじゃない」
私の目から涙があふれました。
40経っても変わらない友が、そこにありました。
えり子は最に言いました。
「親を切にしない経営者に、私たちの切な資を預けるわけにはいかないわ。若子、しをちょうだい。3、きっといいらせが届くわ」
話を切った、私は初めてがし軽くなるのをじました。
何が起こるのかは分かりませんでした。
広告
ただ、40来の親友の言葉を信じることにしました。
3の朝、がに異変が起きました。
「なんだ、これは!」
翔平の叫び声がに響きました。
私は台所で朝の片付けをしていました。茶碗を拭いていたを止めると、青ざめた顔の翔平がリビングに駆け込んできました。
には、な封筒が握られていました。
財グループのロゴが入っています。
「どうしたの?」
私が静かに尋ねると、翔平は私を睨むように見ました。
「母さんには関係ない」
そこへ美咲も慌ててやって来ました。
「どういうこと?」
翔平は震えるで類を広げました。
「資止だ……財グループが、うちへの資を全額引きげるって言ってきたんだ」
美咲の顔から血の気が引いていきました。
「それって、会社が潰れるってこと?」
翔平はを抱えてソファに沈み込みました。
「違いなく潰れる」
私は黙って2の様子を見ていました。
類にはこうかれていました。
貴社への資継続について慎に検討した結果、企業理及び経営方針の相違により、本をもってすべての資を止することを通いたします。
なお、これまでの資については契約に基づき、速やかな返還を求めます。
財グループ代表取締役会、財えり子。
そこには、私の親友の名がありました。
翔平は何度も類を読み返しました。
「理由は何なんだ……」
そして、ある文でが止まりました。
追記。
親を切にしない経営者に、弊社の資を託すことはできません。
広告
おすすめ作品
-
完結第17話
しおれた野菜と30万円
正月準備のため妻・綾野に三十万円を預けた修平が帰宅すると、冷蔵庫は空になり、綾野はしおれた野菜を抱えて震えていた。防犯カメラには、合鍵で侵入した母・久美子と妹・ゆりが、食材と現金を奪い、「妻が使い込んだことにする」と脅す一部始終が残されていた。 修平は援助や契約を停止し、父の遺品を調べる。その結果、母は前夫の家から二百万円を持ち逃げし、血のつながらない修平を守ろうとした父に返済を肩代わりさせていたことが判明する。完済後も母は架空の利息をでっち上げ、修平の出生を暴露すると父を脅して、長年金を奪い続けていた。人生逆転|嫁姑|夫婦|絶縁|修羅場2.5万字5 767 -
完結第15話
妊娠中の娘が逃げ帰った夜、大富豪の母が動いた
妊娠8か月の娘・はるかが、顔に傷を負い、母エリコの家へ逃げ帰ってきた。病院では新しい肋骨の骨折に加え、以前の骨折痕も見つかる。夫・匠による暴力は、一度きりではなかった。 匠は巨大企業グループの創業家の一員。だがエリコはその地位にひるまず、娘の安全を確保し、診断書を残す。同時に信頼する会計士へ調査を頼むと、匠一家が関わる財団に巨額の不正な資金移動の疑いが浮かび上がった。 報道を受けても疑惑を否定し続けた匠は、緊急会見の最中、はるかへの傷害容疑で逮捕される。さらにグループの資金問題にも捜査が及び、権力を盾にしてきた一族は追い詰められていく。 母の行動が事態を動かす一方、すべての始まりにあったのは、はるかが自分とお腹の子を守るため、あの家から逃げ出した決断だった。因果応報|人生逆転|嫁姑|絶縁|親子関係|修羅場2.3万字5 1209 -
完結第12話
入院中、母が勝手に老人ホームへ送られていた
交通事故で一週間入院した菜緒は、母・春江と連絡が取れないことを夫・健太に訴える。しかし健太は「元気にしている」と嘘を重ね、退院後に実家へ向かうと、母は姿を消し、家財や通帳、土地の権利証まで段ボールに詰められていた。 健太は、足の悪い春江に「娘は長期入院し、家も売る」と吹き込み、無断で老人ホームへ入れていた。目的は実家を売却し、残金を自分たちの生活に使うことだった。施設の隅で「娘に捨てられた」と泣く母を見つけた菜緒は、虚偽による入居契約の無効を主張し、その場から母を連れ帰る。 菜緒は直ちに、八年間続けてきた義父母への月十五万円の送金と家族カードを停止し、自分名義の定期預金三百五十万円も安全な口座へ移す怒り|夫婦|親不孝|金銭問題|修羅場1.7万字5 392 -
完結第17話
母に追い出された私が、介護を手放すまで
三年間、要介護の母・一枝の家事と介護を一人で背負ってきた由美子は、「大好きな長男夫婦と暮らすから出ていけ」と追い出される。彼女は反論せず、通院、服薬、食事、排泄介助まで記した冷蔵庫の予定表だけを外し、新しい生活へ踏み出した。 由美子が消えると、兄・秀樹夫婦は介護の重さと毎月約九万円の費用に直面する。さらに秀樹が母の定期預金三百万円を、不倫相手への手切れ金として使い込んでいた事実も判明。義姉マリは耐えきれず家を出て、秀樹は汚物の処理すらできないまま妹へ泣きつく。 しかし由美子は、母と兄の身勝手な要求を拒み、実家からの電話を着信拒否にする。兄弟姉妹|親不孝|裡の顔|介護2.6万字5 427 -
完結第11話
棺の中で眠る娘と、吠え続けた秋田犬
秋田の豪雪地帯で、七歳の少女・雪の葬儀が営まれていた。ところが愛犬ハチだけは棺に向かって激しく吠え、畳を掻き続ける。周囲が狂犬扱いする中、前妻であり元救命看護師の静子は、棺の内側から聞こえる微かな音と、雪の指先の動きを見逃さなかった。 静子が葬儀を止めて棺を開けると、雪には脈と呼吸が残っていた。静子は的確な応急処置を行い、雪はついに「お母さん」と声を発する。無力だと見下していた静子に娘を救われ、後妻エミリーと父・健一は言葉を失う。 しかし、奇跡の生還で物語は終わらない。救急搬送される娘に付き添いながら、静子は「なぜ雪が猛吹雪の夜、裏山へ出たのか」という疑念を抱く。人生逆転|真実|真相|親子関係1.6万字5 588 -
完結第15話
炎天下に追い出された新人と、5年ぶりに戻った男
正木電気の新人・潮見知夏は、猛暑の中で草むしりを強要され、総務部長・黒岩から執拗な嫌がらせを受けていた。五年ぶりに本社へ戻った滝川武は彼女を救い、腐敗した職場の実態を静かに探り始める。 知夏は書類整理中、解約済みの植栽会社へ毎月五十万円が送金され続けている事実を発見。その直後、地下倉庫へ追放され、ついには炎天下で倒れてしまう。滝川と堀田課長は、黒岩と八谷常務による総額二億三千万円の横領証拠を揃え、臨時役員会を招集する。 そこで滝川が専務執行役員であることが明かされ、帰国した正木社長も黒岩を追及する。職場逆転|因果応報|人生逆転|修羅場2.3万字5 392 -
完結第13話
黒い着物の誓い
「お前んち、ヤクザだっけ?w なら今すぐ呼んでみろよ」 同窓会の席で、私は昔のいじめ加害者に笑われました。 祖母の形見の黒い着物を見て、 「極道の真似事かよ」 そう言った男は、私の胸元に酒を浴びせたのです。 周囲は笑っていました。 10年前、教室で机に落書きをされた時と同じように。 私は怒りを抑え、ただ1本の電話をかけました。 「5分で来てください」 すると―― ホテルの前に現れたのは、30台の黒塗り高級車。 そして、誰もが知るはずのない私の本当の立場を前に、笑っていた同級生たちは凍りつきました。 しかし、そこで終わりではありませんでした。 床に這いつくばって謝罪する男の背後には、 母親が隠していた「400万円の借金」と、10年前の雨の日に繋がる秘密があったのです。 なぜ私は、私を傷つけた相手を救うことになったのか。 そして、あの日の1万円が、10年後に大きな運命の変化を起こすことになるとは――人生逆転|怒り|真実|修羅場1.9万字5 466 -
完結第15話
300億円の恩返し
結婚式当日、白いタキシードを着て新婦を待っていた琢磨に告げられたのは、「結婚は最初からドッキリだった」という言葉。銀行の創業家である新婦の家族は、彼を笑い者にし、その様子まで動画に撮っていた。 駆けつけた妹の未令は、兄を見下す銀行一家の前で財務担当者に電話をかける。彼女は世界各地で事業を営む企業グループの創業者で、その銀行には約300億円を預けていた。無名だった未令の夢を信じ、借入れの保証人になったのも琢磨だった。人生逆転|兄弟姉妹|真相|修羅場2.2万字5 710