"東京駅に消えた母" 第5話
の顔から血の気が引いていきました。
「佐倉さん、お母様に何をされたんですか」
宅が机を軽く叩くと、はうなだれました。
い沈黙が流れました。
やがては、かすれた声で言いました。
「私が汽に乗せて差しげたんです」
「どこへ」
「です。母が、向こうに親戚がいるからと申しました」
宅は首を横に振りました。
「ご弟妹に確認しました。に親戚など1もいませんでしたよ。嘘はやめてください。切符は1枚しか買っていない。お母様の分はどこにあるんですか」
は泣きしました。
取り調べは夜更けまで続きました。
の話は何度も変わりました。最初は列に乗せたと言い、次には駅で別れたと言い直しました。
そして、ついに認めました。
「母を汽には乗せておりません」
「では、どちらにいらっしゃるんですか」
「分かりません。覚えていないんです」
その夜、捜査班は緊急の会議をきました。
切符を買ったということは、その先に何かがある。方面へ向かうべきだ。
翌朝、捜査班は線沿いを調べ始めました。
へき、駅周辺のに聞き込みをしました。しかし27のことを覚えている者は、なかなか見つかりませんでした。
京へ戻った宅は、を再び呼びました。
「佐倉さん、最にお尋ねします。お母様は今、どこにいらっしゃるんですか」
広告
はいこと黙ってから、をきました。
「母が、もうつらいと申していたんです。きるのがしんどい。もう終わりにしたいと」
「それで、どうされたんですか」
「私も、もう持ちこたえられなかったんです。町の料では母を抱え、借を返し、何もかも投げしたくなっていました」
その、取調の扉がき、別の刑事が入ってきました。
「巡査部、佐倉さんの勤務記録が確認できました。1988925から27まで、3無断欠勤しています」
宅はを見つめました。
「3ですか。お母様を探し回っていたとおっしゃいましたよね。なのに、どうして職にはかなかったんですか」
は答えられませんでした。
宅は図を広げました。
「京からまでのには、田原、湯原があります。特に湯原の辺りはが続き、目につきにくい所がい。そこで3、何をしていらっしゃったんですか」
の顔から血の気が消えました。
宅は確信しました。
答えは、そのにある。
翌、捜査班は湯原へ向かいました。
駅周辺は静かでした。い々が連なり、古い松のが並んでいます。
宅は、1988当この域にんでいた々を尋ね歩きました。
そして、1の老にき当たりました。
75歳になるその男は、当、湯原駅くのみかん畑で働いていたと言いました。
広告
「19889の終わり頃、変わったを見かけませんでしたか」
老は顎をさすりながら記憶をたどりました。
「もう昔の話ですが……そういえば、背広姿のの男がをがっていくのを見たような気がしますな」
老の目がふっと見かれました。
「ああ、いしました。926くらいだったかな。朝く、を登っていく男を見ました。この辺りのじゃないようで、おかしいなとったんです」
「どちらへきましたか」
老はの方を指差しました。
「あの尾根の向こうです。あそこは誰も入らない所ですよ」
20159の終わり、湯原駅くので捜索が始まりました。
警察犬も投入され、何もの警察官がを歩き回りました。
4目の午、1の警官が声をげました。
「ここです。こっちです」
松ののに、浅くがくぼんだ所がありました。
慎にを払いのけると、いものが現れました。
骨でした。
そばには、擦り切れた布の切れ端がありました。
佐倉ミサの遺骨は科学捜査研究所へ運ばれ、DNA鑑定がわれました。
1週、結果がました。
母子関係の確率、99.9%。
湯原ので見つかった遺骨は、佐倉ミサに違いありませんでした。
宅はを再び取調へ呼びました。
机のに鑑定結果を置き、静かに告げました。
「お母様が見つかりました。湯原ののです」
は声をげて泣き崩れました。
「もうお話しください。あの、何があったんですか」
はしばらく泣き続けた、途切れ途切れに話し始めました。
広告
おすすめ作品
-
完結第5話
竹林の黒い水
1989年、佐賀県武雄市の裕福な竹農家で、一家3人が忽然と姿を消した。 残された嫁・斎藤吉江は、泣きながらこう証言する。 「夫が義両親の金庫を奪って、女と逃げたんです」 酒とギャンブルに溺れていた1人息子・修二ならあり得る話だと、村人たちは誰も疑わなかった。吉江は、逃げた夫と義両親を待ちながら農場を守る“健気な嫁”として同情され続ける。 しかし12年後、大雨で崩れた竹林の土の中から、錆びたドラム缶と人骨が発見される。 見つかったのは、失踪したはずの義父母の遺骨。そして捜査が進むにつれ、夫・修二が女と逃げたという話にも不自然な点が浮かび上がっていく。 竹林に埋められていたのは、遺体だけではなかった。 12年間、村人たちが信じ込まされていた嘘。毒にまみれた農場。泣く嫁の裏に隠された、あまりにも冷たい真実。 黒い土の下で眠っていた罪が、ついに地上へ姿を現す――。ミステリー|真実|行方不明6.6千字5 0 -
完結第5話
骨が覚えていた名前
2008年、茨城県稲敷市の利根川沿い。高速道路工事の最中、葦原の中から一体の白骨遺体が見つかった。 遺体は20代後半から30代前半の女性。そばには衣類と旅行用の鞄が残されていたが、身元を示すものは何もない。顔も指紋も失われ、死因さえ分からない状態だった。 警察は公開捜査に踏み切るが、800人の行方不明者名簿を調べても一致する女性は見つからない。さらに遺留品の下着から購入者を追っても、手がかりは1万9000人の中に埋もれていった。 捜査が行き詰まりかけた時、白骨化した頭蓋骨に、ある小さな痕跡が見つかる。 それは、美容整形手術の跡だった。 570か所の美容外科、2000人の患者記録。気の遠くなるような照合作業の末、警察はついに1人の女性へたどり着く。 なぜ彼女は誰にも探されなかったのか。 そして、彼女の死後も送られ続けた「元気にしている」というメッセージの正体とは――。 声を失った骨だけが、最後の真実を語り始める。ミステリー|真実|遺體発見7.9千字5 1 -
完結第7話
月2万円の老後
両膝の手術を終えた田中良子は、一時的に息子夫婦の家へ身を寄せることになった。 最初は優しかった家族。けれど日が経つにつれ、家の空気は少しずつ変わっていく。やがて息子は、良子に老人ホームへの入居を勧め始めた。 理由は、良子の体を心配しているから。 そう信じたかった。 しかし息子の口から出たのは、自宅を売り、そのお金で老人ホームの費用を払い、余った分を孫の学費に使いたいという言葉だった。 さらに娘の家へ移っても、待っていたのは同じ現実だった。子どもたちにはそれぞれの生活があり、良子はいつの間にか“守るべき親”ではなく、“負担になる存在”として扱われていた。 老人ホームは月25万円。介護士を頼めば月20万円以上。年金は月13万円。 子どもにも頼れない。施設にも入りたくない。けれど、ひとりで暮らすには体が不自由すぎる。 追い詰められた良子は、30年間社会福祉士として積み重ねてきた知識を、初めて自分自身のために使うことを決意する。 そして彼女が見つけたのは、月2万円で暮らせる、ある意外な選択肢だった――。親子関係|金銭問題9.9千字5 0 -
完結第4話
病院に現れなかった母
2011年9月12日、大分県日出町で、35歳の主婦・光永真知子さんが白昼に忽然と姿を消した。 その朝、体調不良を訴えながらも子供たちを学校へ送り、歯をけがした長女を迎えに行き、歯科医院とスーパーに立ち寄った真知子さん。午前11時30分頃、長女を再び学校へ送り届けた彼女は、「下校する時に電話して。家で寝ているから」と告げた。 しかし午後3時、長女が帰宅すると、家に母の姿はなかった。 玄関は開いたまま。車も携帯電話も自宅に残されていた。慎重で戸締まりを欠かさない真知子さんにとって、それはあまりにも不自然な状況だった。 一方で、バッグや財布、保険証、車の鍵、白い枕、長女のバスタオルなど、不可解な物だけが家から消えていた。だが、保険証が使われた記録はなく、病院にも現れていない。 家族を何より大切にしていた母親は、なぜ子供たちを残して消えたのか。 自ら家を出たのか、それとも日常のわずかな隙間で、何かに巻き込まれたのか。 白昼の数時間に生まれた空白は、今も埋まらないまま残されている。ミステリー|真相6.4千字5 0 -
完結第5話
柿の木の下の息子
1995年、埼玉県上山村。 医学部に合格し、村中から祝福されていた青年・高橋純也が、祝賀会の夜を境に忽然と姿を消した。 警察は家出として処理し、村人たちも真相を知ることなく年月だけが過ぎていく。父・聖太郎は、息子がいつか帰ってくると信じ、家を離れず待ち続けた。 それから7年後。 再開発工事のため、聖太郎の庭に植えられていた柿の木が掘り返される。その根元から現れたのは、白骨化した人間の遺体だった。 そばに残されていた古い受験票。 そこに書かれていた名前は、7年前に消えた息子・高橋純也。 息子はなぜ、父が毎日見守っていた柿の木の下に埋められていたのか。 祝賀会の夜、純也と最後に一緒にいた友人。そして、医学部合格をめぐる嫉妬と消えた友情。 7年間、土の下に隠されていた真実が、ようやく掘り起こされていく――。ミステリー|真実|行方不明7.3千字5 0 -
完結第6話
録音機が暴いた息子の本音
息子の家から帰ってきた夜、夫の茂は書斎に閉じこもり、声を押し殺して泣いていた。 これまでどんな苦労にも涙を見せなかった頑固な夫。そんな彼が、嫁からの電話に怯え、息子の家へ行くことさえ拒むようになる。 妻の花子は、夫が何を隠しているのか確かめるため、こっそり夫の上着に小さな録音機を仕掛けた。 そして録音されていたのは、嫁の冷たい言葉、息子の残酷な本音、そして夫が必死に守ってきた誇りが壊れていく音だった。 「老人臭が残るから、もう来ないでほしい」 「パパが俺の人生を潰したんだ」 息子のためにすべてを捧げてきた夫婦が、最後に聞かされた言葉。 その夜、花子は決意する。 親としての役目は、もう終わったのだと。 夫婦は住み慣れた家を売り、電話線を抜き、誰にも告げず遠い町へ向かう。そこから始まったのは、失った人生を取り戻すための静かな再出発だった――。因果応報|夫婦|親子関係9.0千字5 5 -
完結第11話
雨の美容室ローズ
2003年、埼玉県川口市の古い商店街で、美容室「ローズ」を1人で営んでいた宮下しず子が、雨の朝に突然姿を消した。 店の明かりはついたまま。床には切ったばかりの髪が落ち、ハサミと櫛は使いかけのまま置かれていた。レジの金も財布も残され、争った跡もない。 まるで、誰かの髪を切っている途中で、店主だけが雨に溶けるように消えてしまったかのようだった。 警察が追ったのは、前日の夕方に店を訪れた見知らぬ男。痩せて背が高く、雨に濡れたままローズへ入っていった「あの日の客」だった。 しかし男の名前も行方も分からず、事件は迷宮入りする。 それから10年後。 取り壊されることになった美容室の床下から、古い予約帳と一枚の写真が見つかる。そこに写っていたのは、かつて誰も正体をつかめなかった最後の客。 写真の裏には、しず子の筆跡でただ一言、こう書かれていた。 「金田さん 福島」 10年前の雨の夜、しず子はなぜ店を開けたまま姿を消したのか。 そして、最後の客と彼女の間に隠されていた古い約束とは――。ミステリー|真実1.7萬字5 19