"月2万円の老後" 第1話
「お母さん、誤解しないで聞いてほしいんですけど」
健は卓の向こうで、どこか申し訳なさそうに線を落とした。湯呑みを持つに力が入りすぎて、指先がくなっている。
田良子は、その様子を黙って見つめていた。
退院してまだ1か。両膝の関節置換術を受けたばかりの体は、しくだけでもかった。けれど息子のにを寄せてから、体よりもの方がずっと疲れていた。
「老ホームを探してみるのはどうでしょう。いくつか事に調べておいたんです。施設もちゃんとしていましたよ」
良子は息を吸った。
「老ホームって……私はちゃんと自分のがあるのよ。どうしてよそのにかなきゃいけないの」
健は目を伏せたまま、声をし落とした。
「正直に言いますとね。このは、お母さん1には広すぎます。このを売って、その売却代で老ホームの費用を払えば分だといます」
良子の胸がきゅっと締め付けられた。
健はさらに続けた。
「余ったおは、うちの子の学費にし使わせてもらってもいいですし」
その瞬、良子ので何かが静かに凍った。
「あなたたちを育てて、学までかせてあげたのに。し体が悪くなっただけで、今度はまで奪うつもりなの」
「奪うんじゃないです。ただ、正直、私たちにも負担で……子どもたちの塾代も馬鹿にならないので」
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良子は膝の痛みをこらえながら、背筋を伸ばした。
「私がいつ、あなたたちにを伸ばして迷惑をかけたことがあるの。体が悪くても、辛いも、1でしてきたわ」
健は困ったように眉を寄せた。
「それは、お母さんが自分でそう選んだんでしょう。25万円の老ホームなら、専のスタッフが24対応してくれますし、売却代の利息だけでも費用はある程度まかなえます」
良子は目を閉じた。
聞きたかった言葉は、そんなものではなかった。
「向こうにったら、どのくらいの頻度で会いに来てくれるの。毎週?それとも、お盆やお正だけ?」
健はすぐに答えなかった。
その沈黙だけで、良子には分だった。
「とにかくってみてから考えましょう。私たちも忙しいので、ができたらくように努力しますから」
良子はさく笑った。笑わなければ、涙がそうだった。
「そういうことなのね」
彼女の脳裏に、隣にんでいた佐藤の言葉がよみがえった。
最初はみんな頻繁に来ると約束する。でも結局、お盆にも来なくなる。
30、社会福祉士として齢者と向きってきた良子が、まさか自分自も同じ所にたされるとは、にもっていなかった。
良子は名古で社会福祉士として30働いてきた。
退職の、福祉センターの所が束を差ししながら言った。
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「田先、もうご退職ですか。30、本当にいお疲れ様でした」
拍ので束を受け取った、良子は胸の奥に温かいものをじた。30という歳はいようで、振り返ればあっというだった。
その、良子は数千もの齢者と会った。
相談に来たたちは、に作りのよもぎ餅を持ってきてくれた。自分で漬けた梅干しを置いていくもいた。良子はそのつつを受け取りながら、彼らの孤独やにを傾けてきた。
そので、何度も聞いた言葉がある。
「田先、私みたいな目に絶対にあってはいけませんよ」
鈴は82歳だった。3の子どもを育てげ、も財産もできる限り子どもたちに与えただった。
しかし最は、老ホームに入ることになった。
初めて相談に来た、は両で良子のを握りしめて言った。
「最初は週に1度来ると言っていたのに、3かたったらお盆だけになって、今では話にもてくれないの。私がかけて貯めたおを全部あげたのに」
そういう話は、1度や2度ではなかった。
持ちを売って、子どもの宅ローンのにした。術代のためにを使い果たした。孫の留学費用を援助して、自分は老ホームのさな部で暮らすことになった。
良子は相談を終えるたび、帳に赤いペンでき留めていた。
子どもに経済な主導権を渡さないこと。
独した空を確保すること。
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