"月2万円の老後" 第5話
「費用はいくらですか」
「25万円です。追加サービスは別になります」
では到底りない。
「ご配なく、お母さん。私が補いますから」
健はそう言った。
けれど良子は、子どもに頼りたくなかった。
談話で、良子はいがけないに会った。
5に相談に乗った田だった。
「田先……先までここに来られるんですか」
施設が席をすと、田はさな声で言った。
「最初は良かったんです。きれいだし、事もる。でも子どもたちはだんだん来なくなりました。最初は週に1度来ていたのに、今はお盆にも来ません」
田の目から涙が落ちた。
「先、どうかここに来ないでください。まだ選択肢があるうちに、別の方法を探してください」
その瞬、良子のは決まった。
「健、ありがとう。でも老ホームにはかないわ」
帰りのので、健は説得を続けた。
しかし良子の気持ちはかなかった。
に戻った良子は、窓のを見つめながらく考え込んだ。
老ホームは25万円。
介護士は20万円から38万円。
は13万円。
どのを選んでも、自分の力だけではりなかった。
それでも、良子は諦めたくなかった。
「必ず方法がある」
その夜、良子は齢者福祉に関する資料をめくり続けた。社会福祉士として30積みねてきた識を、今度は自分のために使う番だった。
広告
翌朝、良子は域包括支援センターへ向かった。
子を借りてのは簡単ではなかった。膝はまだ痛み、段差のたびに体が揺れた。それでも、に閉じこもっていては何も変わらない。
「田さん、お久しぶりです。退職されたと聞きました」
センターの職員、伊藤が驚いた顔で迎えてくれた。良子が現役の頃、よく顔をわせていた職員だった。
「はい、もう1以になります。齢者向けのまいについて、資料を見せてもらえますか」
伊藤は良子の元を見て、配そうに尋ねた。
「はどうされたんですか」
「両膝の関節置換術を受けて、まだ自由で」
伊藤はし考え、掲示板の方へ案内した。
「それでしたら、シルバーハウジングをごじですか」
「シルバーハウジング?」
掲示板には、齢者向け宅の入居者募集のポスターが貼られていた。
65歳以の齢者向けに備された賃貸宅。賃がく、バリアフリー設計で、活支援員による見守りもある。
良子はポスターの文字を追った。
賃、2万円。
その数字を見た瞬、胸がきく鳴った。
「2万円……」
老ホームの25万円。
介護士の20万円以。
それと比べれば、2万円は13万円でも分にまかなえる額だった。
「詳しい資料を見せてもらえますか」
伊藤はパンフレットを持ってきた。
そこには、良子が求めていた条件がいくつも並んでいた。
広告
段差のないバリアフリー設計。
子でも通れる廊。
トイレや浴のすり。
緊急の非常ベル。
週に数回の活支援員による否確認。
必があれば訪問介護や配サービスも組みわせられる。
老ホームのように活をすべて管理されるわけではない。
自分の部で、自分のを持ち、自分ので暮らすことができる。
けれど、完全に孤するわけでもない。
良子の胸が震えた。
「伊藤さん、ここに申し込むにはどうすればいいですか」
「空きがあるか確認してみましょう。所得や齢、体状況などの条件がありますが、田さんなら該当する能性があります」
伊藤が話をかけてくれた。
良子は膝ので両を握りしめ、返事を待った。
数分、伊藤は受話器を置き、良子に向き直った。
「1部、空きがあるそうです。見学できますよ」
良子の目に涙がにじんだ。
ようやく見つけた。
老ホームでもない。
子どものでもない。
額な介護士に頼りきる活でもない。
自分の尊厳を守りながら暮らせる、もう1つの選択肢。
数、良子はその宅を見学した。
建物は豪華ではなかった。けれど、るく清潔だった。廊にはすりがあり、部の入に段差はない。トイレも浴も、膝の悪い良子が使いやすいように作られていた。
窓からはさな公園が見えた。
良子は部の央にち、静かに息を吸った。
ここなら暮らせる。
そうった。
申し込みの続きは、ったよりも現実だった。
広告
おすすめ作品
-
完結第14話
私の退職金を奪った家族に、私は何も言わず家を出た
妊娠中の麻衣が13年間勤めた会社を退職すると、夫の竜太は退職金420万円を無断で義母の口座へ送金した。「嫁の金は家のために使うもの」と言う義母。返金を求めた麻衣に、夫は「文句があるなら出ていけ」と告げる。 麻衣は実家へ戻り、保存していた送金記録を持って弁護士に相談する。返還を求められた義母は「預かっただけ」と主張するが、自ら提出した口座明細には、夫の奨学金を返すために動かした60万円の記録が残っていた。 420万円を取り戻しても、麻衣は壊れた信頼まで元に戻ったとは思えなかった。離婚後、娘を産み、かつての職場へ復帰する。誰に許可を求めることもなく、自分で稼いだお金の使い道を、自分の手帳に書き込んでいく。嫁姑|夫婦|金銭問題2.2万字5 381 -
完結第15話
18年間閉ざされた納屋
31歳の美咲は、博士課程を修了したその日、18年間会えずにいた兄・直のことを確かめるため実家へ向かった。両親からはずっと「兄は施設で暮らしている」「会えば不安定になる」と聞かされ、施設名も住所も教えられていなかった。ところが帰り道、近所の女性から思いがけない一言を聞く。「直君、まだ裏の納屋にいるんだと思ってた」。実家へ駆け戻ると、古い納屋の扉には外側から2つの南京錠。窓は布で覆われ、食器と電気コードには最近まで使われた痕跡が残っていた。そして美咲が「お兄ちゃん」と呼びかけると、扉の向こうから2度、確かな音が返ってきた。18年間、両親は何を隠してきたのか――。兄弟姉妹|親子関係2.2万字5 361 -
完結第15話
妊娠中の娘が逃げ帰った夜、大富豪の母が動いた
妊娠8か月の娘・はるかが、顔に傷を負い、母エリコの家へ逃げ帰ってきた。病院では新しい肋骨の骨折に加え、以前の骨折痕も見つかる。夫・匠による暴力は、一度きりではなかった。 匠は巨大企業グループの創業家の一員。だがエリコはその地位にひるまず、娘の安全を確保し、診断書を残す。同時に信頼する会計士へ調査を頼むと、匠一家が関わる財団に巨額の不正な資金移動の疑いが浮かび上がった。 報道を受けても疑惑を否定し続けた匠は、緊急会見の最中、はるかへの傷害容疑で逮捕される。さらにグループの資金問題にも捜査が及び、権力を盾にしてきた一族は追い詰められていく。 母の行動が事態を動かす一方、すべての始まりにあったのは、はるかが自分とお腹の子を守るため、あの家から逃げ出した決断だった。因果応報|人生逆転|嫁姑|絶縁|親子関係|修羅場2.3万字5 1209 -
完結第12話
入院中、母が勝手に老人ホームへ送られていた
交通事故で一週間入院した菜緒は、母・春江と連絡が取れないことを夫・健太に訴える。しかし健太は「元気にしている」と嘘を重ね、退院後に実家へ向かうと、母は姿を消し、家財や通帳、土地の権利証まで段ボールに詰められていた。 健太は、足の悪い春江に「娘は長期入院し、家も売る」と吹き込み、無断で老人ホームへ入れていた。目的は実家を売却し、残金を自分たちの生活に使うことだった。施設の隅で「娘に捨てられた」と泣く母を見つけた菜緒は、虚偽による入居契約の無効を主張し、その場から母を連れ帰る。 菜緒は直ちに、八年間続けてきた義父母への月十五万円の送金と家族カードを停止し、自分名義の定期預金三百五十万円も安全な口座へ移す怒り|夫婦|親不孝|金銭問題|修羅場1.7万字5 392 -
完結第11話
棺の中で眠る娘と、吠え続けた秋田犬
秋田の豪雪地帯で、七歳の少女・雪の葬儀が営まれていた。ところが愛犬ハチだけは棺に向かって激しく吠え、畳を掻き続ける。周囲が狂犬扱いする中、前妻であり元救命看護師の静子は、棺の内側から聞こえる微かな音と、雪の指先の動きを見逃さなかった。 静子が葬儀を止めて棺を開けると、雪には脈と呼吸が残っていた。静子は的確な応急処置を行い、雪はついに「お母さん」と声を発する。無力だと見下していた静子に娘を救われ、後妻エミリーと父・健一は言葉を失う。 しかし、奇跡の生還で物語は終わらない。救急搬送される娘に付き添いながら、静子は「なぜ雪が猛吹雪の夜、裏山へ出たのか」という疑念を抱く。人生逆転|真実|真相|親子関係1.6万字5 591 -
完結第11話
父の葬儀を捨てた夫へ、亡き父が遺した最後の証拠
父の葬儀の読経中、夫のスマホが3度震えた。 「会社で緊急のトラブルがあった」 そう言って席を立った夫は、私の父を見送ることなく姿を消した。 喪主だった私は、何も言えず一人で最後まで葬儀を終えた。 その夜、冷たい家に戻ると、午前2時57分―― 亡くなったはずの父の名前から、メッセージが届いた。 「誰にも言わず、母さんの墓へ行きなさい」 半信半疑で向かった先で、父が残していたものを見つけた。 そこに入っていたのは、夫の知られざる裏切りと、私を守るための証拠だった。 そして私は初めて知った。 父は最後の日まで、私の人生を守ろうとしていたのだ。夫婦|親子関係|修羅場|不倫1.6万字5 425 -
完結第13話
義母に逆らった妻を閉じ込めた夫が、翌朝失ったもの
義母への仕送りを断った夜、菜緒は夫の浩司にトイレへ閉じ込められた。冷たい床で朝を待ちながら姉に助けを求め、夫の発言を録音する。翌朝、姉たちが迎えに来ると、菜緒は「もうこの家には戻らない」と告げた。 避難先で菜緒が止めたのは、義母と義弟への毎月の送金、そして夫に渡していた家族カード。さらに、夫が口走った「部屋の件」を確かめると、菜緒が独身時代に買ったマンションへ、本人に無断で義弟夫婦を住まわせる話が進んでいた。 すでに置かれた荷物を見つけた菜緒は室内を記録し、玄関の鍵を交換する。義母からの抗議にも、援助と部屋の使用を断る意思を伝えた。閉じ込められた夜に握っていたスマートフォンから、菜緒は自分の暮らしを守るために動き始める。嫁姑|絶縁|親子関係|修羅場2.0万字5 1621 -
完結第13話
毎月7000円を隠していた夫の20年の秘密
昭和48年、給料が銀行振込に変わった日、文子は夫・昭雄の給料が、毎月受け取っていた額より7000円多いことに気づく。家計簿を遡ると、その差は十年以上も続いていた。 やがて夫の上着から見つかったのは、静岡に住む「山本和子」への振込控え。昭雄は、その女性へ約20年間送金していたことを認めるが、理由を話そうとしない。 夫婦で築いてきた暮らしの裏に、何があったのか。文子は昭雄の言葉を待つのをやめ、和子に直接会いに行くことを決める。時代|歴史|昭和|金銭問題1.9万字5 208 -
完結第14話
薬を忘れて戻ると、「歩けない」夫が立っていた
腰の手術後、「一人では歩けない」と訴える夫・健太を介護し、毎週末義実家まで送り続けていた佐織。ところが薬を届けるため引き返すと、健太は電話で「嫁は帰った」と告げ、車椅子から何事もなかったように立ち上がった。 夫を尾行した佐織が目にしたのは、金融業者が入る雑居ビルへ元気に歩いて入る姿だった。病院で確認すると、健太は3週間前から自由歩行を許可されており、痛みを誇張して休職を延長していたことも判明する。 さらに健太は450万円の連帯保証債務を抱え、借金返済のため、休職中に会社の機密情報流出へ関わっていた。義母も息子が歩ける事実を隠し、佐織を無給の介護役兼運転手として利用していたのだ。 佐織は夫を庇わず、記録と証拠を会社や弁護士へ提出し、離婚と財産保全の手続きを進める。嘘の車椅子から立ち上がった夫が社会的信用を失う一方、佐織が誰かを背負う生活を終え、自分の足で新しい人生を歩き始める再生物語。夫婦|介護|金銭問題|不倫2.1万字5 468 -
完結第15話
正月、娘に熱汁を浴びせた義兄へ110番
娘がグラスを1つ割っただけで、義兄は笑いながら熱い汁物を8歳の娘へ浴びせた。 しかも泣き叫ぶ娘を前に、義母も親族も止めるどころか「正月から大げさ」と笑っていた。 夫まで兄を庇い、「今日は丸く収めよう」と私に黙るよう求めてきた。 私は娘の腕を流水で冷やしながら、警察署長を務める実兄へ電話した。 「お兄ちゃん、今度はもう手加減しないで」 だが兄が私に命じたのは、身内の力を使うことではなく、「今すぐ110番して、証拠を全部残せ」ということだった。 その言葉で私は、義実家の天井に防犯カメラがあることを思い出した。 警察が映像を確認した直後、それまで「手が滑っただけ」と笑っていた義兄の顔色が一変する。 そして夫まで知らなかった“決定的な場面”が映っていたことで、あの正月に笑っていた全員の立場がひっくり返り始めた。怒り|嫁姑|親子関係|修羅場2.2万字5 2256