"席のない結婚式" 第1話
「変恐れ入りますが……お席のご案内ができないようでして」
受付の女性は、元の名簿を何度も確認したあと、申し訳なさそうにをげました。
その、私は夫の貴とで、息子・健太郎の結婚式に来ていました。
私はを込めて選んだ着物を着て、夫も久しぶりにきちんとした礼をにまとっていました。息子のれ姿を見るために、何もから準備をしてきたのです。
「郎の両親なのですが」
夫が穏やかな声でそう伝えると、受付の女性はさらに顔をこわばらせました。隣のスタッフに声で確認し、また名簿へ線を落とします。
けれど、何度見ても結果は変わらないようでした。
やがて、責任者らしき男性がにづいてきました。彼は受付の女性から事を聞くと、私たちに丁寧にをげ、もう度名簿を確認しました。
豪華な式でした。
井にはシャンデリアが輝き、ロビーには美しいが飾られ、招待客たちは華やかな装いで笑いっています。
そので、私たち夫婦だけが、まるで違いなのようにち尽くしていました。
「申し訳ございません。郎様のご両親様のお席が、ご用されていないようでございます」
責任者の言葉に、くにいた招待客たちがさくざわつきました。
「郎のご両親の席がないって……」
広告
「そんなことあるの?」
そんな声がに入りました。
けれど、夫の貴はりませんでした。むしろ、静かに微笑みました。
「なるほど。わかりました」
私も夫を見げ、そっと微笑み返しました。
議なほど、は穏やかでした。
りよりも、しみよりも、ただ静かに何かが終わっていくような覚がありました。
「あなた、どうしましょうか」
私が尋ねると、夫は私の目を見て、ほんのしだけ頷きました。
その表は、まるでこうなることをどこかで予していたかのようでした。
い返せば、私たち夫婦は息子の健太郎を切に育ててきました。
方のさな町で、私は陶芸を続け、夫はのとしてく働いていました。派な暮らしではありませんでしたが、のにはいつもの匂いと、夫の淹れるお茶のりがありました。
健太郎の学は私の理系で、の学費は百万円ほどかかりました。就職して居を構えたには、支度として百万円を援助しました。
そして今回の結婚式についても、私たちは「費用はこちらで全て負担させていただきます」と伝えていたのです。
けれど、婚約者の麗華さんとの打ちわせの頃から、空気はしずつ変わっていました。
麗華さんのご両親は、京で会社を営む裕福な方々でした。
初めてお会いした、麗華さんのお母様は、私の仕事を聞いて微笑みながらこう言いました。
広告
「まあ、陶芸なんて、趣のようなお仕事ですのね」
私はその言葉を聞いても、ただ穏やかに微笑みました。
麗華さんのお父様は、夫に向かって言いました。
「先でいらしたとか。方の公ですか?」
その調には、隠しきれない見しがありました。
それでも私たちは、健太郎が選んだならと、何も言わずに受け止めてきました。
結婚式の準備がむ、健太郎はある、私たちにこう言いました。
「費用は麗華側がくしてくれるから、父さんたちは気にしなくていいからね」
そのは、息子なりに気を遣っているのだといました。
でも今、この受付で席がないと言われたことで、その言葉のがようやく繋がっていきました。
しばらくして、式の支配が慌てた様子で現れました。彼は私たちにくをげ、困惑した顔で説しました。
「郎様からの指示で、ご両親様のお席はご用しておりません」
つまり、健太郎が図に私たちの席を用しなかったということでした。
私はゆっくりと息を吸い、支配を見つめました。
「それは、どういうでしょうか」
支配は答えに詰まり、線を落としました。
その、健太郎の友らしき若い男性が通りかかりました。私たちを見ると、彼は気まずそうにを止めました。
「あ……健太郎のお父さん、お母さん……」
彼は周囲を気にしながら、さな声で言いました。
広告
おすすめ作品
-
完結第17話
しおれた野菜と30万円
正月準備のため妻・綾野に三十万円を預けた修平が帰宅すると、冷蔵庫は空になり、綾野はしおれた野菜を抱えて震えていた。防犯カメラには、合鍵で侵入した母・久美子と妹・ゆりが、食材と現金を奪い、「妻が使い込んだことにする」と脅す一部始終が残されていた。 修平は援助や契約を停止し、父の遺品を調べる。その結果、母は前夫の家から二百万円を持ち逃げし、血のつながらない修平を守ろうとした父に返済を肩代わりさせていたことが判明する。完済後も母は架空の利息をでっち上げ、修平の出生を暴露すると父を脅して、長年金を奪い続けていた。人生逆転|嫁姑|夫婦|絶縁|修羅場2.5万字5 980 -
完結第15話
18年間閉ざされた納屋
31歳の美咲は、博士課程を修了したその日、18年間会えずにいた兄・直のことを確かめるため実家へ向かった。両親からはずっと「兄は施設で暮らしている」「会えば不安定になる」と聞かされ、施設名も住所も教えられていなかった。ところが帰り道、近所の女性から思いがけない一言を聞く。「直君、まだ裏の納屋にいるんだと思ってた」。実家へ駆け戻ると、古い納屋の扉には外側から2つの南京錠。窓は布で覆われ、食器と電気コードには最近まで使われた痕跡が残っていた。そして美咲が「お兄ちゃん」と呼びかけると、扉の向こうから2度、確かな音が返ってきた。18年間、両親は何を隠してきたのか――。兄弟姉妹|親子関係2.2万字5 410 -
完結第11話
棺の中で眠る娘と、吠え続けた秋田犬
秋田の豪雪地帯で、七歳の少女・雪の葬儀が営まれていた。ところが愛犬ハチだけは棺に向かって激しく吠え、畳を掻き続ける。周囲が狂犬扱いする中、前妻であり元救命看護師の静子は、棺の内側から聞こえる微かな音と、雪の指先の動きを見逃さなかった。 静子が葬儀を止めて棺を開けると、雪には脈と呼吸が残っていた。静子は的確な応急処置を行い、雪はついに「お母さん」と声を発する。無力だと見下していた静子に娘を救われ、後妻エミリーと父・健一は言葉を失う。 しかし、奇跡の生還で物語は終わらない。救急搬送される娘に付き添いながら、静子は「なぜ雪が猛吹雪の夜、裏山へ出たのか」という疑念を抱く。人生逆転|真実|真相|親子関係1.6万字5 704 -
完結第15話
炎天下に追い出された新人と、5年ぶりに戻った男
正木電気の新人・潮見知夏は、猛暑の中で草むしりを強要され、総務部長・黒岩から執拗な嫌がらせを受けていた。五年ぶりに本社へ戻った滝川武は彼女を救い、腐敗した職場の実態を静かに探り始める。 知夏は書類整理中、解約済みの植栽会社へ毎月五十万円が送金され続けている事実を発見。その直後、地下倉庫へ追放され、ついには炎天下で倒れてしまう。滝川と堀田課長は、黒岩と八谷常務による総額二億三千万円の横領証拠を揃え、臨時役員会を招集する。 そこで滝川が専務執行役員であることが明かされ、帰国した正木社長も黒岩を追及する。職場逆転|因果応報|人生逆転|修羅場2.3万字5 507 -
完結第11話
父の葬儀を捨てた夫へ、亡き父が遺した最後の証拠
父の葬儀の読経中、夫のスマホが3度震えた。 「会社で緊急のトラブルがあった」 そう言って席を立った夫は、私の父を見送ることなく姿を消した。 喪主だった私は、何も言えず一人で最後まで葬儀を終えた。 その夜、冷たい家に戻ると、午前2時57分―― 亡くなったはずの父の名前から、メッセージが届いた。 「誰にも言わず、母さんの墓へ行きなさい」 半信半疑で向かった先で、父が残していたものを見つけた。 そこに入っていたのは、夫の知られざる裏切りと、私を守るための証拠だった。 そして私は初めて知った。 父は最後の日まで、私の人生を守ろうとしていたのだ。夫婦|親子関係|修羅場|不倫1.6万字5 480 -
完結第13話
義母に逆らった妻を閉じ込めた夫が、翌朝失ったもの
義母への仕送りを断った夜、菜緒は夫の浩司にトイレへ閉じ込められた。冷たい床で朝を待ちながら姉に助けを求め、夫の発言を録音する。翌朝、姉たちが迎えに来ると、菜緒は「もうこの家には戻らない」と告げた。 避難先で菜緒が止めたのは、義母と義弟への毎月の送金、そして夫に渡していた家族カード。さらに、夫が口走った「部屋の件」を確かめると、菜緒が独身時代に買ったマンションへ、本人に無断で義弟夫婦を住まわせる話が進んでいた。 すでに置かれた荷物を見つけた菜緒は室内を記録し、玄関の鍵を交換する。義母からの抗議にも、援助と部屋の使用を断る意思を伝えた。閉じ込められた夜に握っていたスマートフォンから、菜緒は自分の暮らしを守るために動き始める。嫁姑|絶縁|親子関係|修羅場2.0万字5 1708 -
完結第13話
黒い着物の誓い
「お前んち、ヤクザだっけ?w なら今すぐ呼んでみろよ」 同窓会の席で、私は昔のいじめ加害者に笑われました。 祖母の形見の黒い着物を見て、 「極道の真似事かよ」 そう言った男は、私の胸元に酒を浴びせたのです。 周囲は笑っていました。 10年前、教室で机に落書きをされた時と同じように。 私は怒りを抑え、ただ1本の電話をかけました。 「5分で来てください」 すると―― ホテルの前に現れたのは、30台の黒塗り高級車。 そして、誰もが知るはずのない私の本当の立場を前に、笑っていた同級生たちは凍りつきました。 しかし、そこで終わりではありませんでした。 床に這いつくばって謝罪する男の背後には、 母親が隠していた「400万円の借金」と、10年前の雨の日に繋がる秘密があったのです。 なぜ私は、私を傷つけた相手を救うことになったのか。 そして、あの日の1万円が、10年後に大きな運命の変化を起こすことになるとは――人生逆転|怒り|真実|修羅場1.9万字5 507 -
完結第15話
300億円の恩返し
結婚式当日、白いタキシードを着て新婦を待っていた琢磨に告げられたのは、「結婚は最初からドッキリだった」という言葉。銀行の創業家である新婦の家族は、彼を笑い者にし、その様子まで動画に撮っていた。 駆けつけた妹の未令は、兄を見下す銀行一家の前で財務担当者に電話をかける。彼女は世界各地で事業を営む企業グループの創業者で、その銀行には約300億円を預けていた。無名だった未令の夢を信じ、借入れの保証人になったのも琢磨だった。人生逆転|兄弟姉妹|真相|修羅場2.2万字5 774