"追い出された正月の一万円" 第3話
しかし、その言葉の本当のみと、これから自分たちにりかかる未来の代償を、あの子たちはまだ、何つらなかったのである。
玄関の戸を閉めた瞬、肌を刺すような正の厳しい寒気が、容赦なく私の体に襲いかかってきた。だが、拒絶され、裏切られた私ののは、の気温など比べものにならないほど、く、暗くえ切っていた。
空からは、粒のが静かに、しかし絶えなくい落ちていた。私は凍えるでコートの襟をかきむしり、駅へと向かってトボトボと歩き始めた。あたりは正休みのせいで通りが全くなく、ただいがんやりと世界を覆い尽くしている。元のを踏みしめる、ザクッ、ザクッという鈍い音だけが、絶望と孤独のどん底にいる自分がまだきているということを、々しく私に教えてくれた。
数分歩いたところで、私はふとち止まり、はるかざかっていく息子のの灯りを振り返った。窓から漏れる温かいの向こうでは、今頃あの2が「やっと厄介払いができた」と笑いっているのだろうか。族の笑い声が私の背に完全に消えっていくのをじながら、私はたい夜空に向かって、静かに、しかしはっきりとつぶやいた。
「ありがとう、もう分よ」
その言葉の裏には、、親として、妻として溜め込んできた言葉にならないりと痛み、そして、これまでの古い自分を完全に捨てるという、揺るぎないかすかな決が隠されていた。
広告
私はもう、あの子たちの母親であることをやめよう。ただすがりつくだけの憐れな老を過ごすのは、これで終わりにしよう。
のを歩き続け、ようやく辿り着いた駅からに乗り、私は数かけて自分の古い自宅へと帰り着いた。
その夜、私は誰もいないガランとした古い自宅に帰り、気もつけないまま、暗い部のに座っていた。こたつに潜り込み、え切った体を縮める。台所で湯を沸かし、湯気のつお茶を両で包み込んですすってみた。しかし、いくら温かいお茶を喉に通しても、体の芯、特にの奥底にこびりついたあの嫁のたい線と、息子の罵声によるえは、全く消えることはなかった。
静寂に包まれた部ので、障子の向こうに広がるいの世界をぼんやりと見つめる。昼に起きた来事が、まるで悪の映像のように、何度も何度もので再された。息子の狂暴な顔、嫁の勝ち誇ったような目、そして最に私の袖をつかんでくれた孫のさなの温もり。それらの記憶がので激しく交錯しては、暗のに消えていく。
「私、体何のために今まで必にきてきたんだろう。夫がんで、すべてを失って、私はこれからどうすればいいの……」
ぽつりと虚空に向かってつぶやいた、その瞬だった。
広告
ジリリリリ、ジリリリリと、静まり返った暗い玄関から、チャイムの音が激しく鳴り響いた。
私はハッとして計の針に目をやった。夜のをとうにまわっていた。こんなのる夜更けに、体誰が訪ねてくるというのだろう。借の取りてか、あるいは何か吉ならせだろうか。と恐怖で胸が押しつぶされそうになりながらも、私はこたつからいし、すくむでゆっくりと玄関へと向かった。そして、恐る恐る製のい戸をけた。
「お婆ちゃん……!」
戸をけた私の目にび込んできたのは、たい夜が吹きすさぶ、さな体をさらに縮め、や肩にをこんもりと被ったままち尽くしているさなだった。
それは、昼にあので別れたはずの、私の最の孫、勇斗だった。
勇斗の頬は凍てつく寒さのせいで真っ赤に染まっており、そのさなには、私が渡したあの万円のポチ袋が、しわくちゃに変形したまま固く握り締められていた。
「お婆ちゃん、ごめんね……。ママたち、お婆ちゃんにひどいこと言って……。僕、お婆ちゃんが配で……」
勇斗は私を見げて、粒の涙をボロボロと流しながら、さな声を振り絞って謝ってきた。その健気で必な姿を見た瞬、私の目からも、昼からずっとしていた涙が堰を切ったように激しく溢れし、止まらなくなった。
広告
おすすめ作品
-
完結第10話
27年目、妻は食卓を捨てた
「……もう、必要ないのね」 27年間作り続けた夕食を、家族5人はスマホを見たまま無言で食べた。 「いただきます」も「おいしい」も、誰の口からも出なかった。 翌朝、私が食卓に残したのは一枚のメモだけ。 《今日から、自分のことは自分でお願いします》 夫は鼻で笑い、私が困って戻るよう家族カードまで停止した。 「パート代だけで、一人で暮らせるわけがない」 ところが3日たっても、私は助けを求めなかった。 家族が食事や洗濯、義母の薬の管理に困り始めた頃、娘が台所の奥で古いノートを見つける。 表紙には《家族のこと》。 そこには27年間、誰にも気づかれなかった私の記録が残されていた。 さらにノートから落ちた封筒には、夫が想像もしなかった書類が入っていた。 《常勤職員登用に関する雇用条件通知書》――返答期限は、今日だった。嫁姑|夫婦|親不孝1.6万字5 5709 -
完結第10話
独身だから介護しろ
「来月で店を辞めろ。父さんの介護は、独身のお前がやれ」 父の退院祝いで、兄は私の名前だけが並んだ介護予定表を置いた。 朝食、服薬、入浴、夜間の見守り――月曜から日曜まで、休みはない。 姉も「あなたには守る家庭がないでしょう」と言った。 だが要介護2の父は、歩行器を使えば動けるうえ、介護サービスを利用する意思も示していた。 それでも兄姉は費用を惜しみ、私へ仕事を辞めさせようとした。 私は予定表を破り、「本人の前でもう一度決めよう」と告げた。 父は震える右手で、机を2度たたいた。 その意味が分かったのは3か月後だった。 ケアマネジャーから見せられたのは、私を主介護者とする《家族同意書》。 署名日は、私が北海道へ出張していた日だった。 そして費用管理者の欄には、父の通帳を預かる姉の名前が書かれていた――。兄弟姉妹|親不孝|親子関係|介護1.5万字5 412 -
完結第10話
「忘れ物」で夫の嘘がばれた日
「あなた、健一さんから何も聞いてないの?」 母が「薬を忘れた」と言い、空港へ向かうタクシーを引き返した。 ところが自宅へ戻っても、母は何も探さない。 代わりに差し出したのは、私名義の土地と家を売るための査定書だった。 現地確認は今日の午後3時――私たちがハワイにいるはずの時間だ。 夫は「結婚25周年のプレゼント」として、1週間の母娘旅行を用意してくれた。 だが書斎からは、私の通帳、身に覚えのない委任状、さらに偽造された離婚届まで見つかった。 午前10時23分、玄関の鍵が開く。 帰宅した夫は、見知らぬ女と笑いながら言った。 「1週間もハワイに追いやるなんて、よく考えたわよね」 「家を売るための必要経費だと思えば安いもんだ」 襖の陰で録音を続ける私たちに、夫はまだ気づいていない。 そして午後3時、この家には不動産会社だけでなく、私の弁護士もやって来る――。夫婦|親不孝1.5万字5 2647 -
完結第15話
博士になった息子を「返せ」と言われた夜
春樹が博士号を取得した夜、母・ひよりは二十三年間の苦労が報われたように感じていた。 赤ん坊の頃から育て、病気の夜も、受験の日も、留学の朝も、ずっとそばで支えてきた大切な息子。けれど祝賀会の席で、夫は一人の女性を連れて現れ、残酷な真実を告げる。 「春樹は、俺と愛人との子だ」 さらに夫は離婚届を突きつけ、ひよりを家から追い出そうとする。だがその場で、春樹が静かに口を開いた。 そして明かされたのは、夫と愛人だけが隠していたはずの過去ではなかった。 二十三年前、赤ん坊だった春樹に何が起きたのか。血のつながりを超えて、最後に息子が選んだ“本当の母親”とは――。夫婦|親不孝|絶縁|親子関係2.3万字5 1987 -
完結第12話
入院中、母が勝手に老人ホームへ送られていた
交通事故で一週間入院した菜緒は、母・春江と連絡が取れないことを夫・健太に訴える。しかし健太は「元気にしている」と嘘を重ね、退院後に実家へ向かうと、母は姿を消し、家財や通帳、土地の権利証まで段ボールに詰められていた。 健太は、足の悪い春江に「娘は長期入院し、家も売る」と吹き込み、無断で老人ホームへ入れていた。目的は実家を売却し、残金を自分たちの生活に使うことだった。施設の隅で「娘に捨てられた」と泣く母を見つけた菜緒は、虚偽による入居契約の無効を主張し、その場から母を連れ帰る。 菜緒は直ちに、八年間続けてきた義父母への月十五万円の送金と家族カードを停止し、自分名義の定期預金三百五十万円も安全な口座へ移す怒り|夫婦|親不孝|金銭問題|修羅場1.7万字5 515 -
完結第17話
母に追い出された私が、介護を手放すまで
三年間、要介護の母・一枝の家事と介護を一人で背負ってきた由美子は、「大好きな長男夫婦と暮らすから出ていけ」と追い出される。彼女は反論せず、通院、服薬、食事、排泄介助まで記した冷蔵庫の予定表だけを外し、新しい生活へ踏み出した。 由美子が消えると、兄・秀樹夫婦は介護の重さと毎月約九万円の費用に直面する。さらに秀樹が母の定期預金三百万円を、不倫相手への手切れ金として使い込んでいた事実も判明。義姉マリは耐えきれず家を出て、秀樹は汚物の処理すらできないまま妹へ泣きつく。 しかし由美子は、母と兄の身勝手な要求を拒み、実家からの電話を着信拒否にする。兄弟姉妹|親不孝|裡の顔|介護2.6万字5 583 -
完結第12話
20年の仕送りを止めたら、義母の嘘が暴けた
20年間、毎月10万円の仕送りを一度も欠かさなかった私。 総額は2,400万円にもなるのに、義母は法事の席で親族を前に笑った。 「たった10万円よこして、偉そうにしないでよ」 その言葉を聞いた私は、翌月から仕送りをやめることを決めた。 義母は「その程度のお金、なくても困らない」と強がっていたが、わずか3か月後、その暮らしは急速に行き詰まっていく。 やがて夫は、実家で銀行と証券会社から届いた複数の封筒を発見する。 そこに記されていたのは、義母が隠し続けてきた資産の動きと、私たちの仕送りが使われていた本当の目的だった。 なぜ義母は2,400万円もの援助を「大した額ではない」と笑ったのか。 そして、仕送りを止めた途端に崩れ始めたものとは――。 20年間の善意を当然のものとして踏みにじられた妻が、家族に隠された金銭の秘密と向き合い、自分の人生を取り戻していく物語。嫁姑|相続|親不孝|親子関係|金銭問題1.8万字5 1050 -
完結第11話
裏口に回された仕立て屋
孫の発表会の日、68歳の佐和子は嫁から「業者は裏口から入ってください」と告げられる。 舞台に立つ47人の子どもたちが着る衣装は、すべて佐和子が三か月かけて縫い上げたものだった。材料費も立て替え、客席にも座れず、舞台裏で補修を続けた佐和子。 しかし終演後、保護者たちの会話から、嫁が衣装代として大金を集めていたことを知る。 さらに衣装箱には見知らぬ店名のシールが貼られ、ネットには佐和子の作業場が“嫁の実績”として掲載されていた。 家族のため、孫のため。そう思って飲み込んできた佐和子だったが、ある書類に自分の名前が勝手に使われていることを知った瞬間、静かに立ち上がる。 奪われたのは、お金だけではなかった。 名前も、時間も、技術も――。 佐和子は、自分の仕事を取り戻すため、初めて家族に「無償ではない」と告げる。嫁姑|親不孝|真相1.6万字5 1613 -
完結第10話
預けた通帳が消えた日
六十七歳の山田静は、膝の手術費を用意するため、息子夫婦に預けていた通帳を返してほしいと頼んだ。 しかし嫁の美香は、薄く笑ってこう言った。 「お母さん、私たちにお金なんて預けましたっけ?」 夫と二人で魚屋を営み、三十年かけて貯めた老後の資金。息子を信じて渡した通帳も印鑑も、いつの間にか静の手元から消えていた。さらに息子の健一まで、母をかばうどころか「知らない」と目をそらす。 不安を抱えた静が耳にしたのは、預金を使い切ったあと、彼女を認知症扱いして施設へ入れようとする恐ろしい計画だった。 家族を信じ続けた母が、ようやく気づいた真実。 奪われたのはお金だけではなかった。 自分の人生そのものを取り戻すため、静は亡き夫との思い出が残る藤沢へ向かい、静かな反撃を始める――。怒り|親不孝|親子関係|介護|金銭問題1.5万字5 734 -
完結第10話
退職祝いは「孫の勤務表」
42年間勤めた会社を退職したその夜、62歳の高橋信夫は、娘夫婦から一枚の紙を渡された。 そこに書かれていたのは、退職祝いの言葉ではなく、《おじいちゃん担当表》。孫の送迎、夕食作り、買い出し、風呂と寝かしつけ――信夫の自由になったはずの時間は、家族によって勝手に埋められていた。 さらに、娘夫婦は一時的な滞在のはずが、期限のない同居を考えていた。信夫の書斎は孫の部屋にされ、保育園の書類には本人の知らない署名まで残されている。 「家族のため」という言葉の裏で、誰の時間が犠牲にされていたのか。 退職後の人生を奪われかけた父が、自分の居場所と家族との距離を取り戻していく物語。親不孝|第二の人生|親子関係1.6万字5 392