"四十九日に追放された妻" 第1話
「子さん、このはですね、もう私たちのものなんです」
さんの法が今終わったばかりの、まだ線のりがかすかに残るリビング。嫁の美咲は、座卓に両を突いてを乗りし、酷な目で私を見ろしながらそう言い放った。私はあまりの言葉に、正座したまま美咲の顔を見げることしかできなかった。
「今、何とおっしゃいました?」
震える声を絞りす私に対し、美咲はさらに表をたくして言葉をねた。
「荷物はつだけ持って、今にてってください」
美咲はリビングのドアを指差し、くしろと言わんばかりに顎をしゃくった。その徹な態度に、私は膝のに置いた両をきつく握りしめた。
「さんのが今終わったばかりなのに……ここで35も暮らしてきたのに」
私は周囲の壁や、夫の遺が飾られた祭壇を見渡しながら訴えた。しかし美咲は、ふんとで笑って腕を組んだ。
「分かっています、だから今なんです」
美咲はしも悪びれる様子なく、たい線を私に固定したままだった。その言葉を聞いた瞬、私ののは真っになった。私の35のが、ぐるみ剥がされて、たったつの荷物だけになってしまうというの。私はリビングのを見つめ、これ以この所に自分の居所がないことを悟った。
広告
私はちがり、寝から古い旅鞄をつだけ持ってきて、夫の遺品を詰めた。
私が持ってきたのは、夫が使っていた古い腕計つだけだった。ので、私が持ってきたのはそれつだけだった。玄関をると、1のたいが頬を刺した。空はく垂れ込め、がりそうだった。35を過ごしたが、私の背の向こうにざかっていった。私は決して振り返らなかった。振り返ったら、寂しさと悔しさでが止まる気がしたからだ。
の角まで歩いたところで、私はコートのポケットからスマートフォンを取りし、画面を見つめた。そして、の友であるエミに話をかけた。
「もしもし、エミ? 私、しのお世話になってもいいかしら?」
受話器の向こうで、エミは私の声の異変に気づいたようだったが、余計なことは何も聞かなかった。
「今すぐいらっしゃい」
その言が、あの、を追いされてから聞いたで番温かい言葉だった。私はスマートフォンを握りしめ、たい空気のでさく頷いた。エミのお惣菜は、駅から3ブロック先にある静かなにあった。
私がおのガラス扉を押してに入ると、カランカランと気よい音が響いた。内には、噌と醤油、そして炒りたてのゴマのりがよく漂っていた。その匂いを嗅いだ瞬、私の目から涙が溢れて止まらなくなった。
広告
それは、くなったさんが好きだった匂いだったからだ。
エミは私の姿を見ると、調理からてきて何も言わずに私の肩を抱き、奥の部へと連れてってくれた。エミは際よく布団を敷いて私を座らせ、温かいお茶を湯呑みに入れて差ししてくれた。彼女は何があったのか、切聞いてこなかった。ただ、静かにそこにいてくれた。その沈黙が、今の私には何よりもありがたかった。私は湯呑みを両で包み込み、温かさをじながら静かに夜を迎えた。
翌朝、エミは調理から枚の清潔なエプロンを持ってきて、私のに差しした。
「しばらくここで働きなさい。じっとしてたら余計辛くなるから」
私は差しされたエプロンを見つめ、それを両で受け取ってく頷いた。今の私は、体をかしていなければ、しみと絶望でそのまま崩れてしまいそうだったのだ。こうして私は、エミのお惣菜で働くおばさんになった。68歳ののことだった。
それから瞬くに1ヶのが流れた。あるの午、私のスマートフォンが振した。画面には息子の拓哉の名が表示されていた。私は通話ボタンを押し、に当てた。
『お母さん、にったら荷物がなくて……今どこにいるんですか?』
拓哉の声は焦燥しきっていた。私はし言葉に詰まり、自分のエプロンの裾を握りしめた。
「丈夫よ、友達のところにしいるの」
広告
おすすめ作品
-
完結第15話
18年間閉ざされた納屋
31歳の美咲は、博士課程を修了したその日、18年間会えずにいた兄・直のことを確かめるため実家へ向かった。両親からはずっと「兄は施設で暮らしている」「会えば不安定になる」と聞かされ、施設名も住所も教えられていなかった。ところが帰り道、近所の女性から思いがけない一言を聞く。「直君、まだ裏の納屋にいるんだと思ってた」。実家へ駆け戻ると、古い納屋の扉には外側から2つの南京錠。窓は布で覆われ、食器と電気コードには最近まで使われた痕跡が残っていた。そして美咲が「お兄ちゃん」と呼びかけると、扉の向こうから2度、確かな音が返ってきた。18年間、両親は何を隠してきたのか――。兄弟姉妹|親子関係2.2万字5 410 -
完結第15話
妊娠中の娘が逃げ帰った夜、大富豪の母が動いた
妊娠8か月の娘・はるかが、顔に傷を負い、母エリコの家へ逃げ帰ってきた。病院では新しい肋骨の骨折に加え、以前の骨折痕も見つかる。夫・匠による暴力は、一度きりではなかった。 匠は巨大企業グループの創業家の一員。だがエリコはその地位にひるまず、娘の安全を確保し、診断書を残す。同時に信頼する会計士へ調査を頼むと、匠一家が関わる財団に巨額の不正な資金移動の疑いが浮かび上がった。 報道を受けても疑惑を否定し続けた匠は、緊急会見の最中、はるかへの傷害容疑で逮捕される。さらにグループの資金問題にも捜査が及び、権力を盾にしてきた一族は追い詰められていく。 母の行動が事態を動かす一方、すべての始まりにあったのは、はるかが自分とお腹の子を守るため、あの家から逃げ出した決断だった。因果応報|人生逆転|嫁姑|絶縁|親子関係|修羅場2.3万字5 1226 -
完結第15話
介護で表彰される嫁――私は認知症に仕立てられた
手首を骨折し、息子夫婦の家へ身を寄せた68歳の文江。嫁・沙耶香は、物忘れが進んだ姑を献身的に介護しているように見せ、日常を動画で配信していた。 だが文江は認知症ではなかった。砂糖と塩を入れ替え、スマートフォンを隠し、同じ質問を繰り返すよう指示する――すべては再生数と広告収入を得るための演出だった。しかも息子も、その事実を知りながら黙認していた。 沙耶香が「献身的な嫁」として表彰される当日、巨大スクリーンに流れたのは感動映像ではなく、撮影前に姑へ演技を命じる未編集動画だった。そして文江は車椅子を使わず、自分の足で壇上へ向かう。 家族に病気も財産も人生も利用された女性が、自らの声と尊厳、そして「撮られない権利」を取り戻していく逆転と再生の物語。因果応報|嫁姑|認知症2.2万字5 779 -
完結第11話
棺の中で眠る娘と、吠え続けた秋田犬
秋田の豪雪地帯で、七歳の少女・雪の葬儀が営まれていた。ところが愛犬ハチだけは棺に向かって激しく吠え、畳を掻き続ける。周囲が狂犬扱いする中、前妻であり元救命看護師の静子は、棺の内側から聞こえる微かな音と、雪の指先の動きを見逃さなかった。 静子が葬儀を止めて棺を開けると、雪には脈と呼吸が残っていた。静子は的確な応急処置を行い、雪はついに「お母さん」と声を発する。無力だと見下していた静子に娘を救われ、後妻エミリーと父・健一は言葉を失う。 しかし、奇跡の生還で物語は終わらない。救急搬送される娘に付き添いながら、静子は「なぜ雪が猛吹雪の夜、裏山へ出たのか」という疑念を抱く。人生逆転|真実|真相|親子関係1.6万字5 704 -
完結第15話
炎天下に追い出された新人と、5年ぶりに戻った男
正木電気の新人・潮見知夏は、猛暑の中で草むしりを強要され、総務部長・黒岩から執拗な嫌がらせを受けていた。五年ぶりに本社へ戻った滝川武は彼女を救い、腐敗した職場の実態を静かに探り始める。 知夏は書類整理中、解約済みの植栽会社へ毎月五十万円が送金され続けている事実を発見。その直後、地下倉庫へ追放され、ついには炎天下で倒れてしまう。滝川と堀田課長は、黒岩と八谷常務による総額二億三千万円の横領証拠を揃え、臨時役員会を招集する。 そこで滝川が専務執行役員であることが明かされ、帰国した正木社長も黒岩を追及する。職場逆転|因果応報|人生逆転|修羅場2.3万字5 507 -
完結第11話
父の葬儀を捨てた夫へ、亡き父が遺した最後の証拠
父の葬儀の読経中、夫のスマホが3度震えた。 「会社で緊急のトラブルがあった」 そう言って席を立った夫は、私の父を見送ることなく姿を消した。 喪主だった私は、何も言えず一人で最後まで葬儀を終えた。 その夜、冷たい家に戻ると、午前2時57分―― 亡くなったはずの父の名前から、メッセージが届いた。 「誰にも言わず、母さんの墓へ行きなさい」 半信半疑で向かった先で、父が残していたものを見つけた。 そこに入っていたのは、夫の知られざる裏切りと、私を守るための証拠だった。 そして私は初めて知った。 父は最後の日まで、私の人生を守ろうとしていたのだ。夫婦|親子関係|修羅場|不倫1.6万字5 480 -
完結第13話
義母に逆らった妻を閉じ込めた夫が、翌朝失ったもの
義母への仕送りを断った夜、菜緒は夫の浩司にトイレへ閉じ込められた。冷たい床で朝を待ちながら姉に助けを求め、夫の発言を録音する。翌朝、姉たちが迎えに来ると、菜緒は「もうこの家には戻らない」と告げた。 避難先で菜緒が止めたのは、義母と義弟への毎月の送金、そして夫に渡していた家族カード。さらに、夫が口走った「部屋の件」を確かめると、菜緒が独身時代に買ったマンションへ、本人に無断で義弟夫婦を住まわせる話が進んでいた。 すでに置かれた荷物を見つけた菜緒は室内を記録し、玄関の鍵を交換する。義母からの抗議にも、援助と部屋の使用を断る意思を伝えた。閉じ込められた夜に握っていたスマートフォンから、菜緒は自分の暮らしを守るために動き始める。嫁姑|絶縁|親子関係|修羅場2.0万字5 1708 -
完結第15話
正月、娘に熱汁を浴びせた義兄へ110番
娘がグラスを1つ割っただけで、義兄は笑いながら熱い汁物を8歳の娘へ浴びせた。 しかも泣き叫ぶ娘を前に、義母も親族も止めるどころか「正月から大げさ」と笑っていた。 夫まで兄を庇い、「今日は丸く収めよう」と私に黙るよう求めてきた。 私は娘の腕を流水で冷やしながら、警察署長を務める実兄へ電話した。 「お兄ちゃん、今度はもう手加減しないで」 だが兄が私に命じたのは、身内の力を使うことではなく、「今すぐ110番して、証拠を全部残せ」ということだった。 その言葉で私は、義実家の天井に防犯カメラがあることを思い出した。 警察が映像を確認した直後、それまで「手が滑っただけ」と笑っていた義兄の顔色が一変する。 そして夫まで知らなかった“決定的な場面”が映っていたことで、あの正月に笑っていた全員の立場がひっくり返り始めた。怒り|嫁姑|親子関係|修羅場2.2万字5 2260 -
完結第12話
入学式の日、愛人を選んだ夫への「お祝い」
娘・美香の入学式当日、夫・健吾は姿を見せなかった。電話をかけると、「愛人と離婚届を出しに来ている」と笑いながら告げ、妻子を捨てて新生活を始めると宣言する。 泣きそうになるカナからスマートフォンを受け取った義母・富美子は、取り乱すどころか静かに微笑んだ。「本当におめでたい日ね。盛大にお祝いしなくちゃ」。その夜、帰宅した健吾を待っていたのは、白いリボンが掛けられた巨大なケーキだった。 しかしケーキの中には、健吾が大切にしていた高級時計や愛人との品々が隠されていた。自らそれらを切り刻んだ健吾へ、富美子は不倫と会社経費の私的流用を示す証拠を突きつけ、カナは離婚条件を記した書類を差し出す。 娘の晴れの日に家族を裏切った男がすべてを失う一方、血のつながらない嫁と孫を守り抜いた義母。三世代の女性が本当の家族として、新しい幸福を築いていく痛快な逆転物語。夫婦|親子関係1.8万字5 1079