"還暦の朝、家を売った母" 第3話
「ばあば、階に来ちゃダメ!」 歳になったばかりの孫の翔太が、階段の途で両を広げ、さな体で階段を塞ぐようにちはだかった。 子はを止め、翔太を見げた。 「どうしたの、しょうちゃん。ばあば、洗濯物を取り込みたいんだけど……」 「ダメ!ママが言ってたもん。ばあばは(階)にいなきゃダメって!」 翔太の純粋な、それゆえに凶器のような瞳が子を見ろしていた。幼い孫にまでを拒絶されるという現実に、子は言葉を失い、階段のすりを握りしめたまま、ただち尽くすことしかできなかった。
共スペースであるはずの階のリビングも、いつしか子のち入りが完全に制限されるようになった。 「お母さん、今は友達が来るので、階からないでもらえますか?」 美からの事務な連絡に、子はただ「わかりました」と答えるしかなくなっていた。
そしてヶ、慎太郎が階の子の部にやってきて、衝撃な提案をにした。 「母さんも、もうすぐ歳になるんだからさ、そろそろ階のフロアからないでくれるか?」 ソファに座る慎太郎は、スマートフォンに目を落としたまま、淡に言い放った。 子は驚き、息を呑んだ。 「でも、慎太郎……ここは私のでもあるのよ?」 その言葉に、慎太郎は初めて顔をげ、そうに眉をひそめた。
広告
「建物は俺がローンを組んで建てたんだ。母さんはを提供しただけだろう」 その言い方に、子は絶望した。千百万円のをしたことも、実を売却したことも、この息子のからは完全に消えっているようだった。
さらにヶ、慎太郎はついにその本性を剥きしにして、子に詰め寄った。 「の名義、そろそろ俺に変えてよ」 「どうして急にそんなことを……?」 子が戸惑いながら尋ねると、美が横からを挟んだ。 「相続税対策にもなるし、どうせ将来は慎太郎のものになるんだから、今のうちに理しておかないと。お母さんに何かあってからでは遅いんです」 子が返答を躊躇していると、慎太郎の態度はにに目に見えて酷になっていった。 「実の息子を信用してないわけ?母さんがそんなにに執着するなら、もう緒にむないよね。このままだと、本当にてってもらうことになるよ」 最には、らかな脅し文句までにするようになった。、謝の涙を流していた息子の面は、もうどこにもなかった。世帯宅は、子にとって完全にたい牢獄と化していた。
レストランの個。慎太郎の鳴り声の余韻が残る、子のには、名義変更や財産放棄を迫る類のが並べられていた。美がバッグから万を取りし、子の元に突きつける。
広告
「これ、の名義変更の類です。今ここでサインしてください。建て替えの話もんでいるので、急に続きが必なんです」 子は、目のに並んだ「名義変更申込」「財産放棄同」というたい文字をじっと見つめた。界が涙で滲みそうになるのを、必でこらえる。 「こんなの……あまりにもあんまりだわ……」 子が声を震わせると、慎太郎はややかにを鳴らした。 「母さん、泣いても無駄だよ。サインしないなら、こっちだって法段を執るまでだ。弁護士も既に配してある。母さんには建物にむ権利はないんだから、だけ持っててもないだろう」
レストランの個を支配するたい空気は、まるで裁判所のようだった。テーブルのには、受け取りを拒絶され、乱暴に押し返された還暦祝いの桐の箱が転がっている。のを込めた品物は、もはやこのにはゴミ同然だった。 「母さん、わかってくれよ。俺たちはで、しいを始めたいんだ。お母さんのいない、だけの幸せな庭をね」 慎太郎は、美と翔太の肩を抱き寄せながら、そう言い放った。翔太もまた、美のから子を見て、無邪気にを振った。 「ばあば、バイバイ!」 歳の孫からの決定な拒絶に、子のは完全に打ち砕かれた。同に、胸の奥で何かが完全に弾けんだ。
「以内に返事をもらう。
広告
おすすめ作品
-
完結第17話
しおれた野菜と30万円
正月準備のため妻・綾野に三十万円を預けた修平が帰宅すると、冷蔵庫は空になり、綾野はしおれた野菜を抱えて震えていた。防犯カメラには、合鍵で侵入した母・久美子と妹・ゆりが、食材と現金を奪い、「妻が使い込んだことにする」と脅す一部始終が残されていた。 修平は援助や契約を停止し、父の遺品を調べる。その結果、母は前夫の家から二百万円を持ち逃げし、血のつながらない修平を守ろうとした父に返済を肩代わりさせていたことが判明する。完済後も母は架空の利息をでっち上げ、修平の出生を暴露すると父を脅して、長年金を奪い続けていた。人生逆転|嫁姑|夫婦|絶縁|修羅場2.5万字5 980 -
完結第14話
妊娠八ヶ月の私を捨てた夫と義母に、静かな決断を下した日
妊娠八ヶ月の由香は、義母と夫から「本家の嫁の仕事」として、正月に集まる親戚三十人分の料理と給仕を強要される。そんな折、実父が心筋梗塞で倒れるが、夫は「実家はもう他人」と言い放ち、父の看病より義実家の体面を優先するよう迫った。 義兄嫁・智子から、義実家の正月が代々嫁を酷使する“公開処刑”だったと聞いた由香は、産婦人科で妊娠高血圧症候群と診断される。それでも義母と夫は診断書を無視し、「這ってでも来い」「跡継ぎを産ませてやる」と暴言を重ねたため、由香は証拠を保存し、正月への不参加と離婚の意思を宣言する。 大晦日、由香が現れなかった義実家では、何ひとつ準備していなかった義母と、料理のできない夫が大混乱に陥る。一方、父と穏やかに過ごす由香のもとへ、智子から「親戚の重鎮たちに種をまいた」と連絡が届く。物語は、元日に義母と夫が親戚一同から裁かれる直前で途切れている。裡切られた|兄弟姉妹|嫁姑|絶縁2.1万字5 562 -
完結第15話
18年間閉ざされた納屋
31歳の美咲は、博士課程を修了したその日、18年間会えずにいた兄・直のことを確かめるため実家へ向かった。両親からはずっと「兄は施設で暮らしている」「会えば不安定になる」と聞かされ、施設名も住所も教えられていなかった。ところが帰り道、近所の女性から思いがけない一言を聞く。「直君、まだ裏の納屋にいるんだと思ってた」。実家へ駆け戻ると、古い納屋の扉には外側から2つの南京錠。窓は布で覆われ、食器と電気コードには最近まで使われた痕跡が残っていた。そして美咲が「お兄ちゃん」と呼びかけると、扉の向こうから2度、確かな音が返ってきた。18年間、両親は何を隠してきたのか――。兄弟姉妹|親子関係2.2万字5 410 -
完結第15話
妊娠中の娘が逃げ帰った夜、大富豪の母が動いた
妊娠8か月の娘・はるかが、顔に傷を負い、母エリコの家へ逃げ帰ってきた。病院では新しい肋骨の骨折に加え、以前の骨折痕も見つかる。夫・匠による暴力は、一度きりではなかった。 匠は巨大企業グループの創業家の一員。だがエリコはその地位にひるまず、娘の安全を確保し、診断書を残す。同時に信頼する会計士へ調査を頼むと、匠一家が関わる財団に巨額の不正な資金移動の疑いが浮かび上がった。 報道を受けても疑惑を否定し続けた匠は、緊急会見の最中、はるかへの傷害容疑で逮捕される。さらにグループの資金問題にも捜査が及び、権力を盾にしてきた一族は追い詰められていく。 母の行動が事態を動かす一方、すべての始まりにあったのは、はるかが自分とお腹の子を守るため、あの家から逃げ出した決断だった。因果応報|人生逆転|嫁姑|絶縁|親子関係|修羅場2.3万字5 1226 -
完結第11話
棺の中で眠る娘と、吠え続けた秋田犬
秋田の豪雪地帯で、七歳の少女・雪の葬儀が営まれていた。ところが愛犬ハチだけは棺に向かって激しく吠え、畳を掻き続ける。周囲が狂犬扱いする中、前妻であり元救命看護師の静子は、棺の内側から聞こえる微かな音と、雪の指先の動きを見逃さなかった。 静子が葬儀を止めて棺を開けると、雪には脈と呼吸が残っていた。静子は的確な応急処置を行い、雪はついに「お母さん」と声を発する。無力だと見下していた静子に娘を救われ、後妻エミリーと父・健一は言葉を失う。 しかし、奇跡の生還で物語は終わらない。救急搬送される娘に付き添いながら、静子は「なぜ雪が猛吹雪の夜、裏山へ出たのか」という疑念を抱く。人生逆転|真実|真相|親子関係1.6万字5 703 -
完結第11話
父の葬儀を捨てた夫へ、亡き父が遺した最後の証拠
父の葬儀の読経中、夫のスマホが3度震えた。 「会社で緊急のトラブルがあった」 そう言って席を立った夫は、私の父を見送ることなく姿を消した。 喪主だった私は、何も言えず一人で最後まで葬儀を終えた。 その夜、冷たい家に戻ると、午前2時57分―― 亡くなったはずの父の名前から、メッセージが届いた。 「誰にも言わず、母さんの墓へ行きなさい」 半信半疑で向かった先で、父が残していたものを見つけた。 そこに入っていたのは、夫の知られざる裏切りと、私を守るための証拠だった。 そして私は初めて知った。 父は最後の日まで、私の人生を守ろうとしていたのだ。夫婦|親子関係|修羅場|不倫1.6万字5 480 -
完結第13話
義母に逆らった妻を閉じ込めた夫が、翌朝失ったもの
義母への仕送りを断った夜、菜緒は夫の浩司にトイレへ閉じ込められた。冷たい床で朝を待ちながら姉に助けを求め、夫の発言を録音する。翌朝、姉たちが迎えに来ると、菜緒は「もうこの家には戻らない」と告げた。 避難先で菜緒が止めたのは、義母と義弟への毎月の送金、そして夫に渡していた家族カード。さらに、夫が口走った「部屋の件」を確かめると、菜緒が独身時代に買ったマンションへ、本人に無断で義弟夫婦を住まわせる話が進んでいた。 すでに置かれた荷物を見つけた菜緒は室内を記録し、玄関の鍵を交換する。義母からの抗議にも、援助と部屋の使用を断る意思を伝えた。閉じ込められた夜に握っていたスマートフォンから、菜緒は自分の暮らしを守るために動き始める。嫁姑|絶縁|親子関係|修羅場2.0万字5 1708 -
完結第13話
黒い着物の誓い
「お前んち、ヤクザだっけ?w なら今すぐ呼んでみろよ」 同窓会の席で、私は昔のいじめ加害者に笑われました。 祖母の形見の黒い着物を見て、 「極道の真似事かよ」 そう言った男は、私の胸元に酒を浴びせたのです。 周囲は笑っていました。 10年前、教室で机に落書きをされた時と同じように。 私は怒りを抑え、ただ1本の電話をかけました。 「5分で来てください」 すると―― ホテルの前に現れたのは、30台の黒塗り高級車。 そして、誰もが知るはずのない私の本当の立場を前に、笑っていた同級生たちは凍りつきました。 しかし、そこで終わりではありませんでした。 床に這いつくばって謝罪する男の背後には、 母親が隠していた「400万円の借金」と、10年前の雨の日に繋がる秘密があったのです。 なぜ私は、私を傷つけた相手を救うことになったのか。 そして、あの日の1万円が、10年後に大きな運命の変化を起こすことになるとは――人生逆転|怒り|真実|修羅場1.9万字5 507