"還暦の朝、家を売った母" 第7話
の病院勤務で貯めた千万円の預とわせ、元にはまだ千万円い資産がある。歳からのしいを自由にきるには、お釣りがくるほどの分な額だった。
朝を済ませ、お気に入りの軽いスーツにを包んだ子は、マンションをて歩き始めた。しい職であるシニア向けの介護施設「潮の」までは、沿いのを歩いてわずか分ほどの通勤ルートだった。よい潮が頬を撫で、毎朝のこの散歩が、子のの活力になっていた。 施設の玄関に入ると、若いスタッフたちがるい笑顔で迎えてくれた。 「川施設、おはようございます!」 「おはようございます。今もよろしくね」 子は笑顔で挨拶を返した。
子は、入職してわずかヶで、その卓越した能力を認められて施設に昇していた。施設の「子さんの、病院受付の経験は伊達じゃない。事務処理も、利用者様への対応も級品だ」という推薦の言葉が、今でも子の胸を温かく満たしていた。を排し、淡々と必な業務をこなす。かつて息子夫婦を追い詰めたあの事務処理能力が、今度はくの老たちを救うための力として、遺憾なく発揮されていた。 「施設、今しく入居される伊達様のご案内ですが……」 「ええ、お部の準備は万全ね。
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かくお迎えしましょう」 子はスタッフに指示をし、ききとした取りでロビーへと向かった。
昼休み、の見える職員休憩で、自分で作った鮮やかなお弁当をべていると、事務員の佐藤さんが通の封筒を持って入ってきた。 「施設、またご親族の方から郵便物が届いていますよ。……どうなさいますか?」 佐藤さんは、子の事を察して、配そうな声をかけた。差の欄には、「川慎太郎」の名が震える文字でかれていた。あのから、もう何通も届いているの通だった。 「ありがとう。し席をすわね」 子は静かにちがり、になれるへと向かった。
潮が吹き抜けるのすりに寄りかかり、子はゆっくりと封をけた。 『母さんへ。もう何度もを送っているけれど、返事がないので、きっと読んでもらえていないかもしれません。でも、かずにはいられません。あのからヶ、俺のは完全に崩壊しました。は差し押さえられ、会社にもローンの件でいられなくなり、美の両親からも見捨てられ、今は狭いアパートで、毎借の返済に追われる獄のような々を送っています。美とも毎喧嘩ばかりで、翔太も泣いてばかりです。母さん、俺が悪かった。本当に愚かだった。あの世帯宅で、母さんがどれほど俺たちのために尽くしてくれていたか、失って初めて気づいたんだ。
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お願いだ、言だけでもいい、返事をくれ。俺たちを助けてくれ……』
子は、の文字を淡々と目で追った。かつて自分を「邪魔者」と呼び、「だけの幸せな庭を築く」と言い放った息子の成れの果て。しかし、その惨な現状をっても、子のにはりも、憐れみも、そしてすらも湧きがらなかった。 子はを丁寧に折り畳むと、ポケットから取りしたさな携帯用シュレッダーに差し込み、静かに砕していった。バラバラになった切れが、にってゴミ箱へと落ちていく。 子は、バッグのから、あの拒絶された桐の箱を取りした。には、あの渡せなかった万、ブローチ、のスプーンが、変わらぬ輝きを放ったまま収まっている。子はそれをおしそうに見つめ、そっと箱を閉じた。 「私はもう、を向いてきているのよ、慎太郎」 子はを見つめ、く、静かに息を吸い込んだ。のい呪縛から解き放たれた彼女のは、広なのように、どこまでも青く、そして美しく澄み渡っていた。
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