"家族だけと言われた元日の逆転" 第1話
「あら、いらっしゃったんですか? 今は族だけですのよ」
令7、しいの幕けとなる元の朝。息子の妻であるが、怪訝そうに眉をひそめながらたく放ったその言がに入った瞬、私のは完全に止まってしまった。
私、岡崎礼子、68歳。この、私は連れ添った夫の正と共に、れやかなの挨拶を交わすため、息子夫婦のへと向かっていた。私のには、末からの3、たいにをさらして丹精込めて作りげた段のおせち料理が握られていた。黒豆も伊達巻も、エビの艶煮も、すべては息子である健吾の好物ばかりをぎっしりと詰め込んだ、母としてのそのものである。43、あの子がまれてから毎欠かさず作り続けてきたおせち。今も箱をけた瞬に、あの子たちの弾けるような笑顔が見られる、そう信じて疑わなかった。
しかし、閉ざされた玄関先で聞こえてきたのは、像すらしていなかった無慈な言葉だった。「族だけですのよ」。のから放たれたその言が、鋭い刃物のようになり、私の胸の奥へとく突き刺さる。族だけというのなら、そこにっている私たち夫婦は、体何だというのだろうか。43、あの子のために自分ののすべてを捧げて尽くしてきた私は、もう族ではないと、そう目ので宣告されているのだろうか。
広告
この残酷な瞬から、私のが再びきく、かつてないほどの激しさでき始めることを、このの私はまだる由もなかった。
しだけを戻しましょう。あの酷な言葉を突きつけられるの、穏やかで希望に満ちていた末の朝のことである。
を迎えるため、私は3ずっと台所にち続けた。黒豆は丁寧に粒ずつ傷がないか選び、でじっくりとをかけて煮込み、艶やかに仕げる。伊達巻は何度も焼き加減を試作して調をねた、が自の。そしてエビの艶煮は、健吾が子供の頃から「お母さんのエビが世界だ」とびしていた特別な品である。台所にづいてきた夫の正が、私の元を覗き込みながら、優しく声をかけてくれた。
「礼子、今も健吾たちはぶだろうな」 「ええ。今は健吾の好きなエビも、いつもよりめに入れたのよ」
私はそう答えながら、仕がった鮮やかな料理をつずつ、丁寧に漆塗りの箱へと詰めていった。この静かな作業をしているこそが、私にとって1ので最も幸せな瞬である。息子のぶ顔をのにい浮かべながら、母としてのびをく噛み締めていた。完成した段は、まるで芸術品のような美しさだった。43培ってきた主婦としての技術と、息子へのの結晶がそこにあった。
広告
「さあ、準備完。今も族みんなでしいを祝えるわね」 「ああ、やっぱり族が1番だからな」
正の温かい言葉に、私は満でく頷いた。
元の朝、私たちは防寒着を羽織り、におせちの箱を慎に載せて発した。窓から見えるれやかな正の並みは、どこもかしこもの希望に満ちて見えた。やがて息子夫婦が暮らす級マンションのに到着した、私の胸は久しぶりに孫や息子に会える期待できく鳴っていた。しかし、このの私は、これから自分を待ち受けている獄のような屈辱を、まだ何もらなかったのである。
マンションのオートロックを抜け、息子たちの部のにってインターホンを押した。その瞬から、私は微かな違を抱いていた。いつもならすぐにドアの向こうからるい歓迎の声が返ってくるはずなのに、今は気なほどい沈黙が続いたからだ。胸をよぎったがきくなりかけた、ようやくスピーカーからの、どこか張り詰めた声が聞こえてきた。
「はい……」 「お母さんよ、あけましておめでとう」 「……お母様、今いらっしゃるなんて、私、伺っておりませんでしたけど」
その淡な声には、らかに私たちの訪問を「迷惑」だと言いたげな響きが含まれていた。までの、満面の笑みで迎えてくれた温かい歓迎とはまるで別のようなたさである。
広告
おすすめ作品
-
連載中第7話
20億追放妻の封筒逆転
斎藤グループ創業家の長男と結婚して5年。跡継ぎを望まれながらも子どもに恵まれず、結菜は義実家の視線に耐え続けていた。 そんなある日、夫の愛人が妊娠したことを知らされる。しかも相手の女性は双子を身ごもっていた。義父母は結菜に離婚合意書を差し出し、20億円と引き換えに日本を出るよう命じる。 家族だと思っていた場所から、金で追い出されることになった結菜。だが署名の直前、彼女は誰にも言えない“ある事実”を知る。 何も告げず海外へ渡った結菜と、愛人との結婚式を迎えようとする元夫。 すべてが斎藤家の思い通りに進むはずだったその日、式場に一通の封筒が届く。 そこに記されていた真実が、夫と愛人の未来、そして斎藤家の後継者計画を静かに崩していく――。因果応報|人生逆転|不倫1.1萬字5 29 -
完結第14話
特大おにぎりの恩返し
小学4年生の遠足の日、黒川大雅は「お弁当を忘れた」と笑う同級生・浅川亜美に、祖母が握ってくれた特大の梅干しおにぎりを分けた。 けれど、それはただの忘れ物ではなかった。 給食だけが唯一まともに食べられる日もあった亜美。お風呂にも入れず、空腹を隠して笑っていた彼女の事情を知った大雅の家族は、静かに手を差し伸べる。やがて亜美は祖父母の家へ引き取られ、二人は離ればなれになった。 それから20年後。 建設会社の社長となった大雅の前に、再開発予定地にある「こども食堂」を守ろうとする一人の女性が現れる。 その名は、浅川亜美。 あの日のおにぎりは、ただ空腹を満たしただけではなかった。祖母の優しさと、一人の少女の人生を変えた記憶は、20年の時を越えて、思いがけない形で大雅の前に戻ってくる――。人生逆転|真相2.0萬字5 24 -
完結第11話
部外者会長の逆襲
営業部の新年会に、夫と一緒に出席した井上ゆかり。 しかし会場に着くと、用意されているはずの席はなく、課長の獅倉からは笑いながらこう言われた。 「今日は関係者だけで飲もうよ」 部外者扱いされ、夫婦そろって追い出されるように店を出たゆかり。だが店の外には、黒いセダンと秘書が待っていた。 「帰るから、車出して」 「会長、承知しました」 実はゆかりには、会社の誰も知らないもう一つの顔があった。 翌朝、課長から慌てた電話が入る。大型契約が突然保留になり、会社のサーバーからは、ただの嫌がらせでは済まされない重大な痕跡が見つかっていた――。因果応報|修羅場1.6萬字5 739 -
完結第10話
真っ暗な部屋の退学届
姉を突然亡くした39歳の孝太郎は、残された高校生の姪・美緒を引き取ることを決めた。 母を失ったばかりなのに、泣き言ひとつ言わず、家事も勉強もこなす美緒。孝太郎は「しっかりした子」だと思い、少しずつ二人の生活は形になっていく。 だがある夜、仕事から帰ると部屋は真っ暗だった。 美緒の部屋を開けた孝太郎が見たのは、床に並べられた荷物、通帳、求人誌、そして一枚の退学届。 母を亡くした少女は、本当は何を抱えていたのか。 その夜、亡き姉が残した一通の手紙が、二人の止まっていた時間を静かに動かし始める――。第二の人生|親子関係1.4萬字5 219 -
完結第13話
吹雪の一杯
夫が遺した山あいの温泉旅館「灯里館」を、一人で守り続けてきた70歳の富美子。 しかし返済期限まで残り三ヶ月。1500万円の借金を抱え、親族や開発会社からは「もう旅館を売れ」と迫られていた。 そんなある吹雪の夜、富美子は雪の中で倒れていた一人の外国人男性を助ける。凍えた彼に差し出したのは、囲炉裏の火と、いつもの味噌汁だった。 ただの親切のはずだった。 だが、その外国人が残した映像をきっかけに、灯里館には世界中から予約が殺到する。さらに、旅館を買い取ろうとする開発会社が本当に狙っていたもの、そして亡き夫が密かに守ろうとしていた“山の秘密”が少しずつ明らかになっていく。 夫は本当に旅館を売ろうとしていたのか。 なぜ死後の日付で、夫の署名が残されていたのか。 消えかけた囲炉裏の火が、富美子の人生をもう一度動かし始める――。因果応報|人生逆転1.9萬字5 668 -
完結第10話
消えた金づる夫
妻と娘が、妻の浮気相手とハワイ旅行へ出発する朝。 山中敏文は、玄関で笑いながら荷物を確認する2人を黙って見送っていた。妻の裏切りも、娘がそれを知りながら母親の浮気相手と親しくしていたことも、すでにすべて知っていたからだ。 「今日でさようならだな。永遠に帰ってこなくていいぞ」 敏文の言葉を、妻はただの嫉妬だと笑い飛ばす。娘もまた、父を見下すような言葉を残して出ていった。 しかしその日こそ、敏文が何か月もかけて準備してきた“最後の日”だった。 2人がハワイで浮かれている間に、家の中から荷物は消え、生活の土台は静かに崩されていく。妻が当然のように帰るつもりだった場所は、もう以前の家ではなかった。 帰国後、空っぽの部屋で妻が知ることになる真実。 そして、金づるだと思っていた夫が本気で消えた時、彼女たちの人生は一気に崩れ始める――。人生逆転|夫婦|不倫1.5萬字5 2347 -
完結第12話
アクセル細工の報い
深夜1時、森雪穂のスマホに届いた防犯カメラの通知。 ガレージの映像に映っていたのは、夫・翔太だった。彼は周囲を気にしながら、雪穂が祖父から受け継いだ大切な車に何かをしていた。 翌朝、翔太は不自然なほど雪穂を車で外出させようとする。だが雪穂は知らないふりをしたまま、車には乗らなかった。 そんな時、突然やって来た義両親が「今日だけ車を貸してほしい」と言い出す。見栄のために雪穂の車を借りようとする2人を、なぜか翔太だけが必死に止め始めた。 「待ってくれ。その車はやめろ」 昨夜、夫は車に何をしたのか。 そして、義両親がその車に乗った瞬間、翔太の隠していた本性が静かに崩れ始める――。因果応報|夫婦1.8萬字5 3059 -
完結第12話
凍った再婚式
36年間連れ添った夫の鞄から、妻・佳子が見つけたのは、見知らぬ女性との結婚招待状だった。 しかも日付は3月14日。会場は京都・祇園の高級旅館。招待客は約100人。夫はまだ離婚も成立していない妻を残したまま、別の女性との“再婚式”を準備していた。 だが佳子は泣かなかった。問い詰めることもなく、招待状を写真に収め、静かに元の場所へ戻した。 夫婦の共有口座から消えていた金。京都に隠されていた3800万円のマンション。退職予定の夫に支払われる2500万円の退職金。そして、妻を財産から外そうとする遺言。 36年間、夫の予定も家計も管理してきた佳子は、すでにすべてを記録していた。 そして迎えた再婚式当日。 祝福に包まれるはずだった会場へ、一通の呼出状が届けられる。 夫が新しい人生を始めるはずだったその日、明るみに出たのは、誰にも知られたくなかった嘘と隠し財産だった――。因果応報|不倫1.7萬字5 1186