"地下室に消えた母" 第7話
にはさな球が1つだけ灯っていた。その暗いの、隅にうずくまる女性がいた。
乱れた髪。
痩せ細った体。
青い顔。
だが、裕にはすぐに分かった。
「美紀……」
声が震えた。
女性が顔をげた。目が裕を捉えた瞬、涙があふれた。
「あなた……本当に、あなたなの?」
裕は駆け寄り、美紀を抱きしめた。
「美紀。本当にきていたんだな。10、ずっと探していたんだ」
美紀は裕の胸にすがりつき、声を殺して泣いた。
裕は次々と尋ねた。
「どうしてここにいるんだ。何があったんだ。今までどこにいたんだ」
美紀は震えるで裕の腕をつかんだ。
「静かにして。拓也に聞かれたらだめ」
「拓也が何をしたんだ」
美紀は涙を流しながら、この10の来事を話した。
あの、羊羹を取りにへ戻った、拓也に声をかけられたこと。
以から好を告げられ、断っていたこと。
そしてその、拓也が美紀をへ引き込み、へ閉じ込めたこと。
「逃げようとしたら、あなたと健を殺すと言われたの。お義母さんも危ないって。だから、何もできなかった」
裕の全がりで震えた。
10、信頼していた隣。
緒にビラを配り、健の面倒を見てくれた男。
その男が、美紀を奪った犯だった。
その、の方で音がした。
拓也が帰ってきたのだ。
美紀の顔が恐怖に染まった。
「あなた、隠れて。
広告
見つかったらだめ」
しかし裕はかなかった。美紀のを固く握った。
「もう隠れなくていい」
階段をりる音がづいてきた。
やがて拓也がに姿を現した。裕と美紀が緒にいるのを見た瞬、拓也の顔は青ざめた。
「裕さん……これは」
裕はい声で言った。
「拓也。これは体どういうことだ」
拓也はしばらく黙っていた。だが、やがて表を変えた。
「ばれてしまったんですね」
その声はたかった。
「美紀は俺のものです。10、俺が面倒を見てきたんです」
「何を言っている。美紀は私の妻だ」
裕が叫ぶと、拓也は笑った。
「でも10、緒にいたのは俺ですよ。あなたはどこにいるかもらなかったじゃないですか」
「おが誘拐したんだろう」
「誘拐じゃない。美紀はここにいたがっていたんです。そうだろう、美紀」
美紀は震えながら首を横に振った。
「違う。私は帰りたかった。ずっと帰りたかった」
その言葉を聞いた瞬、拓也の顔が歪んだ。
「だめだ。美紀は俺のものだ」
拓也は裕に襲いかかった。
ので2は激しくもみった。美紀の鳴が響いた。
裕は10分のりとしみを込めて、必に拓也を押さえつけた。
「この狂が。何てことをしたんだ」
激しい争いの末、裕はにあったロープで拓也のを縛った。
「もう終わりだ」
裕は震えるで携帯話を取りし、警察へ通報した。
広告
30分、警察が到着した。
拓也は逮捕され、美紀は救急で病院へ運ばれた。
10にわたる監禁事件が、ようやくるみにた。
警察の取り調べで、すべての真実がらかになった。
拓也は以から美紀に方な好を抱いていた。美紀に拒絶されたも諦められず、1993のお盆の、美紀が1でに戻った隙を狙ったのだった。
美紀を自宅へ引き込み、に監禁した。逃げようとすれば裕と健、文子たちを殺すと脅した。美紀は族を守るため、10声をげることができなかった。
警察署で事を聞いた裕は、しばらく何も言えなかった。
あれほど親切だとっていた男が、族を破壊した犯だった。
病院で美紀と再会した文子と太郎は、涙を流した。
「美紀。本当に……本当に変だったね」
文子は痩せ細った嫁のを握りしめた。
「お義母さん、ごめんなさい。配をかけて、本当にごめんなさい」
「謝ることなんてないんだよ。きていてくれただけでいい」
太郎も黙って涙を拭った。
健は最初、混乱していた。
突然現れた母親を、すぐに受け入れることはできなかった。で会ったあの痩せた女性が、本当に自分の母なのか。では理解しようとしても、が追いつかなかった。
「本当に、僕のお母さんなの?」
健がさな声で尋ねると、裕は息子のを握った。
「そうだよ。健のお母さんだ。ずっと帰りたかったんだ」
美紀はベッドので涙を流した。
広告
おすすめ作品
-
完結第18話
昭和44年、最終バスから消えた女性車掌
昭和44年、女性車掌・藤村紀子は最終バスの途中で姿を消し、車掌鞄から三万円を盗んで逃げたと噂された。25年後、娘の美和が廃校の屋根裏で十三枚の乗車券を発見する。当夜の公式記録は乗客十二人だったが、十三枚目は家庭で虐待されていた九歳の少年・高瀬誠の切符だった。 紀子は帰宅を拒む誠を継父・大島へ渡さず、夫の英一に託して鉱山会社の不正資料を取りに向かった。事故隠蔽や児童労働の証拠を掴んだものの追われて富山へ逃れ、その後三度手紙を送っていた。しかし英一は、最初は誠を守るため、後には自分の嘘が露見する恐怖から、すべて受取拒否にしていた。三万円の盗難も、運転手や営業所長らが作った偽装だった。 生存していた紀子と再会した美和は、母の潔白を証明しても、25年の不在まで無条件には許さない。会社記録は訂正され、十三枚の切符は廃校の資料室に保存される。父母は離婚し、美和は双方と境界を定めながら関係を築き直す。最後に母娘は一緒に資料室の戸締まりをし、次に会う日を、初めて誰にも決められず自分たちで選んだ。歴史|昭和|ミステリー|真相2.7万字5 144 -
完結第18話
昭和五十一年、消えた父の声を十八年後に聞いた
昭和51年、深夜番組の途中で言葉を止めたアナウンサー・孝一が、そのまま姿を消した。局から消えた200万円を持ち逃げしたと疑われ、家族には盗人という噂だけが残る。18年後、娘の奈津美は放送局の壁から、当夜の未放送音声を記録したテープを発見する。 調査の末、孝一はダム建設に伴う戸籍偽装と土地補償の不正を知り、死亡したことにされた女性の娘を守ろうとして町を離れたと判明する。200万円の受領書も局幹部による偽装だった。しかし危険が去った後も、孝一は家族に拒絶されることを恐れ、自ら帰らない年月を重ねていた。 奈津美たちは父と再会するが、すぐに昔の家族へ戻ろうとはしない。父の潔白だけでなく、その後の沈黙も記録に残し、それぞれの距離で関係を築き直す。資料館では途切れた放送と地域の声が保存され、孝一は新たな記録に《今度は、返事がなくても、自分から確かめる》と書き残した。昭和|ミステリー|真相|行方不明2.7万字5 122 -
完結第16話
廃線駅に殘された最後の切符
昭和43年、廃線となった白沢駅で、老駅長・源吉は毎年3月12日になると、昭和25年の日付が入った東京行きの切符を机に置いていた。若い駅員の修一が調べると、その日は14歳の少年・健一が故郷を離れた日だった。 健一は別の少年を助けるために名前を貸し、故郷では東京へ就職したことになっていた。しかし本人は別の土地で働き、母へ送った手紙も届かないまま、帰る場所を失っていた。源吉は、東京へ行きたくない健一を時代の流れに任せて送り出したことを、長年悔やんでいた。 源吉の死後、白沢駅へ戻った健一に、修一は最後の切符を渡す。それは旅立ちを促すためではなく、「いつでも帰ってきてよい」と伝えるために残された一枚だった。健一は草に覆われた廃線跡を歩き、置き去りにした故郷との時間に向き合う。歴史|昭和|ミステリー2.4万字5 108 -
完結第16話
12人の子を育てた母の墓から蛇が出た――納骨室を開けると、知らない骨壺が重ねられていた
母・澄江が亡くなって3年。65歳の長男・満は、12人のきょうだいと墓参りに集まった。すると1匹の蛇が墓石の隙間へ消え、91歳の父が「この墓は何かおかしい」と告げる。調べると、石板には工具の傷があり、寺の台帳には母以外の納骨記録がない。正式に納骨室を開けると、母の骨壺の上には見知らぬ骨壺が重ねられていた。火葬日は母の納骨から62日後。さらに、38万円の夜間作業伝票と23時43分の写真が見つかる。誰が母の墓を開け、なぜ別人の遺骨を3年間も隠したのか。やがて浮かび上がったのは、母を誰より慕っていたはずの親友だった。真相|遺體発見2.0万字5 546 -
完結第19話
昭和54年、消えた母の集金袋
昭和54年の集金日、商店街の積立金86万4千円とともに母・澄江が姿を消した。金を持ち逃げしたという噂を残したまま17年。娘の直子は、父の遺品から「返すこと」と書かれた千円札を見つけ、古い帳簿を調べ始める。 調査で見つかった受領書は、澄江が集金した全額を会計担当の大竹へ渡していたことを示していた。大竹は会費の使い込みを隠すため、澄江が倉庫の点検槽へ落ちた夜に救助を呼ばず、失踪後も嘘を重ねていた。ただし、転落の瞬間に何が起きたかは分からない。 直子と弟の修司は母の汚名を晴らし、積立金の記録と返金先を調べ直す。帳簿に残った「集金係の未入金」という記述も訂正された。直子は母の集金袋を店の棚に戻し、修司と並んで帰り道を歩く。時代|昭和|ミステリー|真相2.8万字5 184 -
完結第12話
昭和51年、帰宅目前で消えた25歳女性社員
「一人で静かに帰りたいので、大丈夫です」 昭和51年、25歳のみち子は飲み会のあと、一人でタクシーへ乗った。 運転手は、彼女を自宅からわずか50メートルの場所で降ろした。 「夜遅くにありがとうございました」 それが、みち子を見た最後の証言だった。 布団は朝まで誰にも使われず、通帳も着替えも部屋に残っていた。 上司と同僚には不自然な空白時間があったが、何も見つからなかった。 そして9年後。 亡くなった上司の娘が、遺品のアルバムを開いた。 失踪当夜の宴会写真の次に、見知らぬ和室を写した一枚が貼られていた。 机の上には、黒い女性用のハンドバッグ。 写真の裏には、みち子が消えた数日後の日付が押されていた。昭和|ミステリー|真相1.7万字5 6953 -
完結第19話
廃線の駅で待ち続けた父
昭和37年、源吉は毎週金曜日、15年前に列車が来なくなった青谷駅のベンチで誰かを待っていた。駅員の中村が古い記録を調べると、源吉の息子・修一は終戦後の列車事故で消息を絶っていた。 しかし修一は、事故の直前に戦災孤児の健一を助けるため列車を降りていた。源吉が本当に待っていたのは息子ではなく、「修一さんに助けられた。いつか会いに行く」と手紙を送った健一だった。 中村は30歳になった健一を探し出す。修一の家族を苦しめることを恐れ、15年間会いに行けなかった健一は、最後の金曜日に青谷駅を訪れる。源吉はその顔へ震える手を伸ばし、「修一に似ている」と静かに告げた。歴史|昭和|ミステリー2.9万字5 159 -
完結第12話
消えた姉と18年後の手紙
昭和39年、19歳の佐和子は東京の洋裁店へ働きに出るため、柳行李を上野駅へ送った。しかし本人は店に現れず、上野に届いた荷物からは財布、印鑑、戸籍関係の書類だけが消えていた。家族は、佐和子の帰りを待ち続ける。 18年後、弟の浩二は父の遺品から、姉が乗るはずだった夜行列車とは別方向の列車に印を付けた時刻表と、失踪から2か月後に届いた姉の手紙を見つける。父は、佐和子が生きていることも、自ら家を離れたことも知りながら、家族へ隠していた。 横浜で姉を見つけた浩二は、佐和子が家族のために決められた人生から逃れ、自分の道を選んだと知る。やがて佐和子は弟と列車に乗り、母の墓がある故郷へ向かう。今度は誰かに決められた旅ではなく、自分の意思で選んだ帰郷だった。時代|歴史|昭和|ミステリー1.7万字5 148 -
完結第18話
消えた写真屋の父が残した一本のビデオ
昭和62年の運動会の日、写真館を営む信吾が姿を消した。店から商店街の預かり金200万円もなくなり、家族を捨てて逃げたと疑われる。8年後、娘の由美は運動会のビデオの続きに、失踪したはずの父が午後4時過ぎ、道路計画をめぐって時計店主と口論する姿を見つけた。 由美が調べると、道路の調査資料は書き換えられ、父はそれを示す写真を守ろうとしていたことが分かる。一方で信吾は生きており、家族に連絡できる時期になっても帰らなかった。母の千鶴も、子どもを守るつもりで映像と自分が受け取った金のことを隠していた。 真相が明らかになっても、失われた8年は戻らない。由美と千鶴は新しい写真の店を開き、信吾とは時間をかけて会い直す。由美は今の家族をそれぞれの居場所で撮り、自分の写った一枚も店の棚に置いた。昭和|ミステリー|真相2.7万字5 473 -
完結第18話
消えた交換手と鳴らなかった電話
昭和49年の雪の夜、電話交換手の澄子が姿を消した。十三歳の娘・和枝は、母が家族を捨てたという噂を聞きながら育つ。十九年後、取り壊された交換局から届いた勤務簿には、失踪の夜、澄子が自宅へかけようとして《接続不能》になった通話が記されていた。 和枝が調べ始めると、家の電話線が刃物で切られていたこと、澄子が高齢者宅への灯油配達をめぐる不正を追っていたことが分かる。母は家族を守ろうと町を離れたが、その後も帰れなかった理由には、父の沈黙と、澄子自身のためらいが重なっていた。 ようやく母と再会した和枝は、生きていてくれた喜びと、置き去りにされた寂しさの両方を抱える。十九年を一度の会話で埋めることはできない。それでも二人は、次に話す日を自分たちで決める。雪の日につながらなかった電話が、今度は確かに母へ届く。昭和|ミステリー|真相2.7万字5 1369