"リンゴ畑の骨" 第4話
代わりにった。
資材置きを抜ける。
鉄骨階段を駆けがる。
4階部分のまで気に登った。
では刑事たちが叫んでいる。
作業員たちも騒ぎ始めた。
渡辺はの端にった。
のが吹く。
12。
ずっと逃げ続けてきた。
青森のリンゴ畑。
夜の懐灯。
を掘る音。
じ子さんの顔。
全部がのによみがえった。
刑事たちは無理にづかなかった。
説得が続いた。
1。
さらに1。
やがて渡辺は膝から崩れ落ちた。
逃げる力が尽きていた。
刑事が錠を掛ける。
その瞬も渡辺は何も言わなかった。
青森県警へ移送された。
ニュースは津軽のにも届いた。
たちはざわついた。
「本当にあのだったのか」
「やっぱりな」
様々な声がび交った。
しかし誰もきな声では語らなかった。
12。
皆が見て見ぬふりをした。
その事実だけは消えなかった。
方。
徹也は話を受けた瞬、そのに座り込んだ。
妹の事件が終わる。
そうった。
だがびはなかった。
12。
妹は帰ってこなかった。
犯が捕まってもは戻らない。
ただ静かに涙が流れた。
そして青森県警本部。
取調。
刑事はドアをいた。
机の向こうには渡辺が座っていた。
12。
若刑事だった自分。
そして今。
互いに歳を取っていた。
は無言でファイルを机に置いた。
じ子さんの記。
コピーされた数百ページ。
広告
渡辺は表を見つめた。
そしてゆっくり目を閉じた。
い沈黙が続いた。
やがて渡辺はさく息を吐いた。
「全部話します」
12越しの真実がようやくき始めた。
取調には静かな空気が流れていた。
刑事は急がなかった。
12待ったのだ。
あと数くらい待てる。
渡辺はしばらく机を見つめていた。
やがてをいた。
「最初は助けるつもりだったんです」
その言葉から全てが始まった。
1987の。
じ子さんはで孤していた。
姑から責められる。
夫は守ってくれない。
子供ができないことで肩の狭いいをしていた。
渡辺はそんな彼女にづいた。
最初は本当に親切だったのかもしれない。
農作業を伝う。
役との続きを助ける。
相談相になる。
だがいつしかは変わった。
謝されることがになった。
頼られることが嬉しくなった。
そして執着になった。
じ子さんが距を置き始める。
避けるようになる。
渡辺はそれが許せなかった。
で絶対なだった自分を拒絶された。
その事実が耐えられなかった。
やがて脅しが始まった。
夫のを潰す。
借を取りてる。
農協との関係を壊す。
じ子さんは恐怖をじた。
しかし屈しなかった。
兄へをいた。
助けを求めようとした。
町の喫茶から話も掛けた。
だがそのきを渡辺はっていた。
広告
喫茶をた彼女を見た。
そして悟った。
このままでは自分のが危うくなる。
19871012。
運命の夜だった。
渡辺は農協の会議へ席した。
途で抜けした。
別の女性と会った。
それも事実だった。
しかしその。
再びへ戻った。
夜。
じ子さんを畑へ呼びした。
「最に話をしよう」
そう伝えた。
じ子さんは来た。
自分のためではない。
夫のを守るためだった。
渡辺は再び迫った。
じ子さんは拒否した。
激しい論になった。
渡辺はを抑えられなかった。
その瞬。
全てが終わった。
取調で渡辺はそこで言葉を止めた。
刑事も追及しなかった。
細かな状況は鑑定結果が物語っていた。
じ子さんは度とちがらなかった。
渡辺はで穴を掘った。
夜けまで。
柿のの。
トラック運転が見た灯り。
あれはを掘る懐灯だった。
全てが本に繋がった。
供述は何も続いた。
終した頃にはは暗くなっていた。
裁判が始まった。
渡辺は途まで事故だったと主張した。
しかし認められなかった。
アリバイ作。
証拠隠滅。
期逃。
全てが悪質と判断された。
懲役25。
判決が読みげられた。
法廷で渡辺はうなだれたままだった。
夫は起訴されなかった。
直接な証拠がなかったからだ。
しかしにはいられなくなった。
判決。
誰にも告げず姿を消した。
度とへ戻らなかったという。
判決から数。
徹也は妹の墓を訪れた。
だった。
が優しく吹いていた。
彼はリンゴを箱持ってきた。
墓に置く。
妹は最の数。
リンゴ畑で苦しんだ。
それでも故郷のリンゴだった。
「持ってきたぞ」
徹也は静かにそう言った。
返事はない。
ただだけが吹いていた。
1987。
26歳だったじ子。
彼女は最まで誰かを守ろうとした。
その優しさは利用された。
その善は踏みにじられた。
そして命を奪われた。
は何事もなかったようにを刻んだ。
リンゴは毎赤く実った。
々は活を続けた。
だが真実だけは消えなかった。
ので眠りながら。
12というをかけて。
静かに姿を現した。
事件からいが過ぎても。
津軽のになると。
リンゴ畑は今も赤く染まる。
その景を見るたびにいすがいる。
助けを求めながら消えていったの女性を。
そして。
見て見ぬふりをした々の沈黙を。
本当の罪は誰だったのか。
渡辺ただだったのか。
それとも恐怖に負けてを閉ざした全体だったのか。
その答えだけは今もリンゴののに残されたままである。
広告
おすすめ作品
-
完結第7話
母は沖縄へ消えた
65歳の桜井久子は、夫に先立たれてから、息子夫婦と孫のために人生を捧げてきた。 大学費用、結婚資金、マイホームの頭金、毎月の生活援助。元銀行員として働き続けて貯めたお金も、時間も、すべて息子家族の幸せのために使ってきた。 ところがある朝、息子・拓也は冷たい声で告げる。 「義両親と同居することになったから、母さんには出て行ってほしい」 しかも、久子を追い出した後も、毎月の援助だけは続けてほしいと言う息子夫婦。嫁の両親を迎えるため、久子の部屋まで勝手に決められていた。 その瞬間、久子の中で何かが静かに切れる。 38年間の銀行員生活で培った知識と人脈を使い、彼女は誰にも気づかれないまま準備を始めた。口座の解約、保険の受取人変更、重要書類の移動、そして新しい住まいの契約。 引っ越し当日、息子夫婦が最後に求めたのは、やはり金だった。 しかし久子が差し出した一枚の書類を見た瞬間、2人の顔色は一変する。 母を追い出せば、都合よく支配できると思っていた息子夫婦。 だが1週間後、沖縄の青い海を背景に現れた久子の姿を見て、彼らはようやく自分たちが何を失ったのかを知る――。行方不明1.0萬字5 0 -
完結第17話
壁の中の妻
2006年、長野県松本市で主婦・田中洋子が忽然と姿を消した。 最後に確認されたのは、夫との夜9時の電話。財布も荷物も家に残され、外へ出た形跡もない。夫の健一は東京勤務を辞め、妻がいつか帰ってくると信じて、10年間その家で待ち続けた。 しかし2016年、家のリフォーム工事中、作業員がリビングの壁に奇妙な違和感を覚える。 他の壁よりも厚い、二重構造の壁。 壊されたその奥から出てきたのは、白骨化した人骨と、古びた財布だった。 遺骨の身元は、10年前に失踪した洋子本人。つまり彼女は、夫が毎日座っていたリビングのすぐそばで、ずっと眠っていたことになる。 誰が、なぜ、彼女を壁の中に隠したのか。 捜査線上に浮かんだのは、夫を10年間支え続けた“親切な友人”だった。 妻を探し続けた夫。 善人の仮面をかぶった男。 そして、死の直前に残された一冊の日記。 10年もの間、壁の向こうに封じられていた真実が、ついに崩れ落ちる――。行方不明2.6萬字5 2 -
完結第6話
十七年目の「ただいま」
1974年12月、雪に覆われた金沢で、11歳の少女・水島静香が学校帰りに姿を消した。 川の近くで見つかったのは、泥に濡れた通学カバンだけ。 そこには、母へ向けて書きかけた一文が残されていた。 「お母さん、今日、私、お母さんに一つ言うことがあるの」 三週間後、川岸で少女と似た小さな遺体が発見される。 周囲は静香だと決めつけたが、母・柿江だけは首を横に振った。 「この子は、うちの静香ではありません」 しかし誰も母の言葉を信じなかった。 夫にも町にも「現実を受け入れられない母」と見なされ、柿江はやがて家を追われるように孤独な年月を過ごすことになる。 それでも彼女は、毎年娘へ手紙を書き続けた。 静香はきっと生きている。 その確信だけを胸に抱いて。 そして17年後、柿江のもとへ一通の手紙が届く。 そこに書かれていたのは、誰よりも忘れられなかった娘の文字だった。 「お母さん。私は幽霊じゃないよ」 雪の日に止まった母の時間が、沈黙を破るその一文から再び動き出す――。真実|真相|行方不明8.8千字5 1 -
完結第7話
消えた子役の日記帳
昭和60年、京都郊外の人気時代劇撮影所で、7歳の子役・中村翔太が突然姿を消した。 撮影直前、「トイレに行ってくるね」と母の手を離れた翔太。だが数分後、トイレ前に残されていたのは、片方だけの白いズック靴だった。大勢のスタッフや俳優がいる撮影所の中で、子どもは煙のように消えた。 母・道子は息子の名を叫び続けたが、翔太は見つからない。現場では人気監督の黒木が誰よりも熱心に捜索を指揮し、世間からは“子役を思う温かい監督”として称賛された。 しかし、撮影所の片隅では、いくつもの小さな違和感が残されていた。 倉庫の方へ向かう黒木監督の姿。子どもの泣き声を聞いた新人照明係。夜中に土のついた作業着とスコップを隠す監督を見た警備員。 けれど証言は消され、関係者は口を閉ざし、事件は単なる失踪として扱われていく。 それから15年後。 亡き母の遺品整理中に見つかった、翔太の小さな絵日記帳。最後のページには、7歳の子どもが震える手で残した“ある一文”が書かれていた。 その日記帳が、15年間コンクリートの下に埋められていた真実を、ついに世の中へ引きずり出す――。ミステリー|行方不明10.0千字5 0 -
完結第4話
40人前の逆襲
年末の親族会。 佐々木はるみは、四十人もの親族が見守る前で、息子夫婦から突然「出て行ってくれ」と告げられる。 長年、息子の事業資金、孫の学費、マイホーム購入費まで支えてきたはるみ。だが嫁の真奈美は、偽造された診断書や金銭トラブルの書類を並べ、はるみを“迷惑な母親”に仕立て上げていた。 親族たちの冷たい視線。 息子の非情な言葉。 追い詰められたはるみは、泣き崩れることなく静かに立ち上がる。 「わかりました。では、お望み通りに出て行きます」 誰もが、彼女が全てを失ったと思っていた。 しかし三日後、息子夫婦のもとに弁護士から一通の通知が届く。そこに記されていたのは、家の名義、過去の援助金、そして二人が隠していた嘘をすべて覆す決定的な事実だった。 親族四十人の前で追放された母が、静かに取り戻したものとは――。行方不明6.5千字5 0 -
完結第5話
崖下で眠っていた三年
1992年、群馬県の山奥にあるペンションで、2組の夫婦が夏休みを過ごしていた。 台風の豪雨が山道を塞ぎ、外界から切り離された夜。 酒を飲み、笑い合い、何事もなく眠ったはずの4人だったが、翌朝、妻・ユミと友人の夫・ケンジだけが姿を消していた。 残された夫・たかしと、ケンジの妻・稽古。 部屋には争った跡もなく、財布や荷物の一部も消えていたことから、警察は2人が不倫関係の末に駆け落ちした可能性を疑う。 世間の噂に傷つきながら、残された2人は“裏切られた被害者”として3年間を過ごした。 しかし1995年、ペンションから4キロ離れた崖の下で、錆びついた車が発見される。 車内には白骨化した2人の遺体。 さらにギアはニュートラル、エンジンは切られ、頭蓋骨には鈍器で殴られた痕跡が残っていた。 逃避行ではなかった。 2人は、あの台風の夜に殺されていた。 豪雨がすべてを隠したペンションで、本当は何が起きていたのか――。遺體発見|行方不明7.9千字5 5 -
完結第7話
奥日光の白い菊
1995年秋、東京の女子大学に通う4人の女子大生が、紅葉を見るため奥日光へ向かった。 中禅寺湖で笑い合い、民宿で一夜を過ごし、翌朝「竜頭ノ滝へ行く」と言って出発した4人。だがその後、彼女たちは誰一人として戻らなかった。 駐車場に残された車。岩の隙間に落ちていた片方のスニーカー。そして使い捨てカメラの最後の写真に写り込んでいた、ぼやけた男の影。 警察は捜索を続けるが、4人の行方も、写真に写った男の正体も分からないまま、事件は迷宮入りしていく。 しかし4年後、渓谷に白い菊を供えた一人の女性が、警察署を訪れる。 彼女は言った。 「私は、あの日失踪した4人のうちの1人です」 紅葉の山で何が起きたのか。 なぜ彼女だけが生き残ったのか。 そして、彼女たちの背後にいた男は何者だったのか。 30年経っても消えない、奥日光の渓谷に残された沈黙の真実。ミステリー|真相|行方不明1.0萬字5 0 -
完結第6話
水亀の下に消えた嫁
1993年春、東京・杉並の古い瓦屋根の家で、東京大学出身の若い嫁・斉藤さゆりが突然姿を消した。 妊娠中だった彼女のコートも財布も靴も、家には残されたまま。夫が出張から戻ると、姑のふみは静かにこう告げた。 「昨日の夜、荷物をまとめて出て行った」 だが、さゆりが家出をする理由はどこにもなかった。実家の母は「娘は絶対に自分から消えたりしない」と訴え、友人の手元には、さゆりが失踪前に残した不穏な手紙があった。 そこに書かれていたのは、妊娠をきっかけに変わっていった姑の態度、赤ん坊への異常な執着、そして「何かあったら」という言葉。 それでも決定的な証拠は見つからず、事件は長い間、失踪として処理されてしまう。 しかし13年後、杉並警察署に差出人不明の手紙が届く。 「古い水亀の下を掘ってみてください」 すでに取り壊された家の跡地。かつて庭だった場所から掘り起こされたものが、13年間隠されてきた家族の嘘を暴き出す。 嫁は本当に家を出たのか。 姑は何を守ろうとしたのか。 そして、匿名の手紙を送った人物は誰だったのか。 春の庭に埋められていたのは、遺骨だけではなかった――。行方不明8.6千字5 0 -
完結第7話
味噌かめの下に眠った七年
1997年、埼玉県川越市の高級住宅街で、不動産資産家の老人・鈴木製造が忽然と姿を消した。 家族は「認知症が悪化し、遠方の介護施設に入った」と説明し、警察も事件性は低いとして失踪処理を行った。 しかし、それから7年後。 川越税務署の職員が、ある不可解な記録に気づく。 失踪宣告を受けたはずの老人名義の固定資産税が、毎年きっちり納付されていたのだ。 しかも支払っていたのは、老人の嫁・両子。 さらに調べると、老人が失踪した後の日付で、不動産の名義変更書類に本人の実印が押されていた。 再捜査に動いた警察がたどり着いたのは、かつて鈴木家の庭に置かれていた不気味な味噌かめ。 その下から掘り起こされたものが、7年間守られてきた嫁の嘘を一瞬で崩していく。 財産、世間体、15年分の恨み。 静かな高級住宅街の塀の内側で、本当は何が起きていたのか――。行方不明|孤獨|第二の人生9.9千字5 1 -
完結第6話
90件の着信とハワイの海
68歳の長沼クミは、息子夫婦に頼まれて始めた同居生活の中で、10年間、家事も育児も支え続けてきた。 孫の世話、食事の支度、掃除、洗濯。感謝されることは少なくなっても、「家族のため」と思い、黙って尽くしてきた。だがある夜、夕食後のリビングで息子夫婦は静かに告げる。 「これまで10年間、お疲れ様でした」 そして、来月末までに家を出てほしいと言い渡された。 息子夫婦は知らなかった。クミがすでに3年前から、自分が邪魔者扱いされていることに気づいていたことを。そして、その日のために密かに準備を進めていたことを。 翌朝、家に現れたのは引っ越し業者。驚く息子夫婦を前に、クミはわずかな荷物だけを運び出し、何も求めず、何も残さず、家を去っていく。 行き先は、誰にも教えなかった。 それから1ヶ月後。 青い海を望むハワイで新しい人生を楽しむクミのスマートフォンに、息子からの着信が鳴り続ける。 その数、90件。 家事も育児も仕事も回らなくなった息子夫婦が、ようやく気づいたものとは何だったのか。 そしてクミが最後に告げた、静かな決別の言葉とは――。行方不明9.4千字5 3