"別室で食べてと言われた母" 第2話
その夜、客できりの夕を終えた私は、箸を置いたまましばらくけなかった。
リビングから聞こえてくる笑い声が、い壁越しにへ届く。
私は目を閉じた。
すると、の正の来事が鮮によみがえった。
あれが最初だったのかもしれない。
を迎えた朝、私は何もから仕込んでいたおせち料理を箱に詰めていた。
黒豆、田作り、昆布巻き、栗きんとん。
ホテル代に学んだ技術と、がのを組みわせた自信作だった。
みんなで卓を囲み、私は久しぶりに族が揃ったびをじていた。
そのだった。
真美さんが煮物をに運び、さく眉をひそめた。
「お母さんのおせち、ちょっとが濃いですね」
瞬、空気が止まった。
私は笑顔を崩さないように答えた。
「そうかしら?昔からこのなのよ」
しかし真美さんは納得しなかった。
「最はが健康って言いますし。私たち世代にはしいかもしれません」
その横で匠も頷いた。
「確かに母さんの料理って昔ながらだよね」
私は黙った。
料理としての誇りが傷つかなかったと言えば嘘になる。
だが私は自分に言い聞かせた。
若いには若いの覚がある。
そううしかなかった。
しかし、それは始まりに過ぎなかった。
半。
私はいつものようにキッチンで料理のごしらえをしていた。
広告
すると真美さんがやってきて、申し訳なさそうな顔をした。
「お母さん、キッチンなんですけど……」
私は包丁を置いて振り向いた。
「どうしたの?」
「なるべく使わないでいただけますか?」
瞬、が理解できなかった。
「え?」
「せっかくしくしたキッチンなので。汚されたくなくて」
私は言葉を失った。
、流ホテルの厨を任されてきたが。
管理を徹底してきたが。
キッチンを汚す扱いされたのだ。
「でも、みんなに料理を作りたいし……」
私が言いかけると、真美さんはすぐに遮った。
「丈夫です。私が作りますから」
その、匠もろから現れた。
「母さん、せっかくなんだから休みなよ」
私は何も言えなかった。
休めと言われながら。
実際には必ないと言われている。
そんな気がした。
そのから私はしずつキッチンからざけられていった。
料理だけではない。
居所そのものがしずつ削られていったのだ。
そして私は気づかないふりをしながら。
ただ耐え続けていた。
なぜなら私はまだ族だとっていたからだった。
キッチンからざけられた。
次に私が失ったのはリビングだった。
あるの午。
私は美緒と緒にテレビを見ていた。
美緒はまだ学だった。
学であった来事を楽しそうに話してくれる。
そのだけが私の救いだった。
広告
ところが。
真美さんがリビングへ入ってくるなり言った。
「お母さん、リビングなんですが……」
私は嫌な予を覚えた。
「何かあった?」
「できれば客にいていただけますか?」
私はを疑った。
「どうして?」
真美さんはし困ったような顔をした。
しかしその調ははっきりしていた。
「お客様を呼ぶこともありますし」
私はわず聞いた。
「でも美緒と遊びたいし」
すると真美さんはため息をついた。
「最の育児では祖父母との距も事なんです」
そのだった。
匠までをいた。
「母さん、マミの言う通りだよ」
私は驚いて息子を見た。
「匠まで?」
「今は昔と違うんだよ」
その言葉はたかった。
私は何も言えなくなった。
それ以来。
私はへっても客で過ごすことが増えた。
リビングではなく客。
族の輪の側。
いつのにかそれが当たりになっていた。
それでも私は通い続けた。
美緒に会いたかったからだ。
美緒だけは変わらなかった。
「おばあちゃん、来てくれて嬉しい」
そう言って抱きついてくれる。
その温もりだけが私を支えていた。
しかし。
真美さんはさらに追い打ちをかけてきた。
「お母さんの料理はもう結構です」
その言葉を聞いた。
私は本気でを疑った。
「どういう?」
「面が配なんです」
私はちがった。
「私が?」
「齢にも配ですし」
。
厨にち続けた私に対する言葉だった。
そのにいた匠も私をかばわなかった。
「母さん、あまりを張らないで」
広告
おすすめ作品
-
完結第14話
私の退職金を奪った家族に、私は何も言わず家を出た
妊娠中の麻衣が13年間勤めた会社を退職すると、夫の竜太は退職金420万円を無断で義母の口座へ送金した。「嫁の金は家のために使うもの」と言う義母。返金を求めた麻衣に、夫は「文句があるなら出ていけ」と告げる。 麻衣は実家へ戻り、保存していた送金記録を持って弁護士に相談する。返還を求められた義母は「預かっただけ」と主張するが、自ら提出した口座明細には、夫の奨学金を返すために動かした60万円の記録が残っていた。 420万円を取り戻しても、麻衣は壊れた信頼まで元に戻ったとは思えなかった。離婚後、娘を産み、かつての職場へ復帰する。誰に許可を求めることもなく、自分で稼いだお金の使い道を、自分の手帳に書き込んでいく。嫁姑|夫婦|金銭問題2.2万字5 421 -
完結第15話
18年間閉ざされた納屋
31歳の美咲は、博士課程を修了したその日、18年間会えずにいた兄・直のことを確かめるため実家へ向かった。両親からはずっと「兄は施設で暮らしている」「会えば不安定になる」と聞かされ、施設名も住所も教えられていなかった。ところが帰り道、近所の女性から思いがけない一言を聞く。「直君、まだ裏の納屋にいるんだと思ってた」。実家へ駆け戻ると、古い納屋の扉には外側から2つの南京錠。窓は布で覆われ、食器と電気コードには最近まで使われた痕跡が残っていた。そして美咲が「お兄ちゃん」と呼びかけると、扉の向こうから2度、確かな音が返ってきた。18年間、両親は何を隠してきたのか――。兄弟姉妹|親子関係2.2万字5 410 -
完結第15話
妊娠中の娘が逃げ帰った夜、大富豪の母が動いた
妊娠8か月の娘・はるかが、顔に傷を負い、母エリコの家へ逃げ帰ってきた。病院では新しい肋骨の骨折に加え、以前の骨折痕も見つかる。夫・匠による暴力は、一度きりではなかった。 匠は巨大企業グループの創業家の一員。だがエリコはその地位にひるまず、娘の安全を確保し、診断書を残す。同時に信頼する会計士へ調査を頼むと、匠一家が関わる財団に巨額の不正な資金移動の疑いが浮かび上がった。 報道を受けても疑惑を否定し続けた匠は、緊急会見の最中、はるかへの傷害容疑で逮捕される。さらにグループの資金問題にも捜査が及び、権力を盾にしてきた一族は追い詰められていく。 母の行動が事態を動かす一方、すべての始まりにあったのは、はるかが自分とお腹の子を守るため、あの家から逃げ出した決断だった。因果応報|人生逆転|嫁姑|絶縁|親子関係|修羅場2.3万字5 1226 -
完結第12話
入院中、母が勝手に老人ホームへ送られていた
交通事故で一週間入院した菜緒は、母・春江と連絡が取れないことを夫・健太に訴える。しかし健太は「元気にしている」と嘘を重ね、退院後に実家へ向かうと、母は姿を消し、家財や通帳、土地の権利証まで段ボールに詰められていた。 健太は、足の悪い春江に「娘は長期入院し、家も売る」と吹き込み、無断で老人ホームへ入れていた。目的は実家を売却し、残金を自分たちの生活に使うことだった。施設の隅で「娘に捨てられた」と泣く母を見つけた菜緒は、虚偽による入居契約の無効を主張し、その場から母を連れ帰る。 菜緒は直ちに、八年間続けてきた義父母への月十五万円の送金と家族カードを停止し、自分名義の定期預金三百五十万円も安全な口座へ移す怒り|夫婦|親不孝|金銭問題|修羅場1.7万字5 510 -
完結第17話
母に追い出された私が、介護を手放すまで
三年間、要介護の母・一枝の家事と介護を一人で背負ってきた由美子は、「大好きな長男夫婦と暮らすから出ていけ」と追い出される。彼女は反論せず、通院、服薬、食事、排泄介助まで記した冷蔵庫の予定表だけを外し、新しい生活へ踏み出した。 由美子が消えると、兄・秀樹夫婦は介護の重さと毎月約九万円の費用に直面する。さらに秀樹が母の定期預金三百万円を、不倫相手への手切れ金として使い込んでいた事実も判明。義姉マリは耐えきれず家を出て、秀樹は汚物の処理すらできないまま妹へ泣きつく。 しかし由美子は、母と兄の身勝手な要求を拒み、実家からの電話を着信拒否にする。兄弟姉妹|親不孝|裡の顔|介護2.6万字5 583 -
完結第11話
棺の中で眠る娘と、吠え続けた秋田犬
秋田の豪雪地帯で、七歳の少女・雪の葬儀が営まれていた。ところが愛犬ハチだけは棺に向かって激しく吠え、畳を掻き続ける。周囲が狂犬扱いする中、前妻であり元救命看護師の静子は、棺の内側から聞こえる微かな音と、雪の指先の動きを見逃さなかった。 静子が葬儀を止めて棺を開けると、雪には脈と呼吸が残っていた。静子は的確な応急処置を行い、雪はついに「お母さん」と声を発する。無力だと見下していた静子に娘を救われ、後妻エミリーと父・健一は言葉を失う。 しかし、奇跡の生還で物語は終わらない。救急搬送される娘に付き添いながら、静子は「なぜ雪が猛吹雪の夜、裏山へ出たのか」という疑念を抱く。人生逆転|真実|真相|親子関係1.6万字5 702 -
完結第11話
父の葬儀を捨てた夫へ、亡き父が遺した最後の証拠
父の葬儀の読経中、夫のスマホが3度震えた。 「会社で緊急のトラブルがあった」 そう言って席を立った夫は、私の父を見送ることなく姿を消した。 喪主だった私は、何も言えず一人で最後まで葬儀を終えた。 その夜、冷たい家に戻ると、午前2時57分―― 亡くなったはずの父の名前から、メッセージが届いた。 「誰にも言わず、母さんの墓へ行きなさい」 半信半疑で向かった先で、父が残していたものを見つけた。 そこに入っていたのは、夫の知られざる裏切りと、私を守るための証拠だった。 そして私は初めて知った。 父は最後の日まで、私の人生を守ろうとしていたのだ。夫婦|親子関係|修羅場|不倫1.6万字5 480 -
完結第13話
義母に逆らった妻を閉じ込めた夫が、翌朝失ったもの
義母への仕送りを断った夜、菜緒は夫の浩司にトイレへ閉じ込められた。冷たい床で朝を待ちながら姉に助けを求め、夫の発言を録音する。翌朝、姉たちが迎えに来ると、菜緒は「もうこの家には戻らない」と告げた。 避難先で菜緒が止めたのは、義母と義弟への毎月の送金、そして夫に渡していた家族カード。さらに、夫が口走った「部屋の件」を確かめると、菜緒が独身時代に買ったマンションへ、本人に無断で義弟夫婦を住まわせる話が進んでいた。 すでに置かれた荷物を見つけた菜緒は室内を記録し、玄関の鍵を交換する。義母からの抗議にも、援助と部屋の使用を断る意思を伝えた。閉じ込められた夜に握っていたスマートフォンから、菜緒は自分の暮らしを守るために動き始める。嫁姑|絶縁|親子関係|修羅場2.0万字5 1708 -
完結第13話
毎月7000円を隠していた夫の20年の秘密
昭和48年、給料が銀行振込に変わった日、文子は夫・昭雄の給料が、毎月受け取っていた額より7000円多いことに気づく。家計簿を遡ると、その差は十年以上も続いていた。 やがて夫の上着から見つかったのは、静岡に住む「山本和子」への振込控え。昭雄は、その女性へ約20年間送金していたことを認めるが、理由を話そうとしない。 夫婦で築いてきた暮らしの裏に、何があったのか。文子は昭雄の言葉を待つのをやめ、和子に直接会いに行くことを決める。時代|歴史|昭和|金銭問題1.9万字5 250 -
完結第14話
薬を忘れて戻ると、「歩けない」夫が立っていた
腰の手術後、「一人では歩けない」と訴える夫・健太を介護し、毎週末義実家まで送り続けていた佐織。ところが薬を届けるため引き返すと、健太は電話で「嫁は帰った」と告げ、車椅子から何事もなかったように立ち上がった。 夫を尾行した佐織が目にしたのは、金融業者が入る雑居ビルへ元気に歩いて入る姿だった。病院で確認すると、健太は3週間前から自由歩行を許可されており、痛みを誇張して休職を延長していたことも判明する。 さらに健太は450万円の連帯保証債務を抱え、借金返済のため、休職中に会社の機密情報流出へ関わっていた。義母も息子が歩ける事実を隠し、佐織を無給の介護役兼運転手として利用していたのだ。 佐織は夫を庇わず、記録と証拠を会社や弁護士へ提出し、離婚と財産保全の手続きを進める。嘘の車椅子から立ち上がった夫が社会的信用を失う一方、佐織が誰かを背負う生活を終え、自分の足で新しい人生を歩き始める再生物語。夫婦|介護|金銭問題|不倫2.1万字5 476