"樹海の白いマスク" 第1話
2007726の朝、青ヶ原の捜索隊が島を発見した、最初にその姿を見た者たちは、誰もが息を呑んだ。
巨な杉の幹に、若い女性が縛りつけられていた。
首と首にはロープがい込み、体は力なく垂れていた。は胸の方へ落ち、髪は汗とで乱れている。目には、すでに命が尽きているように見えた。
「がいる!」
先を歩いていたレンジャーの瀬優太が叫び、の根を踏み越えて駆け寄った。背にいた隊員たちも、枝をかき分けながら急いで続いた。
瀬は女性の首元に震える指を当てた。
瞬、周囲の音が消えたようにじた。
森は濃く、湿っていた。青ヶ原特のい静けさが、捜索隊の呼吸だけを浮きがらせていた。
「脈があります」
瀬の声がかすれた。
「きています。救急を急いでください」
その言葉で、隊員たちは斉にきした。ロープを切る者、担架を準備する者、無線で救急隊に連絡する者。全員が慎だった。しでも乱暴に触れれば、彼女の体が壊れてしまいそうに見えたからだ。
女性は島、28歳。京学病院で護師として働く女性だった。
10の716、は富士麓の登を1で歩いていた途で方になっていた。警察、レンジャー、ボランティア、救助犬、ヘリコプターが森を捜した。それでも、彼女の痕跡は何も見つからなかった。
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だが彼女は、そのずっと森のにいた。
メインの登から約3kmれた、の目が届かない所にいた。
やがてロープがされ、は担架に乗せられた。救急隊員が毛布をかけると、彼女のまぶたがわずかに震えた。
瀬が顔をづけた。
「島さん、聞こえますか。もう丈夫です」
は乾ききった唇をわずかにいた。
目の焦点はっていなかった。それでも、何かを伝えようとしていた。
「……マスク」
かすれた声だった。
その言だけを残し、は再び識を失った。
救急隊員たちは、病院までの45分、彼女の命をつなぐために必で処置を続けた。拍はく、規則で、いつ止まってもおかしくなかった。
その朝、捜索隊が見つけたのは、ただの方者ではなかった。
10、森の奥で像を絶する恐怖に晒され続けた女性だった。
そして、彼女が最ににした「マスク」という言葉が、この事件のすべてを気な方向へ導いていくことになる。
物語は2007716、京の暑い朝から始まった。
島は、京学病院で護師として働いていた。勤務は過酷だった。12のシフト、夜勤、急変する患者への対応、族への説、鳴り止まないナースコール。毎が緊張の連続だった。
は責任のい女性だった。患者のでは笑顔を崩さず、同僚にも音を吐かない。
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けれど、体とには確実に疲れが溜まっていた。
ようやく取れた2週の休暇。
は、自然ので過ごすことに決めた。
都会かられたい。病院かられたい。の声かられたい。自分の呼吸だけを聞ける所にきたい。
10代の頃から登が好きだったにとって、はをえる所だった。普段は友たちと緒にくことがかったが、今回は1でくと決めていた。
き先に選んだのは、梨県の富士麓に広がる青ヶ原周辺の森だった。
青ヶ原はとしてられている。864の富士噴によって流れた溶岩のに育った、面積約35平方kmのい森。々は密集し、昼でも暗い所がい。元は溶岩と根に覆われ、しをれれば方向覚を失いやすい。
暗い評判もあった。
々が自ら命を絶つために訪れる所。毎のように遺体が発見される森。
しかし方で、その野な美しさ、古い、富士とを望む景に惹かれ、くの観客や登者も訪れていた。
が計画したのは、森の側を通る程度の難易度のルートだった。距は約25km。3を定し、周辺から森を抜け、富士麓へ向かい、とを見渡せる展望台で折り返す予定だった。
716の朝、はホンダ・フィットの部座席にリュックを積んだ。
テント、寝袋、携帯用コンロ、料、、救急用品、ホイッスル、予備バッテリー、GPSナビゲーター。装備はっていた。
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