"トランクの中の9年" 第1話
9、父親は同じことを言い続けた。
息子は、公園で突然消えたのだと。
誰もが、最初はその話を信じた。5歳の子どもが、ほんの瞬の隙に遊びから姿を消した。そう考えるしかなかったからだ。
けれど真実は、ずっと別の所にあった。
古いのトランクの。
あせたぬいぐるみの隣で、9、静かに隠されていた。
2015、熊本。
そのは、何か悪いことが起こるとはえないの朝だった。空気は澄み、太陽は柔らかく、の葉は黄と赤に染まり始めていた。
岡田悟は、平凡な会社員だった。普段は仕事に追われ、休も疲れて眠ることがかった。けれどそのは、珍しく丸を5歳の息子、匠のために使うと決めていた。
匠は好奇旺盛な子どもだった。ることが好きで、砂が好きで、何よりも片がし擦り切れたミッキーマウスのぬいぐるみを切にしていた。現実の遊びでも、空の冒険でも、そのぬいぐるみはいつも匠の相棒だった。
「今は公園にこう」
悟がそう言うと、匠は目を輝かせた。さなで父のを握り、もう片方の腕でミッキーマウスを抱きしめた。
2は見慣れたを歩いた。匠は、今どれほどきな砂のを作るかを、途切れることなく話し続けた。悟はその横で、々うなずきながら微笑んでいた。
から見れば、どこにでもいる仲の良い父と息子だった。
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昼、2は熊本央公園に着いた。公園にはそれほどはくなかった。ベンチには、幼い子どもを連れた母親が数座っているだけだった。
匠はすぐに砂へ駆けていった。悟は、息子の姿がよく見えるベンチに腰をろし、持ってきたジュースと軽を袋から取りした。
匠は青いスコップでに砂を掘っていた。々顔をげ、父に向かって笑った。
すべては穏やかだった。
に警察で、悟はこの面を何度も繰り返して話すことになる。
「ほんの瞬、目をしただけでした」
携帯話に通が来たのかもしれない。
い差しで、し目を閉じたのかもしれない。
何に気を取られたのか、悟は正確には覚えていないと言った。ただ、1分も経っていなかったと主張した。
そして再び顔をげた、砂は空だった。
匠の姿はなかった。
悟は最初、刻には考えなかった。
匠がのに隠れたのかもしれない。遊具の向こう側にっていったのかもしれない。5歳の子どもなら、父を驚かせようとして隠れることもある。
悟はちがり、砂へづいた。
「匠」
返事はなかった。
もう度、きな声で呼んだ。
「匠!」
聞こえてきたのは、の葉が揺れる音と、くで遊ぶの子どもたちの笑い声だけだった。
その瞬、悟の胸がくねた。
彼は遊び全体を探し回った。
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のろをのぞき、ベンチのを見て、ブランコの周りをった。公園にいた母親たちにづき、息を切らしながら尋ねた。
「ミッキーマウスのぬいぐるみを持った、さな男の子を見ませんでしたか」
誰も見ていなかった。
誰も、匠が公園をる姿に気づいていなかった。
まるで、子どもが空気に溶けたかのようだった。
が過ぎるにつれ、悟の声はかすれていった。公園の端から端までり、何度も名を呼んだ。15分、自分だけではどうにもならないと悟り、震えるで警察に話をかけた。
「5歳の息子が、今、公園で消えました。名は岡田匠です」
最初のパトカーはすぐに到着した。
警察官が見たのは、顔面蒼で、まともに話せないほど取り乱した父親だった。悟は同じ説を繰り返した。
ほんの瞬、気を取られた。
息子は砂にいた。
顔をげたには、もういなかった。
警察は公園を封鎖した。犬を連れた警察官、捜索隊、そしてニュースを聞いて駆けつけた民のボランティアが加わった。
彼らは茂みのを調べ、公園の隅々まで歩き、周辺も確認した。警察犬は砂で匠の匂いを拾ったが、アスファルトのにると、無数の匂いに混ざり、すぐに追跡は途切れた。
事件当、公園にいた々への聞き込みもわれた。
しかし、結果は期待れだった。
匠が1でる姿を見た者はいなかった。
怪しい物に気づいた者もいなかった。
くの建物の防犯カメラには、悟と匠が公園に入る姿は映っていた。
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