"飲んではいけないお茶" 第11話
自分の母親が殺されかけていることにも気づかなかった。そして何より、自分のたった1の息子が8も獄をわっていることに、目もくれなかった。あなたは夫としても、息子としても、父親としても失格です」
健は何度も首を振った。
「違うんだ、母さん。俺は、匠が本当に病気なんだと信じて……」
「見ようとしなかっただけでしょう」
佐子はたく遮った。
「妻の言うことを鵜呑みにし、息子と向きうことから逃げた。仕事を言い訳に、庭で起きている異常から目を背けていた。それが楽だったから」
健は返す言葉を失った。
「匠の親権は、私が持ちます。すでに庭裁判所に申してています。あなたに会いたいかどうかを決めるのは、私ではなく匠自です」
「俺は……母さんに捨てられるのか」
その言葉に、佐子は瞬だけを止めた。
そして振り返らずに答えた。
「族とは、血のつながりだけで決まるものではありません。互いをいやり、守りうものです。あなたはそのどちらもしてこなかった。これからあなたがどうきるか。それを見て、私があなたを再び息子と呼べるが来るかどうか、判断させてもらいます」
季節は巡り、あのの事件から1が過ぎた。
ゆかりには無期懲役の判決がり、共犯の坂本には懲役20が言い渡された。15に殺害された総郎にも、ようやく本当の報告をすることができた。
広告
正義は遅れた。
だが、確かに果たされた。
匠はしいを歩み始めていた。教授のカウンセリングと、佐子の揺るぎないに支えられ、彼は驚くほどの速さで本来の自分を取り戻していった。
元のさな私学に転入した匠は、その聡さと齢相応の優しさで、すぐにクラスに溶け込んだ。特にになったのはサッカーだった。
初めての練習試で匠がゴールを決めた、チームメイトにもみくちゃにされながら照れくさそうに笑う孫を見て、佐子は目もはばからず涙を流した。
失われたは戻らない。
だが、これから築いていく未来は無限に広がっている。
健もまた、自分自の戦いを始めていた。
佐子に突きされた、彼は本当にカウンセリングへ通い始めた。、父である総郎から受けたプレッシャーと、妻ゆかりからの巧妙なマインドコントロール。そのの呪縛ので、自分がどれほど自己を失っていたかを、しずつ理解し始めていた。
3ヶが過ぎた頃、健から「匠に会わせてほしい」と連絡があった。
佐子は、その判断を匠に委ねた。
「会ってみる」
匠はし迷った、そう答えた。
「父さんが本当に変わったのか、この目で見たいから」
最初の面会は、佐子ののリビングでわれた。ぎこちない沈黙の、健は何度も匠に謝った。
広告
「本当にすまなかった。父さんは、最の父親だった」
匠は黙って聞いていた。
そして最に、ぽつりと言った。
「謝ってほしいんじゃない。ただ、もう2度と僕から目をそらさないでほしい」
その言葉は、健の胸にく突き刺さったようだった。
あるれたの、佐子は匠と2で、のくの岸を散歩していた。
「おばあちゃん」
寄せては返す波を見ながら、匠が言った。
「僕、今すごく幸せだよ」
佐子は匠の隣にしゃがみ、その顔を覗き込んだ。
「おばあちゃんもよ。匠ちゃんが毎笑ってくれている。それだけで、おばあちゃんは世界の幸せ者よ」
「でも、変だったでしょう。僕のこととか、父さんのこととか」
「変だったわね」
佐子は正直に認め、ふわりと笑った。
「でもね、、本当に守りたいものができた、びっくりするくらいくなれるものなのよ」
匠が佐子の首にぎゅっと抱きついた。
「ありがとう、おばあちゃん。僕を守ってくれて」
「いいえ。おばあちゃんの方こそ、ありがとう。あなたがあの、勇気をしてくれなかったら、今頃、私たち2ともこの世にいなかったのだから」
2は、夕に染まるをいつまでも見つめていた。
柏佐子、73歳。
その顔に刻まれたしわの1本1本が、壮絶な戦いを乗り越えてきた証として、今は誇らしく輝いて見えた。
これは終わりではない。
絶望の縁からいがった祖母と孫の、しいの始まりだった。
夜けのは、こんなにも温かく、力い。
佐子は匠のをく握りしめ、へと続く砂浜を、ゆっくりと歩き始めた。
― 完 ―
広告
おすすめ作品
-
完結第12話
捨てられた夏の肖像
次女・夏が生まれた日、夫は赤ん坊の顔を見るなり言い放った。 「この子は俺の子じゃない」 長女は夫にそっくりなのに、次女はまったく似ていない。たったそれだけの理由で、私は浮気を疑われ、DNA鑑定で親子関係が証明されても、夫と義母は夏を認めようとしなかった。 そして私は、生まれたばかりの次女だけを連れて家を追い出される。 残された長女には会えないまま、10年が過ぎた。 ところがある日、成長した夏とショッピングモールを歩いていた私は、夫と義母、そして長女と偶然再会する。 そこで彼らは、夏の姿を見て言葉を失った。 10年前、「他所の子」と罵られた次女には、彼らが知らない大きな秘密があった――。因果応報|人生逆転1.8萬字5 30 -
完結第13話
青いチョーク
63歳の田中澄江は、夫を亡くしてから2年間、午後4時になると必ず家を出るようになっていた。 夕方の光が差し込む居間には、亡き夫の湯呑みと、言葉にできない寂しさだけが残っていた。そんなある日、取り壊し前の小学校の前で、澄江は一本の青いチョークを拾う。 何気なく引いた一本の線。灰色の壁に描いた小さな青い四角。 それはただの落書きのはずだった。けれど、その壁に一人の少年が現れ、やがて子どもたちや町の人々が少しずつ色を足していく。 消えては描かれ、また雨に流されるチョークの絵。 夫を失った悲しみの中で止まっていた澄江の午後4時は、いつしか少しずつ違う色を持ち始める。 一本の青いチョークが、空白になった人生に静かな線を引いていく物語。人生逆転1.9萬字5 51 -
完結第10話
形見を捨てた嫁の代償
妻の三回忌の日、68歳の竹内正男は、久しぶりに帰ってくる息子一家のため、亡き妻がよく作っていた煮物と甘い卵焼きを用意していた。 孫に妻の思い出を伝えようと、正男は40年間大切に使われてきた花柄のエプロンを見せる。それは妻が家族のために台所に立ち続けた証であり、正男にとって何より大切な形見だった。 しかし嫁の彩花は、そのエプロンを何のためらいもなくゴミ袋へ放り込む。 「古いものは整理した方がいいですよ」 その一言で、正男の中の何かが静かに崩れた。 ところがその後、彩花は仏壇の横に置かれた一通の封筒を見つける。そこに書かれていたのは、マンション2棟と預金3000万円、そして遺言書という文字。 次の瞬間、さっきまでゴミ扱いしていた形見を、嫁は突然「大切にします」と言い出した。 形見の本当の価値は、金で測れるものなのか。 亡き妻が残したエプロンをめぐり、家族の本音が静かに暴かれていく。親不孝|親子関係1.5萬字5 1314 -
完結第12話
タダ宿の代償
64歳の佐々木敦子のもとに、久しぶりに長男・大輔から電話がかかってきた。 連休に家族で帰ってくるという話に、最初は孫に会える喜びを感じた敦子。だが大輔は、当然のようにこう言った。 「母さんの家に泊まるから。ホテル代もかからないし」 しかも泊まりに来るのは、息子一家だけではなかった。嫁の両親、妹夫婦、友人夫婦まで含めた総勢10人。食事、布団、タオル、駐車場、留守番まで、敦子の家はいつの間にか“無料の宿”として扱われていた。 それでも家族のためならと我慢しかけた敦子だったが、旅行の三日前、切れていなかった電話の向こうから、息子夫婦の本音を聞いてしまう。 「母さんの家使えばタダじゃん」 「お母さんってちょろいよね」 その瞬間、敦子の中で何かが静かに切れた。 この家は、3500万円を出して自分が買った家。誰かが当然のように使っていい場所ではない。 翌日、敦子は弁護士へ相談し、玄関の鍵を替える。 そして連休当日。何も知らずに10人で家の前へやって来た息子夫婦を待っていたのは、もう開かない玄関だった――。親不孝|親子関係1.9萬字5 2945 -
完結第14話
身代わり妻の逆転帰還
夫の代わりに罪を被り、2年間刑務所で耐え続けた佐藤由美。 亡き父が残した会社を守るため、そして夫・健一を信じるために、彼女はすべてを背負った。だが出所の日、ようやく帰った家で待っていたのは、姑の平手打ちと、夫から投げつけられた離婚届、そして若い愛人の勝ち誇った笑みだった。 「前科者のくせに、まだうちの息子と暮らす気なの?」 すべてを失ったように見えた由美は、泣き崩れることなく、ただ一本の電話をかける。 刑務所で出会った一人の女性。亡き父が残していた最後の言葉。仏壇の下に隠されたUSBメモリ。 2年前の事件は、本当に由美の罪だったのか。 翌日から、夫と愛人、そして由美を切り捨てた家族の嘘が、静かに崩れ始める――。嫁姑|夫婦2.1萬字5 259 -
完結第10話
「子なし」離婚の大誤算
離婚届に署名した日、木村さゆのお腹には、まだ誰にも知られていない3か月の命があった。 夫・渡辺健二は初恋の女性との再婚に夢中で、離婚協議書には「婚姻中の子なし」と記されていた。さゆは妊娠を告げることなく、静かに名前を書き、夫の前から姿を消す。 それから10年。 さゆは一人で息子・陸を育てながら、写真館「時」を成功させ、母としても写真家としても自分の人生を築いていた。 しかし、陸の卒業式の日、思いがけず健二と再会する。 壇上で花束を渡す陸の顔を見た瞬間、健二は凍りついた。目元、鼻筋、横顔――そこには、10年前に自分が切り捨てたはずの結婚の答えがあった。 失われた10年は、金で取り戻せるのか。 父親を名乗る資格とは何か。 初恋を選んだ男が、初めて自分の過ちと向き合う時、さゆと陸が選ぶ未来とは――。人生逆転|夫婦1.5萬字5 158 -
完結第12話
午前3時の離婚届
午前3時17分。夫・俊介は帰ってこなかった。 その夜、日本へ戻ってきていたのは、夫の“初恋の女性”だと思っていた田中雪。彼女のSNSには、高層ホテルの夜景、二つのワイングラス、そして私が夫に贈ったはずの腕時計が写っていた。 3年間、木村家の嫁として髪も服も仕事も変え、良い妻になろうとしてきた私。けれど夫が本当に優しくしていた相手は、私ではなかったのかもしれない。 そう思った朝、私は義母に離婚届を差し出し、1億2000万円を受け取って家を出た。 だが数日後、夫は離婚届を握りしめ、泣きながら私を捜し始める。 初恋の女性、隠された写真、失くしたはずのブレスレット。 私たちの結婚は、本当に嘘から始まっていたのか――。嫁姑|不倫1.8萬字5 359 -
完結第11話
保険金つき同居
夫を亡くし、一人暮らしを続けていた70歳の渡辺みよ子。 息子夫婦から「もう一人で頑張らなくていい」と言われ、長年暮らした家を売り、その1500万円を新居の購入資金に充てて同居を始めた。 最初は、家族に囲まれた穏やかな老後が始まるはずだった。 しかし2ヶ月も経たないうちに、生活費の負担、食事の制限、通帳の管理要求……みよ子の居場所は少しずつ奪われていく。 そんなある日、ゴミの中から見つけたのは、自分を被保険者にした生命保険の書類だった。 そして深夜1時。 二階の寝室から聞こえてきた息子夫婦の会話で、みよ子はすべてを知る。 家族だと思っていた人たちは、いつから自分の老後ではなく、自分の財産を見ていたのか。 震える手で録音ボタンを押したその夜から、70歳の母の静かな反撃が始まった。人生逆転|親子関係1.7萬字5 338 -
完結第13話
冷えた雑煮の逆転正月
元日の夜、シンガポール出張から1日早く帰国した佐藤健一は、実家の食卓に妻・弓の席だけがないことに気づく。 暖かい居間では、母と弟が豪華なおせちを囲んで笑っていた。だが弓は、冷え切った台所の隅で、たった1人、冷たい雑煮をすすっていた。 15年間、夫の不在中に何が起きていたのか。 赤切れた手、擦り切れたカーディガン、使わせてもらえないお湯。そして、父が遺したはずの3000万円の預金に残されていた、不可解な出金記録。 健一は怒りを飲み込み、その場では何も言わなかった。 翌朝、妻を呼び出した彼は、ついに決断する。 だが金庫を開けた時、そこにあったのは消えた遺産だけではなかった。弓の名前が書かれた、覚えのない離婚届。そして母と弟が隠していた、さらに深い裏切りの証拠。 元日の冷たい台所から始まった夫婦の反撃は、やがて家族の嘘を一つずつ暴いていく――。嫁姑|夫婦1.9萬字5 3166 -
連載中第13話
20億追放妻の封筒逆転
斎藤グループ創業家の長男と結婚して5年。跡継ぎを望まれながらも子どもに恵まれず、結菜は義実家の視線に耐え続けていた。 そんなある日、夫の愛人が妊娠したことを知らされる。しかも相手の女性は双子を身ごもっていた。義父母は結菜に離婚合意書を差し出し、20億円と引き換えに日本を出るよう命じる。 家族だと思っていた場所から、金で追い出されることになった結菜。だが署名の直前、彼女は誰にも言えない“ある事実”を知る。 何も告げず海外へ渡った結菜と、愛人との結婚式を迎えようとする元夫。 すべてが斎藤家の思い通りに進むはずだったその日、式場に一通の封筒が届く。 そこに記されていた真実が、夫と愛人の未来、そして斎藤家の後継者計画を静かに崩していく――。因果応報|人生逆転|不倫2.0萬字5 2167