"百円玉の逆転" 第2話
私と奏には優しい言葉をかけた。けれど奏は、その表向きの優しさではなく、奥にある怖さを見ていた。
「あのお姉さん、本当は悪いじゃないよ。すぐにおを拾おうとしてたし、その、私にを伸ばしてくれてたし」
言われてみれば、ゆきさんは貯箱をぶちまけた直、無識にを伸ばしていた。貨を拾おうとしたきだった。目の縁も赤かった。泣いただとすれば、あの声の震えにも説がつく。
私は奏のを握り直した。
「そうだったのね。おばあちゃんには分からなかったけれど、奏には見えていたのね。お様より確かな目だわ」
奏は顔をげ、まっすぐ私を見た。
「あのお姉さんを助けてあげて」
その言葉を聞いた瞬、私はい記憶をいした。
40以、最初に勤めた会社でのことだった。カーボンの伝票が当たりだった代、私は司に言われるまま、取引先に無理な条件を突きつけた。
「なるべく圧な態度を取れ」
そう命じられ、私はその通りに演じてしまった。
そのの夕方、湯の隅で、声を殺して泣いた。
結局、私はその職を逃げるように辞めた。
あの、誰かに言ってほしかった。
あなたは悪くないのよ、と。
私は奏のたい指先を包み込んだ。
今度は、見過ごさない。
夫が残してくれたものが、まだ私にはある。
私は佐藤さんに相談することにした。
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夫のから世話になっている弁護士で、私のカフェ、ベアリバーの番の常連でもあるだった。
翌、私はベアリバーの奥の席で、佐藤さんに昨の来事を話していた。
佐藤さんはいつものようにコーヒーカップをにしていたが、目だけは弁護士のものになっていた。私が奏の言葉まで話し終えた、のドアが静かにいた。
入ってきたのは、昨の若い員だった。
ゆきさんだった。
いカーディガンを羽織った彼女は、の入でち止まり、くをげた。
「昨は、本当に申し訳ありませんでした」
声が詰まっていた。
泣きそうなのを必にこらえているのが分かった。
「昨から、あの子の泣いた顔がれなくて……。それに、あの子、帰るに私に『元気してね』って言ってくれたんです。私、そんなふうに言ってもらう資格なんてないのに」
彼女は震えるを胸ので握りしめた。
「あの、課が『カフェをご経営とのことですし』って言っていたのをいして、この辺りのカフェを検索しました。どうしても謝りたくて」
私は子を引いた。
「そうですか。もうすぐ奏も帰ってくるといます。どうぞ座ってください」
私は彼女にコーヒーをした。
ゆきさんは両でカップを包み込んだ。まるで、その温もりにすがっているようだった。
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「ずっと謝りたかったんです。でも怖くて……お客様のところに押しかけたなんてられたら……」
そこで彼女は言葉をみ込んだ。
“られたら”の先を、にできないでいる。
奥の席で黙って様子を見ていた佐藤さんが、空気を変えるように声をかけた。
「お嬢さん、せっかくベアリバーに来たんだから、会お製の卵サンドでもどうかな」
私はすぐに眉をげた。
「卵サンドはいいんだけれど、それより佐藤さん。ここで会って呼ぶのはやめてって言ったわよね」
「そうでしたっけ」
とぼける佐藤さんを見て、ゆきさんがしだけ笑った。
「会なんて肩きだけよ。私はここでコーヒーを入れているだけなんだから、気にしないで」
そう言った、カウンターに置かれたゆきさんのスマートフォンが鳴った。
着信表示を見た瞬、彼女の顔が凍りついた。
体がびくりとこわばり、そのままけなくなる。
やがて留守番メッセージを促すアナウンスの、鳴りつける声が内に響いた。
「勝に休んでどういうつもりだ。あの窓で叱責されていた声、だ。ババアとガキに文句をつけたくらいで罪悪のつもりか。く来い。おの代わりはいくらでもいるからな」
メッセージが終わっても、ゆきさんはスマートフォンを握り締めたままけなかった。
指がくなっている。
私はゆきさんのに、そっと自分のをねた。
40の湯が、瞬だけよみがえった。
あの、自分が言ってほしかった言葉を、私は今、目のの彼女に言った。
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